惰性の狭間

惨めったらしい気持ちを抱えて生きていくことが、果たして正しいのか。

彼の誕生祝いとして旅館をとった。
このご時世なので、旅館に巣ごもりできるところがいいねとなり、
巣ごもりして旅行気分も味わえるともなるといい旅館に泊まりましょということになった。
景観よし、内風呂、朝夕食事もお部屋のオプションつけて、まあ、1泊で10万近い旅館。
彼からもらったプレゼントを考えると安いくらいなのだけど
雀の涙社会人としては大金はたくつもりでお部屋をとった。

着いてみれば本当に素敵な場所。
旅館でボードゲームしようという彼からの提案は贅沢な時間の使い方にも思えて笑って了承した。
持ち運びゲームのSwitchも持っていくと言っていたから
まあ、やるというのはわかってたしそれも楽しい旅かと思ってた。
でも流石にそれ以外の時間は旅館でのんびり話ながらくつろぐだとかできると思っていたし
都会の喧騒を忘れて下さいねとばかりのお部屋の造りだったので夏を感じて旅を楽しめるのかと思っていた。
彼も大体のお値段は知っていたし。
そしたらまあ、家にあるのと同じテレビだねえって言いながらテレビつけてバラエティをひたすら観る。
出ている女優さんの若い頃がかわいいという話が始まる………、

待って、ここ、旅館…
鳥のさえずりもセミの鳴き声もテレビの笑い声で聴こえないや。
夕飯後にボードゲームをしたもののそれが深夜まで続きくたくた。
う、内風呂の温泉…源泉かけ流し…
温泉入りましょうとなっても別段いいムードになるはずもない。

だけど彼も変に気遣う人なので、疲れてるけど温泉取ってくれたのだしセックスしないと……
という感じでセックス……
いかにも責任感でのセックス。
すぐ終わっちゃったけれど、疲れてたからというお話と私のご機嫌取りのように明日の朝もっかいさせての言葉。
そんなこといって、絶対睡眠優先でセックスしないことはわかっていたので曖昧に笑った。
結局しなかった。
セックスしたがって見えるのかなあ。
別にしたいのではなく、ただ、愛されてる求められてることへの安心がほしいというくだらない女の性なだけ。
だからこそ惨めだ。
したくないけどしてあげないとなんて触れ方。
果たされない口約束。

彼は酔いながら話していたから覚えていないかもしれないけど
彼が元カノさんとお付き合いしてたとき、
元カノさんのために内風呂つき旅館を予約して
それがどれだけ楽しかったか私に語ったことがある。

それを思い出して自分と比べてしまって惨めで惨めで情けなくてどうしようもなくなった。

彼のお祝いなんだから彼の好きに過ごさせてあげたい気持ちと、上手く笑えない自分と、
一緒に住む前までのセックスしたがってくれて求めてくれた手がなくなった事実と。

あーーーーあ。
ま、セックスレス大国の日本です。
ああいう愛され方はきっとなくなって、ただの身内になっていくのを仕方ないと諦めないといけないのかもしれません。
結婚もしてないけどね。
キスのとき、ディープが基本な私達だったけど
いつの間にか、舌からませなくなったな。
私がしてみてもすぐ、スルーされるな。
えっちしたがってると思われて、そういう流れにならないように避けられてるのかな。
違うよ。
前みたいな欲しくてたまらないって気持ちぶつけるようなキスしてほしいだけだよ。
言ったらめんどくさい女だね。
仕方ないね。黙るしかないね。

お風呂入りながらちょっと泣いてしまった。
気づいてくれるかもなんてまた、かまってちゃん思考が湧いたのが気持ち悪い。
彼はリビングにいて気づいてない。

大切にされてるよ。
様子がおかしいと思ったのか、好きだよーって扉越しに言いにきてくれた。
今もリビングで食器洗ってくれてる音がする。


でも今、色んなものがなくなっているようにこれもなくなる過程なのだと思ってしまう
めんどくさい頭なのです。
あーーーーー、今だけしかないんだから好きと言ってもらえるうちにそれを楽しめよ。

あーーーあ。やだなあ。
いずれなくなるなら手放せば。