私は筋金入りの雨女だった。何か用事があると言うと確実に雨を降らせた。
そのせいで事情を知る人は誰も私と旅行など行きたがらなかった。
そして案の定、今日も雨であった。
私は安いビニール傘をさして買い物へと出かけた。
「さっさと済ませちゃお」
足早に家路を辿っていた途中で、段ボール箱の中でか細く震える猫を見つけた。
私はその姿を無視できずに、ビニール傘を猫の段ボールにさしてその場を後にした。
「ごめんね。家がアパートなの」
…こういう構図は普通かっこいい男の子じゃないのか。なんだか自分が大分男前なことをしてしまったように思えて、つい口元が弛んだ。

「あれ?すいませーん」
誰かに呼ばれたように思い振り返ると、水玉模様の傘をさした男性がいた。
「やっぱり!久しぶりー!」
目をすがめて見ると高校時代の同級生だった。当時は結構目立つ存在で、私とは逆に晴れ男と呼ばれ親しまれていたのを思い出した。
「久しぶりだねー。えっ、この辺に就職したの?」
「ううん、散歩。時々この辺り来たくなるんだ」
「…そう?」
辺鄙な田舎と言ったところで、これといって見るものもない土地なのだが。
「濡れるよ。入りなよ」
彼はそう言ったセリフをさらりと言えてしまう。昔から変わらないのだな。
「ありがとう」
更には家まで送ると言う。天然のたらしだろうか…否、たらす気が無いから人気があったのだ。
私と彼は然程接点もなかったのだが、真逆と言うことでお互いに顔見知りだった。その程度の仲なのに、何故に今になって相合い傘しているのだろうか。
「そういえば…雨女だったよね?傘持たないで出歩くって迂闊じゃないの?」
その言葉に私はムッとした。好きでそんな星の元に生まれてないのに。でもここでムキになるのも大人気ない。
「晴れ男に会えると思ったから」
考えた末に色っぽいような事を言ってみた。反応が気になったのだが、見やると彼はみるみるうちに赤くなって、
「…バレた?」
「何が?」
「う…いや…」
吃り始めた。変なこと言わなきゃ良かったと後悔していると、いつの間にかアパートに着いていた。
「傘、ありがとうね。じゃ…」
ガシッと腕を掴まれた。びっくりしていると、彼は俯いたまま言った。
「俺…雨の日が好きなんだ…」
「う、うん」
「だから…今日雨降ってたから、この辺出かけたら会えるかなって思って…」
なんだか高校時代に戻っているような気分だ。お互いに良い大人が、こそばゆい思いでいるなんて。
「したら本当に会えたから…嬉しくってー…って!俺何いってんだ!ごめん引き留めて!またね!!」
慌ただしくそう言い残すと、踵を返して彼は走って行ってしまった。

少しドキドキしていて、ふとそのまま空を見たら気持ち良いくらいの快晴で、しかも大きな虹がかかっていた。
なんだか彼の様だと思った。