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ヤンキーガールと意地悪ボーイ

俺の彼女は口が悪い。
そこらのヤンキーよりも口が悪い。


「うわあぁ負けたああぁぁっ!」


俺の目の前で悔しがる彼女。
今にも携帯ゲーム機を遥か彼方までぶん投げそうな勢いだ。
俺の持っているゲーム機には、winの文字がぷかぷかと浮かび上がっている。


「はい俺の勝ちー」


当たり前のことを言ったら鬼の形相で睨まれた。
まあ長年付き合ってる仲だから怖くもなんともないんだけど。

彼女はボタンを連打して、画面上に浮かび上がっている負けの表示を消そうと躍起になっている。
俺はと言うと、腹減ったなー明日仕事だるいなー
なんて、ゲームと関係ないことをつらつらと考えていた。

腹が減ったので台所から何か持ってこようと立ち上がろうとした時、手首をガシッと掴まれた。


「ふっざけんな!勝ち逃げする気かよ!有り得ねえ!死ね!もう一回!」

「え、まだやんの?」

「わたしが勝つまでやる!」


いつになることやら。
ため息混じりの心の声は形になることはなかった。
そんなこと言ったら確実にグーかキックが飛んでくるだろう。

睨まれるのには慣れてるけど、殴られたり蹴られたりすると痛い。
しかも加減しないからマジで痛い。

座り直す前に、駄目元でインターバルを提案する。


「ちょっと…俺、腹減ったんだけど」

「そんなの知らん!」

「」

「ぶっ殺す!」


ぴしゃりと言い放たれる。
こうなると誰にも止められない。
火がついたら自分の気が済むまで止まらないのがコイツだ。


「しょうがねーな」


元の位置に座り、テーブルの上にあったゲーム機を持つ。
相手は既にスタンバイ済みだ。
鼻息を荒くして俺を待ち望んでいる。


「次こそ叩きのめすっ!」

「はいはい」


そこらの女の子より口は悪いかもしれないけれど
こうやって子どもみたいにすぐムキになるところが可愛くてすき、だった。

なんて本人に言ったら確実に殴られるから言わないでこころの中にしまっておく。


いつもそうだ。


コイツは褒め言葉を素直に受け取らない。
こっちが好きだの愛してるだの言うと、返事代わりに最高の罵り言葉である「死ね!」が返ってくる。
そう言いつつも顔は真っ赤で、またそれが可愛いんだ。

そんな言葉達を素直に受け取ることがあったら、所謂それ“青天の霹靂”と言えるだろう。
雨どころがひょうが降るな。いや霰かも。
もしかしたら槍が降るかもしれない。

いや、降ってくるのは罵倒の言葉と腹パンか。


画面から視線をずらす。
目を見開いてゲームに熱中する彼女が、やっぱり可愛くて。
手元が疎かになった瞬間を狙われた。


「もらったあっ!」

「おっと」


間一髪で彼女の攻撃を避ける。
彼女が動揺するのが分かった。
その隙を見逃さなかった俺は、クリティカルヒットを叩き込む。


「テメー、なにすんだよ!痛ぇじゃねーか!」


あなたは痛くないでしょうに。
自然と口元に笑みが浮かんだ。


決着はあっという間についた。


「…また負けたー」


シュンとした表情で画面を見つめる彼女。
今回こそは勝てると思ったのだろう、それ故にショックを隠しきれないようだ。


「どーする?もう一回やる?」


火に油を注ぐように煽ったのは、ムキになる彼女が見たかったからだ。
どんな罵倒の言葉が返ってくる?と、内心ワクワクしてた。
さっきまでのしおらしい表情はどこへやら、悔しそうに唇を噛んでそれから吠えた。


「当たり前だろーが!勝つまでやるって言ったろこのハゲ!」

「…ハゲてねーし」

「いいからほら、やるよ!」

「でもお前、電車なくなるぞ?」


気になるのは電車の最終時刻だった。
翌日は二人とも仕事だ。
けれど彼女はそんなのお構いなし、らしい。


「今日は泊まってく」

「へっ」


予想外の提案になんとも間抜けな声が漏れた。


「なに、文句ある?」

「いや…ねーけど」


彼女が家に泊まる。
それに文句を言う理由がない。


「むしろ明日大丈夫なのかよ、お前」

「大丈夫、なんとかなる」

「」

「ほら、早く早く」


絶句してる俺の服の袖を引っ張って急かす彼女。
なんとかならなくても知らねーぞ、俺は。
ふう、と小さくため息ついて、ふとひらめいた。


リスクは高いけど、やってみる価値はあるかもしれない。


ゲーム機を床に置いて、彼女に向き直った。


「…なあ」

「なんだよ」

「自分が勝つまでやるだの、今日は泊まるだの、散々ワガママ言っといてそんなに偉そうな態度なワケ?」

「…」


視線をちょっと逸らした、彼女。
俺の態度の変化にどう対応するんだろうって思ったから、キレてる演技をしてる訳で。

口のニヤケを隠すために、自分の首元をさすった。


「…ごめん」


小さく聞こえた謝罪の言葉だけじゃ足りなくて。


「それだけ?」


なんて意地悪すると、「じゃあ他になにがいるんだよ」と半ギレされた。

これは…。
ちょっと無茶な注文も、もしかしたら聞いてくれるかもしれない。
そう思ったから、こんな提案をしてみた。
いつもの彼女だったら絶対聞き入れてくれない要望。


「可愛く甘えてみて」

「なっ!」

「ほら、早く」

「ぅ…」


さあ、どんな風に甘えてくるのだろう。
あるいは、罵倒の言葉が返ってくるのか?

様々なパターンを思い浮かべていると、彼女がゲーム機を床に置いた。
そして手を付き、すっと俺に近付いてくる。


瞬間、重なる唇。


急な出来事に、目を閉じることさえ忘れてた。


「こ…れでっ、いい?」


開口一番、照れ臭そうに俯く彼女を見て
理性が切れるスイッチが入ってしまったらしい。

元の位置に戻りかけた彼女を引き止め、そのまま強引にキスをした。



ヤンキーガールと意地悪ボーイ



その可愛い反応は反則だろ!

唇を割って舌を捩込もうとした俺の腹に、綺麗に入ったパンチ。
走る痛みに驚き、距離を置いて彼女を見ると
わなわなと肩を震わせながら赤面していた。


「な…あ、ありえねえ!死ね!」


…いつもの言葉も、可愛く思えてしまうあたり
重症、なのかもしれない。




【超久々更新。
素直になれない彼女と、彼女で遊ぶ彼。
いいねえいいねえ!笑】

下手くそな愛情表現とキミとボク。

「いちいちうっせーな、このブス!」

「なによ、このチビ!」

「俺は今、成長期だっつってんだろ!」

「いい大人が成長期なんて夢みがちなこと言ってんなっつーの!このハゲ!」

「テメー、誰に向かって口きいてんだ!?」

「あんたよ!あんた!!もういい、勝手にすればいいじゃない!!バーカ!!」


寒い夜に、二つの怒声が響いた。



そうして彼女は旅に出る



あいつがバンドを組んで数年
あたしとあいつが付き合って数年
あいつのバンドがメジャーデビューして数年
(具体的な年数が出てこないのは、忘れてしまったから)

思い返すと、随分長い時を一緒に過ごしてきた。
つってもその大半は
他愛もないケンカで埋め尽くされているけれど。

彼氏彼女、と言うより
同士、みたいな
戦友、みたいな
そんな関係の方がしっくりくるあたし達

結婚、

意識すると、むず痒くなってくるその響き
何度も憧れ、
何度も夢見ただろう

でも、こいつと結婚して
末永くやっていけるのだろうか、
とも思う。


タバコに火をつけようとして、家に忘れてきたことを思い出した。
くっそー。


怒り心頭になりながらも
あたしのパーカーの左ポケットには
携帯電話が落ち着いた様子で鎮座していた。

月天心。

こんな時間にあたしの愚痴を聞いてくれる人なんて
あの人しかいない。
携帯電話を開いて、アドレス帳から
あの人の電話番号を調べた。


発信。



あいつのバンドのリーダーは、ケンさんと呼ばれてる人だ。
一応年下なんだけど、何故かさん付けで呼んでいる。

今、そのケンさんとあたしは
ファミレスで向かい合って座っていた。


「で、今度は何があったの?」


ドリンクバーのメロンソーダをストローでじゅるじゅる飲みながら、
ケンさんが尋ねる。


「あたしの料理をまずいって言いやがった」

「そりゃまたストレートだね」

「焼きビーフンが食べたい、って言われたから、めっちゃ頑張って作ったのに」

「へえ」

「それをあいつ、野菜が固いとか味が薄いとかぬかしやがるから」

「うんうん」

「そんな細かいこと気にしてるから背が伸びないんだよって言ってやった」

「あー、それ、地雷だね」

「うん。いちいちうるせーってキレられた」


そーいや。

先日も大家さんから
近隣から騒音の苦情が来てる
と、言われたんだった。
それをあいつに言うと

んなもん知るか!

キレた。
細かいことでもいちいちキレるから

カルシウムが足りないのかな?

そう思ったから
その夜は牛乳鍋(本当は豆乳鍋にしたかったんだけど、買いに行くのがめんどくさくて)を作ってあげた。
そしたら


「こんなグロテスクなもの、食えるか!」


って、またキレられた。
じゃあ食うな、って言ったら
うるせーブス、って返ってきたから
あたしもキレて
またケンカ。

次の日、たまたまゴミステーションで会った大家さんに
すごく嫌な顔をされたのを、覚えてる。


「もう別れたい」

「…とか言って、別れたくないくせに」


ケンさんはいつの間にか運ばれていた
出来たてのハンバーグを、ご飯と一緒に食べていた。
上には半熟の目玉焼きがこれ見よがしに乗っていて、食欲をそそられた。

あたしの頼んだパフェはまだか!


「あいつは素直じゃないからね。精一杯の愛情表現なんじゃないの?」

「、」

「俺は恥ずかしがってると思うけどなあ」


愛情。

今のあたし達には縁のないような言葉に聞こえる。
二人の間に、そんな甘ったるい感情が存在しているのだろうか?

アレ?

じゃあ、なぜ、一緒に住んでるんだろう。



と、その時だった。



〜♪



アニメ(魔法少女なんとか)の着信音。
ケンさんの電話からだ。


「あ、ごめん、電話だ」


そう言いながら、ケンさんは立ち上がり、
店の出口へ歩いていった。

こっそり見たあたしの携帯電話には、着信どころが
今どこにいる?
なんてメールも来てない。

彼氏ならちょっとくらい心配してくれたっていいじゃん!

…まあ、あたしが家を出るのはよくあることだから、
向こうも慣れちゃってるのかもしれないけど。


ケンさんが戻ってくる間、暇だったので
ケンさんが残していった、目玉焼きハンバーグを一口いただいた。
美味しかったのとお腹が空いていたこともあって、もう一口食べた。
ますますお腹が空いたので、ご飯と一緒に
ちょっと多めにいただいた。

半分くらい減ったけど、ケンさんなら許してくれるだろう。
どっかの誰かさんと違って。


はあー。


ため息をつく。
すると、視界の端に人影がちらついた。
ケンさんが戻ってきたのかな、と思って顔を上げたけど
そこにいたのはケンさんじゃなく、

あたしの
彼氏だった。


「げっ!」


思わず出たあたしの言葉に
奴はあたしを一瞥しただけで、無言のまま、あたしの正面に座った。

嘘でしょマジかよなんでこいつがここにいる訳なんでどうしてありえないありえないありえない!


家出少女、硬直。
かろうじて声を出す。


「な、」


出てきた声は綺麗に裏返ったので(それでも奴はピクリとも笑わず、無表情のままだった)
咳ばらいをして、もう一度口を開いた。


「なんで、あたしがここにいるの、知ってるのさ」

「んなのどーだっていいだろーが」


アレ?
怒ってらっしゃる?
…てゆーか、なんで怒ってるの?
アレ?あたしのせい?

疑問符だらけのあたしを無視して、
奴は目の前にあった冷めかけの目玉焼きハンバーグを食べ始めた(それ、ケンさんのやつなんだけど)。


「俺、」


食べながら話し始めたので、
あたしは黙ってその様子を見つめる。
けれど彼は、その先をなかなか言おうとしない。


「?」

「俺…」

「…」

「」

「??」


彼がこんなに歯切れ悪く喋るのは始めてだった。
と言うか、変。

すると突然
がーっと目玉焼きハンバーグを口の中にかきこみ始めた。

思ったら、
気管に入ったのか、思い切り咳き込んだ。


「げふっ!」

「汚っ!」

「げほっ、み、水っ!」


丁度タイミングが悪く水がなかったので
(安っぽい漫画じゃないんだから)
あたしは急いでドリンクバーに向かって
氷も入れず水を注いだ。

急いで水を渡すと、奴は急いで飲み干した。


「…」

「…」


なんだか微妙な間。
もやもやするので、何か喋ろうと思った時、だった。


「……俺、お前のこと、好きなんだけど」



…はあ?



一瞬、意味が分からなかった。

奴を見ると、照れ臭い表情を見せまいと
口をへの字にして、頭を掻いていた。


…あー。
そっか

あたし、この顔がすきなんだ。
滅多に見せない、
頼りなさそうな表情をしている瞬間の彼が、
すき、なんだ。


これって愛情?


よく分かんない、けど
その彼を近くで見たくて、傍にいるのかもしれない。




【ごめん最後の方意味不明\(^o^)/
声弦さん登場シーンで力尽きてしまったorz
もっと練習しないとなあ

声弦さんは愛情表現下手くそっぽいよねー笑
不器用な人、嫌いじゃないよ!
鯵缶メンバー、これにて終了!
しかしまだまだ熱が冷めやらぬので
もうしばらくお付き合いくださいませ】





(はい、もしもし)

(俺。あのさあ、あいつ、そっちに行ってない?)

(さあね)

(…なんだよそれ、ケンカ売ってんのか?)

(待ってばかりじゃなくて、たまには迎えに行ってあげたら?)

(うるせーな!関係ねーだろ)

(いい加減素直にならないと、愛想尽かして離れていっちゃうよ)

(…)

(なんなら俺が貰っちゃおうかな)

(て、テメー!何言って)

(〇〇駅のガスト、そこにいるから。早くしないと、二人でどっかに行っちゃうよ)

(…っ!)


通話終了。


「…お節介すぎたかな?」


そんな、もう一つの物語。

とある家での料理対決の、ほんの一コマ。

「お…美味しい」

「今日の勝負も、俺の勝ちだな」

「く…くやしーっ!」



とある家での料理対決の、ほんの一コマ。



奴と料理勝負をするようになって、もう数年経つ。
ことの発端は、
奴の家に遊びに行った時に食べた肉じゃがが
とても美味しかったから、だったと思う。

以後、あたしは
奴に料理勝負を挑むようになった。
勝敗の決定は、

どっちの料理が美味しいか

と、至ってシンプルな判定方法で
それでもあたしは、奴に勝ったことがなかった。


なぜ!
料理本を見て一生懸命研究してるのに!
月に1回、お料理教室にも通ってるのに!
それに対し奴は、テレビにも出るくらい
有名なバンドのドラムスで
練習、ライブ、ツアー、テレビラジオ出演とか色々あって
料理を練習する暇なんか、全くないはずなのに!


なぜ!なんで!どうして!


何度挑んでも、どれだけ自信があっても
いつも、奴の料理の方が美味しかった。
負ける度にorz←これ、屈辱のポーズね。


だって!
悔しいじゃない!
料理で女が男に負けるなんて!(アレ?偏見?)
こうなったら意地でも勝ってやる!
って、鼻息荒くしながら料理の研究をして
もう何年経つんだろう…

あたしが美味しいって言わなければいい話なんだけど
ぶっちゃけ、こいつの料理は美味しいし
どっちも美味しいって言わなかったらドローだけど
それじゃ勝ったことにならない。


はあー。


「…くやしい」

「ん?」


目の前に座ってる憎きライバルは、あたしが作った料理(れんこんと鶏肉のオイスターソース炒め)を
ご飯と一緒に、ぱくぱくと食べていた。


「いや、でも最初の頃に比べたら上手くなったよ。美味いし」

「…慰めのコメントはいらない」


あたしは!
あんたに!
美味しい!
って
言わせたいんだ!!
(言わせたい、ってのがポイントね)

そのために努力、してるんだけど
どうして実らないんだろう。

くっそー。

同じ食卓に並べられた、奴の料理を箸で一つまみ。
絶妙に味付けされた醤油味の煮物は、あたしの舌に大ダメージを与えた。


「なんでこんなに美味しいのさ!絶対嘘!詐欺!有り得ない!!」


箸を乱暴に置き、悶絶しそうなくらい激しく床に転がる。
煮物に彩りを添えているはずのきぬさやにすら
意味不明な怒りを覚えた。


「こら、行儀悪いことすんな」


怒られて、しぶしぶ起き上がる。
なんだか子どもみたいで、格好悪さに、さらに拍車をかけてるみたいだ。
第二次反抗期?


「今は晩ご飯の時間。暴れる時間じゃありません」

「…」


言ってることが間違ってないのが、さらにムカつく。
ムカついたから、煮物の肉を全部あたしの取り皿に入れてやった。


「あ!俺の肉は!?」

「これはもうあたしの肉ですー。文句は言わせませーん」

「…子どもか、って」


苦笑いされる。
どうせ子どもだよ、バカ

悪態をついた。

どんどん少なくなっていく、あたしの料理
本当に美味しいのか、疑問になったから食べてみたけど
やっぱり、こいつが作った煮物の方が美味しい。


「にしても、今までで一番美味いよ。ご飯が進むね。つーことでおかわり」

「自分でよそえばいいじゃん。そして髭に米粒ついてる」

「マジか」


カッコつけて髭なんか伸ばしてるからだ、
と言うと
自分のアイデンティティを確立させるためだ、
とか
訳の分からないことを言い出した。
なんて返せばいいのか分からなかったので
あっそ、と、適当に返しといた。


「早くおかわりよそってくれよ。まだご飯あったはずだし」

「自分で盛れ」

「お前の方が近いじゃん」

「…」


確かに。

茶碗を引ったくると、立ち上がって台所に向かった。
ご飯をよそったついでに、勝手に冷蔵庫を開けて物色する。
缶ビールがあったので、頑張って片手で二つ持った。


「え、まさか飲むの?」

「今日はやけ酒する!」

「無理しない方がいいんじゃね?ただでさえあんまり強くないんだし」

「おだまり!」


茶碗と一緒にビールも渡す。
フタを空け、一気に喉に流し込む。
苦い炭酸が、やけに心地好かった。


「おいおい、知らねえぞ?どうなっても」

「大丈夫。帰れないくらいに酔っ払ったら帰らないから」

「…それは俺ん家に泊まるってことか」

「そーいうこと」


ビールを飲み、ご飯をかきこむ。
あまりアルコールを飲まない分、なんだか今日はたくさん飲めそうな気がした。


その自信が
よろしくなかったのかもしれない。



目の前にいる女は、べろんべろんに酔っ払っていた。
俺、止めたんだけどな。

顔を真っ赤にして、呂律の回ってない状態で
俺の名前を連呼している。

完全に酔っ払いじゃねえか!

こりゃ俺ん家に泊まってく展開だな
せめてベッド周りは片付けとくか。
(怪しいものはないけど)


そんなことを、ぼんやりと考えていた時だった。


「ねえ〜」


軟体動物みたく、ふにゃふにゃしながら俺を見つめる。
ふとした拍子にテーブルのものをひっくり返されると
後片付けの掃除がめんどくさいので
食器類はあらかじめ、台所のシンクの中に避難済みだ。


「なんだよ」

「なんであたしはあんたに勝てないんだろう〜?」

「いや、だから、お前の料理は美味いって」

「うへへ、ありがと〜」

「…」


困った。

何が困ったって、この、いつもと違う雰囲気だ。
こいつ、酔っ払うと、結構可愛くて素直になるんだよな。
さらに、俺も酔っ払ってるときてる。

何かがあってもおかしくないこの状況で、
なにもないと安心しきってるこいつの無防備さが、
うっかり舌を滑らせた。


「…俺の、」


いつも素直でいればいいのに。
まあ、俺もだけど。


「俺の料理が美味いの、何でだと思う?」

「へ?」

「まず、料理は目分量じゃ美味いもんも美味くならねえんだ。それから…」



料理は、小さじ一杯の愛情。



何言ってんの、愛情なんて、あたしはいつも
おたま6杯くらい入れてるよ!

…へ?



【小さじとおたまのかけあいは、実際に太鼓さんと声弦さんがやってたのをパクった
太鼓さんの料理一回食べてみたい!
イメージとしては和食が上手そう!

こうなりゃ書きます、声弦夢←】

おしゃべりな沈黙

わたしの彼氏さんは、無口だ。



おしゃべりな沈黙



付き合って、もうすぐ3年、
なんだけど
彼は有名なバンドのベース担当で
普段はスタジオで練習、シングルやアルバムのレコーディング
それが終わったら、今度は全国ツアーやら定期ライブやらで
長い時は、半年も帰ってこない。

わたしはいつも、彼の帰りを待っている。
雨の日も晴れの日も暖かい日も寒い日も、ずっとここで待ってる。


さみしくない?
結構寂しい。


だってだって!
所謂これ、

エンキョリレンアイ

ってやつでしょ?
3年付き合ってるとはいえ
一緒にいた時間<別々の時間
って
どーいうことなの!?
恋人同士でこんなのって有り得る!?

いや
ワガママも言えないんだけどね。
彼を選んだのはわたしだし
そもそもワガママを言おうにも
家にいないことが多いし
メールや電話って手段もあるけど
忙しいだろうし。
ていうか、彼
わたしと一緒にいても、あんまり喋んないし。


八方塞がり。


それでも彼の帰りを待つのは、やっぱり彼のことが
すき、だから?
なんだろうか。

曖昧。


「はあー」


一人ぼっちの部屋で、大きなため息をつく。
今日も練習だって。
帰りが遅くなるって。
このままじゃ、ベースに嫉妬しちゃうって。
3年目の安定期にして、このままでいいのかな?って、思っちゃうって。
だって
彼のこと、何も分からなくて。
全然一緒にいれなくて、寂しくて。

この現状に、不満ばっかり。


「…やめようかな」


嫌なら、やめればいいのに。

そんなことを考えて、それは嫌!
と、じんわり涙が出た。

あーあ
どうしてこうも、すれ違い。



チャイムの音で、目が覚めた。
どうやら、泣きながら寝ていたらしい。
まぶたが重い。
きっと彼が帰って来たんだろう、なんて言い訳しようかな?
考えながら、立ち上がった。


ドアを開けて、向かいあったのは
彼とは違う、けれど
よく知ってる人だった。

彼が入ってるバンドの、ドラムの人。
わたしを見るなり、苦笑い。


「きっ…」


名前を言いかけてやめた。
ここは玄関で、あんまりうるさくすると
近所迷惑になってしまうから。


「ごめんね」


ドラムの人は、そう言った。


「いえ、でも、なんで…?」


わたしの疑問に、ドラムの人は
また苦笑いした。
よく見ると、誰かを背負ってる。

…まさか?


「実はさ、コイツが泥酔しちゃって」

「え」


慌てて靴を履いて、外に出ると
わたしの彼氏さんが、ぐったりと
ドラムの人の背中にもたれかかっていた。


「な、え、」


声が出なかった。
だって、酔っ払って帰宅、なんて
初めての出来事だったから。


「珍しいよね、こんなになるまで飲むの」

「あ、…はい。初めて見ました」

「ちょっと、お邪魔していい?タクシーの中で眠いって連呼してたから、多分爆睡してるわ」

「あ、は、はい。」


状況、理解不能。
彼氏さんは赤ちゃんのようにぐっすり寝たまま
家に収容された。



いつもの寝顔

やや赤い、ほっぺた。

ドラムの人は、彼氏さんを乱暴にベッドに下ろし(それでも起きなかった)、
ふう、と一息。
なんだか申し訳なくて、ありがとうとごめんなさいの気持ちを込めたコーヒーを出した。


「やめなよ、って止めたんだけどさ」


キラリ、と
十字架のネックレスが鈍く光る。


「すいません、わざわざ」

「いや、別にいいんだ。ただ…」


ぷっ、と吹き出す。



疑問符が浮かぶ。
まさか、わたしが笑われてる…訳、ないよね?
(そうだった、泣いたのと寝起きで顔がぐちゃぐちゃだ!)(だからか!?)


「これ、あいつが起きたら渡しといて欲しいんだ」


差し出されたのは、四つ折りにされたルーズリーフだった。


「…これ、何ですか?」

「見たら分かるよ。けど、見たってこと、あいつに言わないでね」


そう言うとドラムの人は立ち上がり、
ごちそうさま
と、笑顔で言った。


「俺、もう帰るわ」

「あ、そうですか…本当にありがとうございました」

「どういたしまして」


玄関先まで送る。
帰り際に、


「愛されてるね」


そんなことを、言われた。



(なんだろう、これ)


紙の端を掴み、まじまじと見つめる。


見たら分かるよ
けど、見たってこと、あいつに言わないでね


何が書いてあるんだろう?
知りたくて、見たくて、
恐る恐る、開いてみた。

一番上には、でかでかと
彼の字で、こう書いてあった。


3年目の記念日サプライズ!



…。

ええええええええっ!?!?!?

続けて見ていくと、
“記念日プレゼントをあげる!”
とか
“料理を作ってあげる!”
とか
“好きなものを買ってあげる!”
とか
色々なことが書いてあった。

なんだコレ!!!


もしかして、もしかして…
彼氏さんが、考えてくれてる…サプライズ、なのかな?


そう考えたら、
うあ。
なんだか恥ずかしくなってきた。

ほっぺたを両手で覆い、溢れてくるニヤニヤを抑えようとするけれど
嬉しくて、嬉しくて。

一番下に小さく書かれてる

“プロポーズする。絶対”

って言葉に、不覚にも泣き笑い。
彼は、彼なりに
わたしのことを、考えてくれてたんだ。


無口な彼だけど
彼が喋るのを待つのも、悪くない。
そんなことを、考えた。



***

(…おはよう)

(おはよ。具合はどう?)

(…良くない)

(そう言うと思って、おかゆ作っといたよ)

(…どうも)

(そうそう、この紙、預かってるよ)

(…!!)



【鯵缶四弦さんをイメージして書いたんだけど…
アレなの。わたし、不器用な人がすきなの!笑

このまま鯵缶の残りふたり(太鼓、声弦)も書いちゃおうかなー笑】

日はまた昇る

「いや意味分かんないですからね」


あたしは、あたしのベッドにもたれて座りながら
ご機嫌でギターの練習をしてる男にそう吐き捨てた。

こちとらクレーマーババアと朝から晩まで死に物狂いで(実際に死にはしないけど)対決してきたんだ!
疲れてんの!今ものすごく疲れてんの!
アンタの相手してる暇なんかないの!


「おかえり。遅かったね」

「…」


心身共にくたびれて帰ってきた今のあたしには、
誰かと話す気力すら、ひとカケラも沸かなかった。
と言うか、喉が声を出すのを拒否しているみたいだ。

はあー

ため息をつきながら
鞄をベッド上に乱暴に放り投げ、
そのままベッドの正面にあるソファーに倒れ込む。
その時、額をひじ掛けにぶつけ、鈍い痛みに悶えた。


「何やってんの?相変わらず馬鹿だね」


声の主を涙目で睨むと、へらへらと笑っていた。
だけど突っ掛かる元気も余裕もなく、ソファーに突っ伏す。
あーもう疲れた。このまま泥になりたい。泥になってどろどろ溶けたい。


「そんな格好で寝ると、風邪引くよ」


ソファーに顔を埋めてはいるものの、ちっとも眠くなかった。

同じ空間に誰かがいるからとか、
疲れすぎて覚醒してるからとか、
まだよい子は寝る時間じゃないからとか、
理由はよく分からないけど。


首だけもそもそと動かし、相手を見つめる。
てっきりあたしの方を見ながらニヤニヤしてるのかと思えば
そんなことはなく
真面目な顔で運指を確認しながらギターを弾いていた。


あ、この曲、いつも弾いてるやつだ。



どんなに有名になっても、コイツはあたしの家に来ることを止めなかった。
あたしがどんなに冷たくあしらっても
疲れ果てて寝てしまって、コイツのことをほったらかしにしても
数日後には、勝手に家の鍵を開けて
勝手にギターを弾きながら、勝手にくつろいでいた。
(全国ツアーがある時は、間が空くけど)(お土産を持ってきてくれるのはありがたい)

別に
そーいう雰囲気になることもなく
そーいう雰囲気を作ることもなく
ただ、ギターを弾きに来て
ご飯を食べて
そして帰る。

付き合ってる訳じゃない。
昔からの友人、
所謂腐れ縁 みたいなものだ。

こんな、仕事一筋のつまんない女の所にしょっちゅう来るなんて
ホントに、変わった奴だ。


「その曲好きなの?」


あたしの声に、目線だけ上がる。
音楽が止んで、少しの間、世界が静まった。


「うーん、どうかな」

「何ソレ」

「曲調は面白いよね。運指は苦手な部分が多いけど」


全く答えになっていない。
天然発言が多いのは、今に始まったことではないけれど。


「いつも弾いてる」

「そう?じゃあ、違う曲を弾こうかな」

「そうじゃなくて…」


話が噛み合わないのも、いつものことだ。
別にそれでイライラすることもない。
なぜなら、あたしの中にあるイライラは
いつも全部会社で使い果たしてくるからだ。


あー顔洗いに行かなきゃ
ご飯も食べたい
着替えなきゃ、スーツにしわがつくなあ
そんなことを、ぼんやりと思っていた。


(その間、お互い無言。)


出来るだけ最小限の動きでジャケットを脱ごうとしたけど、当たり前のように上手くいかない。
それどころが、ソファーから落ちそうになった。


「何してんの」

「見りゃ分かるでしょ」

「スーツって大変だよね。俺も昔、サラリーマンやってたから分かるよ」

「知ってる」


サラリーマン辞めて、バンド組んで、
んで、あっという間に成功して。

あたしも、スーツを脱いだら
何か変わるのだろうか。


でも


結局、脱ごうとしても上手くいかなくて
何度も何度ももがいて、地面に落ちそうになって。

今では
何が正しいのか、何も分からなくなってしまった。


「…ねえ」


いつもとは違う、テンポのいい曲だった。
あたしが好きな曲だ。

何回も、何回も、ループして聴いたこの曲は
あたしのソウルソング(って言うのか分からないけど)みたいなもんだった。

でも今は、どれだけ聴いてもテンションが上がらない。
どうやらクレーマーババア達は、
か弱いあたしから体力と気力を根こそぎ奪っていったらしい。


「あんたはさ、どうやって頑張ろう!って気になるの?」

「何、いきなり」

「ファンからクレームきたり、偉い人から色々言われたり、メンバーと喧嘩したり、色々あるんでしょ。そんな時、どうやってテンション上げてんの?」

「そんなの簡単だよ」

「えっ?」


珍しくいいアドバイスが聞けると思い、顔を向ける。
期待に胸を膨らませ、目を輝かせた、あたしが馬鹿だった。


「頑張る」

「……」


そーかいそーかい。
抱いてた期待は、ため息と共に口から出ていった。

だけど
全身から空気が抜けて、ぺしゃんこになった後に
それも悪くないなと思った。


「…頑張れる、かな」


笑みがこぼれる。
悔しいから、

ありがとう

なんて、言わないけれど。


それでも、やっぱり
クレーマーババアは好きになれそうもないよ。

まあ、頑張ってれば、
いつか重たいスーツも脱げるかな。

そう信じて。



日はまた昇る



「でも、女一人だったら養っていけるよ、今の俺は」

「…え?」



【新年一発目からオリジナルでサーセン^q^
男の人のイメージは、勿論鯵缶の六弦さん
最初の曲は“転がる岩、君に朝が降る”次に弾いたのは“ループ&ループ”のつもり
はいはい自己満乙^q^】
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