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すきだから、触れたい。(庭球:桃城)

「ねえねえももた」

「…あのなあ、その呼び方はやめろよな」

「いいじゃんももた、可愛いじゃん!」

「俺の名前は武だっつーの」

「武よりももたの方が可愛いし」

「…あのなあ」

「でさ、ももた」

「ん?」

「…あ、コロッケ買ってこ!」

「は?なんだよいきなり」

「だってお腹空いたんだもん。すいませーん、コロッケ5個下さい」

「おいおい、買い過ぎじゃねぇの?」

「ももたは一人で4個食べるじゃん」

「…ま、そうだけどよ」

「なんだい、お客さん、恋人同士かい?」

「そう見えます?実はただの幼なじみなんですけどね」

「あら、そりゃ失礼。見たところ中学生っぽいけど、学生?」

「青学の2年っス」

「じゃあもう何年も一緒にいる訳だ」

「あー、10年以上は一緒にいるんじゃないっスかね」

「仲がいいってことはいいことだ!5個じゃ喧嘩しちまうだろ?オジサンが1個サービスしてやんよ」

「やった!でも、いいんすか?」

「構わねえよ、ほら、お待ちどうさま」

「わ、ありがとうございます」

「あーダメダメ。お嬢ちゃん、そーいうのは兄ちゃんに持たすもんだ」

「だって、ももた」

「分かってるっつの!ほれ、貸せ」

「おにーさん、ありがとうございます」

「おう!気をつけて帰るんだぞ」

「ウィーッス」

「ラッキーだったね、1個サービスなんて」

「あのコロッケ屋、俺の行きつけ決定!」

「まきば公園でいただきましょう」

「おっ、いいねえ!ってか」

「なに?」

「さっき何か言いかけなかったか?」

「あー…なんだっけ、忘れた」

「なんっじゃそりゃ」

「忘れるってことは、大したことじゃないんだよ、きっと」

「そーかもしれねぇけどよ…あーなんか煮え切らねーな、煮え切らねーよ」

「気にしない気にしない」

「…お前はそれでいいかもしれねぇけどよ」

「思い出したら言うから」

「そーやって言って、思い出さないパターンだろうが」

「あー鞄重い!ももたのチャリのカゴに入れていい?」

「ダメだ!今カゴぶっ壊れてるから」

「直しなよ!あー鞄が重いー!」

「わがまま言うな」

「ケチ」

「ほら、着いたぞ、公園」

「ブランコ!ブランコ!」

「分かってるから、ガキみたいにはしゃぐな!」

「ももた、コロッケちょーだい!」

「へいへい、熱いぞ」

「熱っ!」

「今言ったばっかりだろーが!ったく」

「……ん〜〜」

「お味はいかがですか?」

「フツー」

「マジか」

「フツーです、桃城先輩」

「……フツーだな」

「でしょ?今度は違う味も食べてみたいね」

「また今度な」

「ガッテンだ!」

「何だよそれ」

「うちのクラスで今流行ってんの」

「変なの流行るな、お前んとこ」

「そう?……あ、思い出した」

「何がだよ?」

「さっき言いたかったこと」

「おっ、なんだよ」

「ももたは彼女いたことないんでしょ?」

「ぐふっ!…な、なんだよいきなり!」

「うちはこないだまでいたけど、手も繋いでないしなあ」

「おい、それ、初耳」

「だってお付き合い日数が1日と13時間だもん」

「…それ、付き合ったって言うのか?」

「ビミョーだよね」

「で、なんで別れちまったんだ?」

「息が荒かったから。フーフーって」

「…そんなんで別れるってのも、理不尽じゃねぇのか?」

「でも気持ち悪かったんだもん!」

「まあ、気持ちは分かるような、分からないような」

「でね、ももた!」

「うおっ!なんだよいきなり」

「ももたは女の子とチューしたことある?」

「ぐ、げほっ!」

「汚っ!」

「き、気管に入った…いきなり何を言い出すんだよ、お前は!」

「だってーファーストキスはレモンの味って言うじゃない?」

「まあ、よく言うよな」

「それはホントなのかなあと思いまして」

「キスなんてしたことねーから分かんねぇよ」

「ふーん」

「…」

「…」

「…」

「…してみませんか?」

「はあ!?」

「だって気になるじゃん!ホントかどうか!」

「…いや、お前、…そーいうのは好きな奴と、だな、」

「うち、ももたのこと好きだけど」

「あっさり言うなっ!」

「ダメ?」

「ダメっつーか…ホントに、俺でいいのかよ」

「ももたがいい」

「…それって、俺と付き合いたいってことだぞ?」

「うん」

「…」

「…」

「…まさか、先を越されるとは思わなかったな…ちきしょー」

「えっ、なに?」

「だから、俺も…」

「なになに?聞こえない!」

「だーっ!俺もお前のことが好きだって言ってんだ!文句あっか!?」

「ぎ、逆ギレ!?なんでいきなり怒るのさ!」

「怒ってなんかねぇよ!」

「嘘!怒ってる!」

「いーや、俺は怒ってねぇ!」

「怒ってる!」

「怒ってねぇ!」

「…」

「…」


「「…ぷっ」」


「両想いなのに喧嘩してるうちらって…」

「ま、いいんじゃねぇの?喧嘩する程仲がいいって言うだろ」

「そーだね…なんか変なカンジ」

「そーだな」

「…」

「…」



ちゅ。



はじめてのくちづけはあなたと!



(…で、どうだった?)(んー…コロッケの味がした)(…俺も)




【びば!中学生カップル!
まさやんぐがすきすぎて書き殴った、後悔はしていない\^^/

最初から告白したかった彼女と、告白されて照れまくりの彼】

さよならを告げたのは、どっち?(庭球:千石)

まるで効き目がありすぎる、悪いクスリだった。


最初は、そう
軽い気持ちだった。

可愛いなーから始まって
初めてふたりきりになって
何回も何回も身体を重ねていく内に
段々溺れていって
キミの体温が忘れられなくなって
一回、また一回と会いに行っては
言葉もろくに交わさないまま
求めて、貪って、
欲望を吐き出して


時間制限付きの恋はいつだって安かった。
手を伸ばして届く距離に
キミはいつもいた。


会えば会うほど、自分がダメな奴になっていくのが分かった。
分かっていた。
このままだと、取り返しのつかなくなることくらい

でも
止まらなかった
止められなかった、んだ。


それが本気だと言うのかは、
俺自身も分からなかったけど。


滑稽な話だ。


途切れない人波
叶わなかった夢で溢れかえった路地裏
そして今日も
膨らんだ不安を握りしめて
目がおかしくなりそうなくらい華やかなネオンの下

歩く、歩く。




「こんにちは、千石さん」


窓のない部屋
間接照明だけが怠そうに灯っている

見慣れたベッドの上にはキミがちょこんと座っていて
俺を出迎えてくれた。

キミの目線はいつも宙を泳いでいて
俺を真正面から捉えることはあまりなかった。
でも
その方が都合がいいし
別に困ったこともない。


「あれ?それとも今はこんばんは?嫌ね、一日中こんなところにいると時間感覚すらなくなっちゃって、」

「どっちでもいいよ、そんなの」


彼女の言葉を遮り、柔らかい唇に噛み付く。
勝手に俺の知らないスイッチが入り、頭の中に閃光が走る。

眩しくて、そのままどうにでもなって欲しかった。



「まぶし、ぃ」


ぼそり、と途切れ途切れの吐息の中に聞こえた言葉
彼女に目線をやると、眩しそうに目を細めていた。


「何が?照明が?」


雑に言いながら照明のスイッチに手を伸ばすと、彼女に否定された。


「ちが、っ、千石さんの、髪が」

「俺の髪が?」


俺の髪の毛は少し暗めのオレンジ色だった。
数年前から変わらない色、
なんだか
久々に髪の毛のことを言われた気がする。


「…眩しいって、」


苦笑いが零れる。
初めて言われた台詞だった。


「それだけ?」


宙をさ迷っていた掌が、再び彼女の肌に触れる。
刹那、
小さな悲鳴があがった。
ちょっと乱暴だったかもしれない
それでも彼女は文句を言ったり、怒ったりしなかった。
最初は俺も謝ってたんだけど、段々何も言わなくなっていった。

こうして、麻痺していくのだろう。
麻痺して、いずれ何も感じなくなって、中から腐っていって、



「きよす、み」



急に
彼女が
俺の名前を呼んだ。

でも
俺は
キミの本当の名前を知らない。


「は、っ、…何──。」


不意に絡む
俺の橙色の髪の毛と、彼女の白い指先
ビックリして
一瞬
呼吸を忘れた。

彼女の指先は俺の髪を
ゆっくりなぞって、撫でて、ほどけた。


「清純の髪の毛、眩しくて、きれいね」


そう言った彼女の瞳は
しっかりと俺を見つめていた。


胸が、痛んだ。




「もうここに来ないで」


何もかもが終わった後、彼女は少し悲しそうな顔で呟いた。


「え?な、何、いきなり──」

「まだ間に合う。貴方はわたしと違う、だからもう、ここに来ちゃダメ」


まだ間に合う、貴方なら。と
うわごとのように繰り返す彼女

意味が分からなかった。
ふたりを繋ぐはずの言葉が、ふたりの距離を複雑にして、俺は戸惑って、


「ちょっと待って、意味が分からない」


中途半端に履いたズボンのせいで、足がもつれる。
なんとか彼女の傍に近寄ると、彼女は俺を拒んだ。


「ダメなの、わたし、あなたが」


その先の言葉は、彼女の喉の奥で潰れて消えた。
俺は、小刻みに震える肩を、黙って見つめていた。

ただ、
ただ
黙って。


時間制限付きの恋はいつだって安かった。

でももし、
この時間制限がなくなるのなら
俺は彼女を何円で買うのだろうか


そんなことを考えてしまう時点で、
俺達の間に、



なんて甘ったるい響きは成立しなかったんだ。



じゃあこの気持ちをなんて名付ければいい?



絶たなければ、と思った時には遅かった
クスリの副作用
抜け出せない現実

ヒカリで明日が見えなくなっていって、そのまま。

最初は
踊るような軽い気持ちだった、のに。




【song by:サカナクション“ライトダンス”

(もう隠しきれない、貴方への想い)
(貴女を好きになってはいけないって分かっていたのに)】

恋する少年、愛する少女【庭球:裕太】

彼女の作る菓子は菓子ではなかった。

いや、
見た目は完璧だった。そこら辺のスーパーやコンビニで売ってるようなモンじゃなくて、どっかのパティシエが作るような、お菓子作りの本に載ってるような、とにかく綺麗で食欲をそそる見た目だった。
俺も最初見た時は普通に感動した。てゆーかちょっと泣きそうになった。甘い物が好きな俺にとって、それは寮で出る飯よりも豪華に見えた。

ところが、クッキーもババロアもガトーショコラもカップケーキも、いざ食ってみるととんでもない味がした。
砂糖と塩を間違えたとか
粉っぽいとか水っぽいとか
超甘いとか(それはそれで嬉しいんだけどな)超苦いとか
そんな生易しいものじゃなかった。


そして
もうそろそろ、その時期がやってくる。
女の子がはしゃぐ、あの季節が。



「不二くーん!」


テニスコートの中に響くのは、聞き慣れたいつもの声。
動いてた身体を止めて、声のした方向に視線を向ける。
フェンスの向こうには、他校の制服を着た女がこっちに向かって手を大きく振っていた。


「おっ!裕太、彼女がお迎えに来てるだーね」

「クスクス、羨ましいね」


同じコートにいた先輩達に冷やかされるのも、日常だった。
ニヤニヤと笑う二人を適当にあしらい、額に滲んだ汗を乱暴に拭いながら急ぎ足で彼女の元に向かう。


「お疲れ様ー、来るの早かったかな?」

「いや、ちょうど上がろうと思ってたから、」


気にすんな、と言いかけたけれど
笑顔の彼女を見たら言葉が喉で引っ掛かった。
一瞬で顔に熱が集まる。


「あ、顔赤いよ?水分補給した?」

「な、なんでもねーよ!」


ぶっきらぼうに返事をしてそっぽを向くと、小さな笑い声が聞こえた。


「ここで待ってるから、一緒に帰ろう」

「ん、あ、ああ…すぐ着替えてくるから」

「うん」


さっきよりも急ぎ気味に歩く。


ふたりが寄り添うようになってから、もう半年ちょっと経つ。
なのに、彼女の笑顔は何回見ても慣れなかった。
心臓がドキドキして、身体の芯が熱くなって、急に照れ臭くなって、いつもそっぽを向いてしまう。

それでも、俺は彼女の笑顔がすき、だった。

だから、こうして一緒にいるのかもしれない。
一緒にいたいと、思うのかもしれない。
こんなこと先輩達に言ったら、絶対プロレスの技をかけられるから言わないけれど(地味に痛いんだよな)。
と言うか、この事実を知ってるのは俺だけでいい。


着替え終わってコートに戻る。
フェンスの近くにいた彼女に声をかけた。


「ごめん、待たせたな」

「待ってないよー。先輩達が話しかけてくれたから退屈じゃなかったし」


コート内で自主練をしている先輩達に目を向けると、ニヤニヤしながら手を振ってきた。
柳沢先輩は俺達に向かってなんか叫んでるが、無視することにする。


「帰ろうぜ」

「あ、不二君。柳沢先輩、すごい顔でなんか言ってるけど?」

「あーいいよ、無視無視」


こんな所から早くいなくなりたい。
先輩達の方を見ないようにして、大股で歩き始めた。



いつもの帰り道なのに、景色がゆっくり遠ざかっているのは、君が隣にいるからだった。
どうやら俺の歩幅と彼女の歩幅は大きく違うらしい。

それまで女の子と歩く時は気にしなかったのに、今じゃゆっくり歩くのが癖になっている。
遅いと感じることはない。
むしろ、もっと遅く歩いてもいいくらいだった。

…言えないけど。


「そういえばさ、」


口火を切ったのは彼女の方だった。


「もうそろそろだね」

「なにが?」

「バレンタインだよ、バレンタイン!」

「あー…」


すっかり忘れてた。

と言うか、今までバレンタインと全く無縁の生活を送っていたので、そんなイベント気にも留めなかった。


「(…でも今年は違うんだな)」


うわ。
なんか恥ずかしくなってきた。
頬が赤くなっていくのが、なんとなく分かる。


でも次の瞬間、あることに気付いた。
変な汗が背中をつたう。

そうだった、彼女の作るお菓子は──。


「それでねっ」


彼女は不意に足を止め、手提げ袋の中から何かを取り出そうとする。
まさか…
眉毛が小さく痙攣を起こす。
もう嫌な予感しかしなかった。


「クラスの友達にもあげようと思って、試しにチョコレートマフィンとブラウニー作ってきたんだ!試作品だけど、不二君にもあげるね」





マジかよおおぉぉっ!!!!!



テニスラケットで殴られたような鈍い痛みが頭に走る。
差し出されたタッパーの蓋を恐る恐る開けると、美味そうなマフィンとブラウニーが所狭しと並んでいた。香ばしい匂いが辺りを包む。


「初めて作ったから、味に自信はないんだけど…」


眉毛の痙攣が激しくなる。
生唾をごくりと飲み、目の前に鎮座している菓子の味の想像をしたけれど、想像すればするほど顔がひきつってきた。
心なしか、胃がキリキリ痛んできたかもしれない。


「さ…サンキュ…」


感謝の言葉も、何故か掠れて出てきた。
手に汗が滲む。

いっそのこと、手が滑ったフリをしてタッパーを落とそうか…。
いや
それは出来ない!
なんとなく出来ない!
でもこれを食べるなんて俺には出来ない!

とりあえず寮に持って帰ろう。
そっから柳沢先輩とかに無理矢理食べさせよう。
そう決意した時だった。


俺のお腹が絶妙なタイミングで空腹を告げた。


「あ…」

「不二君、お腹空いてるの?…そうだよね、練習した後だもんね」


彼女は心配そうな表情で俺を見つめるが、何を思い付いたのか急に笑顔になった。


「不二君、お腹空いてるなら、これ全部食べていいよ!」

「っ!?」

「わたしったら馬鹿、練習の後なんだからもっとさっぱりしたもの作ってくればよかったね」

「あ、いや。俺…は、」

「ルドルフのみんなにも差し入れしようと思ったんだけど、柳沢先輩も木更津先輩も、練習中だからいらないって」


柳沢先輩がすごい顔でなんか言ってたのはこのことかあああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!


今更後悔しても仕方ない。

持って帰ることも出来なくなった今、この菓子達を食べなければいけない。
出来るだろうか?俺に、こいつらを食べ切ることが出来るだろうか?
…いや、出来ねえ!無理だ!
殺傷能力のある食いもんを喜んで食う奴がいるかって話だ。
いねえよな?

でも俺は食わなきゃなんねえ。
だって…。



「…もしかして、食べたくない?」



キミの笑顔が見たいから!



そんなことねえよ!
なんて強がり少年。
口の中一杯にお菓子を詰め込んだ瞬間、半端じゃない辛さが爆発。
涙目になりながら必死に食べる彼、それでも彼女は嬉しそうに笑った。


「すごい、そんなにお腹空いてたの?よーしっ、不二君にあげるチョコレート、頑張って作るね!」

「むぐ……う、うん」



【ゆーたが可愛すぎてふぉぉぉー!笑】

見上げた空は、君に繋がっていたんだ【庭球:跡部/↓の続き】

彼の、笑った顔がすきだった
彼の、「こっちに来い」と呼ぶ低い声がすきだった
彼の、日に透ける茶色い髪がすきだった
彼の、わたしより少しだけ熱い体温がすきだった
彼の、薄くつけられた香水の香りがすきだった
彼の、テニスに打ち込んでる姿がすきだった
彼の、広い背中がすきだった
彼の、たまに見せる切ない表情がすきだった


そう
全部過去形。



心地好い夢は終わって
わたしはひとりぼっちになった。
それは一番望んでいなかったことだったのに
夢から覚めたわたしは
なぜか、ほんの少しだけ
こころが軽くなった ような、気がしていた。


目の前で揺れて滲む、だいすきなあなた
かなしくなんかない
のに、
さっきから涙が止まらないのは、なぜ?

すっかり冷めきった紅茶を一口だけ飲んだら、
いつもの味よりもしょっぱかった。


さようならさようなら。
私たちはまた
交わることのない別々の世界で
ひとりきりで生きる。




「何、オマエ、跡部と別れたの!?」


朝日を浴びながらだらだら歩いてると、同じクラスのがっくんに話しかけられた。


「うん」


何でもないように言うけれど
がっくんはわたしの予想外の言葉に驚いていた。


「なんだよ、何でだよ!?俺らに黙ってなんで別れちまったんだよ!」



なんで?
質問の意味が分からない。
だって
そんなの、最初から決まってた。


「わたしとけいちゃんは、住む世界が違うから」

「お前…それ、言わない約束だったんじゃねえのかよ」

「だってそうじゃん」


足が重い。
学校に行きたくない。
消したい。
脳の奥にこびりついてる、彼の姿を。


「…やっぱりあれか、ドイツか」


ぼそり、とがっくんは呟いた。
その言葉はわたしの耳にしっかり届いていた。
けれど
わたしは何も言わなかった。


「…ドイツって、あれだよな?ピサの斜塔」

「…違うよ、ドイツはフランクフルトとビールだよ」

「そだっけ?くそくそ、腹減ったな」

「そーだね」


ふたりで立ち止まって空を見上げる。
がっくんは口が大きく開いていた。

青空はどこまで広がってんのかな
日本とドイツの天気は違うのかな
とか
そんなことを考えて
胸の奥ががチクリとした。

そんなこと考えたって
どうにもならないのに、ね。


「…って!やっべえ、こんなことしてる場合じゃねえよ!遅刻するし!おい、走るぞ!」


がっくんは先程のアホ面から一変
急に真顔で焦りだした。
勢いよく走り出す。

でも、わたしの足は、彼を追いかけることを嫌がった。


「おいっ、何やってんだよ!行くぞ!」

「あー、がっくん先に行ってて。すぐに追いつくから」

「早く来いよ!くそくそっ、全速力だっ!」


がっくんは光の速さに負けないくらいのスピードで走っていく。
わたしはその場に立ち尽くしたまま、がっくんを見送った。

小さく手を振ってみる。
がっくんが振り返ることはなかった。



学校に着いたのは、9時16分だった。
かたく閉ざされた正門の前で
わたしはひとりぼっち。

世界に拒まれて
成仏出来なかった亡霊みたい。

行く宛てもなくさまよい始める。


いつもならのろのろ歩くわたしを


「何やってんだ、さっさと歩け」


って、立ち止まって急かすのが彼の役目だった。

わたしはその言葉で
自分の役目を思い出したように小走りして
彼の隣に戻って来る。

そうして、また
一緒に歩き始めるんだけど
わたしがふらふらと寄り道したり
彼と歩幅が合わなかったりで
また彼との距離が開く
その度に急かされて
走って
また距離が開いて、

それでも
彼は嫌な顔せずに
いつも笑っていた。


彼はわたしと一緒にいる時
車に乗るのを嫌がった。
登下校の時も
デートの時も
悪天候の時も
どんな時も
ふたりで歩きたがった。


「長く、一緒にいたいからに決まってんだろーが」


そう言われた時
体中がむず痒くなるくらい嬉しくて嬉しくて嬉しくて

ちょっと、さみしくなった。

だって、
終わりがあることを知ってたから。
いつか、
わたしの前からいなくなることを知ってたから。



「だって」

「わたしと彼は最初から」

「住む世界が違ったんだから」



もう繋がらない、別世界とのかけ橋
世界中探したって、見つかるはずないのに
わたしの足は、初めてふたりの世界が重なった
思い出の丘に辿り着いていた。


「…」


丘のてっぺんに座って、空を仰いだ。
真っ青な中に、浮かぶのはちぎれた雲と
青の中をゆったりと泳ぐ飛行機


きっと彼はあの中にいるんだろう
わたしの知らない、遠い場所に行って
わたしの知らない、たくさんの思い出を作って

そしていつか
わたしを忘れるんだろう。




「いや、だよ…っ」



涙。
ぼろぼろと崩れる、青い空。


心臓がぐしゃぐしゃに潰れそうだった
呼吸が上手く出来なくなって苦しくて苦しくてこころが痛くて悲鳴をあげて、


「いや…なの、ひっく、けいちゃん!行かないで!いなくならないで!いや!けいちゃん!」


でも
わたしの声なんか届くはずもなくて
飛行機はだんだん小さくなって空から消えた。


「け…ちゃん、わたし、まだ…すき、なのに なん  、で。」


どうしてわたしを置いてくの
いつも待っててくれたのに
いつも一緒に歩いてくれたのに
どうしてどうしてどうしてどうして、





「バカ野郎、」


滲んだ世界に広がる声
その方向に振り向くより早く、抱きしめられた。

わたしより熱い体温と、薄く香る香水。
持ち主はすぐに分かった。


「け…ちゃ、なんで」

「…お前が…」


ぎゅう、と押し潰されそうになるくらい抱きしめられる。
意味が分からなくて、呼吸が歪んだ。


「…泣いてると、思ったから」

「け…い、ちゃん」


彼の名前を呼ぶと、少しだけ腕の力が緩んだ。


「…俺とお前じゃ住む世界が違うかもしれねーけど」

「俺は、お前が好きだ。」

「…好き、なんだ」


「どうしようもないくらい、に。」


けいちゃんの呼吸も、苦しそうだった。
ああ
きっとこれは夢だ、タチの悪い悪夢。


だとしたら幸せな悪夢だ。
だって
このまま死ねたら本望、



「…5年だけ、待ってくれ」


そっと、身体が離れる。
わたしの目の前にいる、わたしがだいすきな人は
目を細めて、うっすら笑っていた。

なんでだろう
こころが満たされる
あったかい気持ちが、また溢れて。


「必ず、お前を迎えにくる」


終わったと思っていた夢の世界が、また広がる。



きっとこれは夢の途中のおはなし。



点と線で繋がった新しい世界は
わたしとあなたで構築されている
夢のような、本当の世界。

あなたの隣まで小走りで向かうから
笑いながら待っててね。



【song by:サカナクション“セントレイ”
さよならなんて言わせないよ、きみがすきだから】
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