『うん、あれだよアレ。なんつーの?やっぱりいけないと思うんですね。下の者に示しがつかないって言うか…なにやってんだよ土方死ねよ、って思うんですよ私は』
「いきなり部屋に来たと思ったらなんなんだテメェは…」
煙草を吸いながら山盛りの書類のほんの一部とにらめっこしている俺に、目の前の女は至って真面目な表情でそう言った。真面目な表情で死ね、と言った。悪いんだけどなに言ってんのかさっぱりわかんねぇ。なんでなんの脈絡もなく怒られてんの俺。え?俺なにかしたっけ?
『だーかーらー。言ったでしょ?いけないと思うのよ。十四郎、めっ』
「いやなに?なんなのお前。なんで上司を呼び捨てるの?つーかなに十四郎、めっ、て。それなんなの?可愛いじゃねーか畜生が」
『なに言ってるんですか副長。マヨネーズの摂りすぎでついに頭イカれたんですか?私のことわかりまちゅかー?』
「ねぇ斬っていい?全力で土下座するから斬っていいよね?よーしそこに直れ。なるべく苦しんでから死ね」
『お前が死ね土方。物凄い苦しんで死ね土方』
「………」
なにコイツ。なんかすっげぇムカつくんだけど!?つーかなんでこんな機嫌悪いの?いつもこんなに口悪くないでしょお前。
「あのー…俺なんかしたっけ?してねぇよな?今日顔見るのこれが初めてだもんなぁ!?聞いてんのかテメェ!!」
『うるさい。黙れ。死ね』
「全部単語…!!」
ヘビーダメージだ。普通に罵られるより全部単語で罵られるのは結構ツラい。枕がおっさん臭いとか言われた時より更にツラい。えぇー…なんなのこの娘。Sに目覚めたの?サディスティック星の王女にでもなったの?待て待て待て待て。それは認めん。入隊してから手塩にかけて育ててきたコイツが総悟と同じ星出身だなんて断じて認めねぇ。そんなの許しませんよお兄さんは!!
『さっきからぶつぶつうっさいんだよおっさん』
「お前なんで今日そんなに冷たいの?」
いつもはおっさんとか言わない可愛い娘なのに。俺、まだお兄さんって自覚あったんだけどもうおっさん?おっさんは近藤さんだけで十分だ。なんて言うか…泣きたい。なんか目が霞んで前がよく見えない。目頭を押さえていたら、ようやく本題に入った。
『副長。昨日の約束、忘れました?』
「あ?約束?…そんなのしたか?」
『っ…』
「えぇえっ!?ちょっ、なに!?なんで泣くの!?」
いやいやいやいや。待て待て待て待て。意味わかんない。なに?今の泣く所?つーかなんで泣くんだよ、誰だよコイツ泣かせたの。あ、俺か。ぇえっ!?
『……たのに…』
「は?」
『一緒に禁煙するって約束したのになに一人で美味そうに煙草吸ってるんですか!?』
あー…そういやしたな、そんな約束。俺と同じでコイツもヘビーースモーカー。最近の禁煙ブームに乗っかって禁煙すっか、みたいな軽いノリの約束だったんだが、コイツマジで禁煙してんのかよ。
『酷いっ、酷いわ十四郎さん!!私を弄んだのね!?私は十四郎さんのこと信じてたのにぃいっ!!』
「待て待て待てやぁああっ!!なにスピーカー使って叫んでんの!?あらぬ誤解を招くから速やかにやめろ!!」
『愛してるって言ってたのに…遊びだったのね!?あんなに私の体を貪ったのにぃいっ!!』
「言ってねーよ!!なんの話だよ!!つーかやめ…やめて下さいお願いします!!」
『ったくよー。こっちはもう五時間も禁煙してるってのに一人で吸いやがってよー。テメェ土方腕出せ、腕。根性焼き入れてやんよ』
「どんな嫌がらせ!?チンピラかテメェは!!」
『なに言ってんだ土方ぁ、うちらチンピラ警察だろーがよー』
「据わってる!!目が据わってるから!!つーか上司をナメてんのかテメェは、ぶっ殺すぞ」
睨みを効かせてそう言ったら、奴は無言で俺のベルトを外し始めた。
「…なにやってんだテメェ、」
『内腿に根性焼き入れてやんよ。総悟くーん、今から土方さんの死刑執行始めるから逃げないように押さえててくれないかなー!?』
「約束破ってすんませんっしたぁああっ!!!!」
解ればいいんだよ、解れば。と言う彼女は俺から煙草を取り上げるとそれを口にして煙を吐き出す。
『あー…やっぱ煙草ないとダメですねー』
「もう禁煙終わりか?つーか女が煙草吸うもんじゃねぇぞ」
『私に煙草を教えた土方さんにだけは言われたくないですよ』
「…言い返せねぇ…」
そうして俺達は今日も二人並んで空高く上がっていく紫煙を見つめる。俺の、一番好きな時間だ。
『おい土方、コーヒー買ってこい』
「俺はお前をそんな娘に育てた覚えはねぇぞ…」
コイツを総悟とつるませるのはやめさせよう、俺はそう決心した。