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ヤンキーガールと意地悪ボーイ

俺の彼女は口が悪い。
そこらのヤンキーよりも口が悪い。


「うわあぁ負けたああぁぁっ!」


俺の目の前で悔しがる彼女。
今にも携帯ゲーム機を遥か彼方までぶん投げそうな勢いだ。
俺の持っているゲーム機には、winの文字がぷかぷかと浮かび上がっている。


「はい俺の勝ちー」


当たり前のことを言ったら鬼の形相で睨まれた。
まあ長年付き合ってる仲だから怖くもなんともないんだけど。

彼女はボタンを連打して、画面上に浮かび上がっている負けの表示を消そうと躍起になっている。
俺はと言うと、腹減ったなー明日仕事だるいなー
なんて、ゲームと関係ないことをつらつらと考えていた。

腹が減ったので台所から何か持ってこようと立ち上がろうとした時、手首をガシッと掴まれた。


「ふっざけんな!勝ち逃げする気かよ!有り得ねえ!死ね!もう一回!」

「え、まだやんの?」

「わたしが勝つまでやる!」


いつになることやら。
ため息混じりの心の声は形になることはなかった。
そんなこと言ったら確実にグーかキックが飛んでくるだろう。

睨まれるのには慣れてるけど、殴られたり蹴られたりすると痛い。
しかも加減しないからマジで痛い。

座り直す前に、駄目元でインターバルを提案する。


「ちょっと…俺、腹減ったんだけど」

「そんなの知らん!」

「」

「ぶっ殺す!」


ぴしゃりと言い放たれる。
こうなると誰にも止められない。
火がついたら自分の気が済むまで止まらないのがコイツだ。


「しょうがねーな」


元の位置に座り、テーブルの上にあったゲーム機を持つ。
相手は既にスタンバイ済みだ。
鼻息を荒くして俺を待ち望んでいる。


「次こそ叩きのめすっ!」

「はいはい」


そこらの女の子より口は悪いかもしれないけれど
こうやって子どもみたいにすぐムキになるところが可愛くてすき、だった。

なんて本人に言ったら確実に殴られるから言わないでこころの中にしまっておく。


いつもそうだ。


コイツは褒め言葉を素直に受け取らない。
こっちが好きだの愛してるだの言うと、返事代わりに最高の罵り言葉である「死ね!」が返ってくる。
そう言いつつも顔は真っ赤で、またそれが可愛いんだ。

そんな言葉達を素直に受け取ることがあったら、所謂それ“青天の霹靂”と言えるだろう。
雨どころがひょうが降るな。いや霰かも。
もしかしたら槍が降るかもしれない。

いや、降ってくるのは罵倒の言葉と腹パンか。


画面から視線をずらす。
目を見開いてゲームに熱中する彼女が、やっぱり可愛くて。
手元が疎かになった瞬間を狙われた。


「もらったあっ!」

「おっと」


間一髪で彼女の攻撃を避ける。
彼女が動揺するのが分かった。
その隙を見逃さなかった俺は、クリティカルヒットを叩き込む。


「テメー、なにすんだよ!痛ぇじゃねーか!」


あなたは痛くないでしょうに。
自然と口元に笑みが浮かんだ。


決着はあっという間についた。


「…また負けたー」


シュンとした表情で画面を見つめる彼女。
今回こそは勝てると思ったのだろう、それ故にショックを隠しきれないようだ。


「どーする?もう一回やる?」


火に油を注ぐように煽ったのは、ムキになる彼女が見たかったからだ。
どんな罵倒の言葉が返ってくる?と、内心ワクワクしてた。
さっきまでのしおらしい表情はどこへやら、悔しそうに唇を噛んでそれから吠えた。


「当たり前だろーが!勝つまでやるって言ったろこのハゲ!」

「…ハゲてねーし」

「いいからほら、やるよ!」

「でもお前、電車なくなるぞ?」


気になるのは電車の最終時刻だった。
翌日は二人とも仕事だ。
けれど彼女はそんなのお構いなし、らしい。


「今日は泊まってく」

「へっ」


予想外の提案になんとも間抜けな声が漏れた。


「なに、文句ある?」

「いや…ねーけど」


彼女が家に泊まる。
それに文句を言う理由がない。


「むしろ明日大丈夫なのかよ、お前」

「大丈夫、なんとかなる」

「」

「ほら、早く早く」


絶句してる俺の服の袖を引っ張って急かす彼女。
なんとかならなくても知らねーぞ、俺は。
ふう、と小さくため息ついて、ふとひらめいた。


リスクは高いけど、やってみる価値はあるかもしれない。


ゲーム機を床に置いて、彼女に向き直った。


「…なあ」

「なんだよ」

「自分が勝つまでやるだの、今日は泊まるだの、散々ワガママ言っといてそんなに偉そうな態度なワケ?」

「…」


視線をちょっと逸らした、彼女。
俺の態度の変化にどう対応するんだろうって思ったから、キレてる演技をしてる訳で。

口のニヤケを隠すために、自分の首元をさすった。


「…ごめん」


小さく聞こえた謝罪の言葉だけじゃ足りなくて。


「それだけ?」


なんて意地悪すると、「じゃあ他になにがいるんだよ」と半ギレされた。

これは…。
ちょっと無茶な注文も、もしかしたら聞いてくれるかもしれない。
そう思ったから、こんな提案をしてみた。
いつもの彼女だったら絶対聞き入れてくれない要望。


「可愛く甘えてみて」

「なっ!」

「ほら、早く」

「ぅ…」


さあ、どんな風に甘えてくるのだろう。
あるいは、罵倒の言葉が返ってくるのか?

様々なパターンを思い浮かべていると、彼女がゲーム機を床に置いた。
そして手を付き、すっと俺に近付いてくる。


瞬間、重なる唇。


急な出来事に、目を閉じることさえ忘れてた。


「こ…れでっ、いい?」


開口一番、照れ臭そうに俯く彼女を見て
理性が切れるスイッチが入ってしまったらしい。

元の位置に戻りかけた彼女を引き止め、そのまま強引にキスをした。



ヤンキーガールと意地悪ボーイ



その可愛い反応は反則だろ!

唇を割って舌を捩込もうとした俺の腹に、綺麗に入ったパンチ。
走る痛みに驚き、距離を置いて彼女を見ると
わなわなと肩を震わせながら赤面していた。


「な…あ、ありえねえ!死ね!」


…いつもの言葉も、可愛く思えてしまうあたり
重症、なのかもしれない。




【超久々更新。
素直になれない彼女と、彼女で遊ぶ彼。
いいねえいいねえ!笑】
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