昼間の山下公園は明るく清々した場所なのに、夜になればまるで違う表情になる。港の見える公園のベンチに腰かければ、遠くに見える観覧車が花火のように輝く。
「山田さん、あれ乗ろう?」
俺は今まで眺めるだけで、乗ったことなど一度もない。それを今乗ろうとしているのにはやはり理由があった。

「野宮さん…ごめんなさい…あたしこんなに迷惑かけて…」
「ん?」
真山を想う度に涙する馬鹿な女。率直に思った。やめちまえ、男なんて他にいっぱいいんだろう。それを言って理解あるふりをするのは簡単だ。だけど言ったところで、そうですよね、なんてコロッと切り替えられる程の器用さもないんだろう。
そこが好きだと思った。
未完成な少女みたいな、華奢なガラス細工みたいな、けれど一本筋の通ったそれがなんていとおしい。
「良いよ、連れてきた俺の責任もちょっとはあるし。それにしても豪快だね。山田さんは」
「ううう…」
呑まれるほど呑んで、疲れるほど泣いて。放っておけないと思うこの気持ちが、俺が観覧車に乗る理由だった。ゆっくり同じ時間を過ごそうよ。この箱に乗ればそれが叶うんだ。真山を想うように、想われたいな。どんな気持ちだろうか。
こそばゆいような、くすぐったいような、まるで学生時代のような恋に恋する瞬間が訪れるのだろうか。
やっぱり、恥ずかしいな。

ー小さな箱の中で