「メリクリ、メリクリ!」
俺には縁のない言葉を言いながらいつものようにズカズカと店に入ってきて、早速猫の居所を捜し始める。
「……マロンならさっき出てったから、しばらく帰って来ないと思うぞ」
「マジかー。そりゃ残念だ。まあいいや、お茶でも煎れるよ」
「俺の店なんだが」
「それが?」
言われてみればその通りだ。今更すぎる。まさにそれが何か? って感じだ。
最近は勝手に奥に上がり込んで、煎餅なんか取り出して勝手に食べている。彼女はこの店と家を何だと思ってるんだろうか。誰に対してもそうなのか。
いろいろ考えを巡らせている内に、ある違和感に気付いた。
彼女が、いつもと何か違う。
何だ? 髪型は多分いつもと一緒。顔も当たり前だけど変わってない。喋り方だっていつも通り独特だ。じゃあ何が違う?
「あ、やっぱコーヒーにするかー。お前も飲むだろ?」
「あ……」
分かった。
あまり服装は気にしないから全然気付かなかったけど。
「どした?」
「今日、珍しくスカートなんだなって。珍しくっていうか、初めて見た」
「な、何だよ……変?」
「いや……似合ってるよ」
膝丈のチェック柄のスカートに、黒いタイツとブーツ(名前合ってるかよく分からないけど)。彼女にしては本当に珍しい女らしい格好に、つい本音を零してしまった。
彼女も驚いたようで、目を丸くして返す言葉を探している。
俺だって反省してる。こんなこと言うキャラじゃなかったし。いつも通り、冗談だと受け取ってくれ。
「はは、馬子にも衣装ってやつだよ。クリスマスだから久々にスカート履きたくなったんだ」
「……そうか」
よかった、ちゃんと冗談だって思ってくれた。
「なあ。今日、これ以上この店に客来ると思う?」
「俺に予知能力は無い……けど、多分来ないだろうな」
「じゃあ……ご、ご飯食べに行かないか? クリスマスだろ?」
「別に構わないが……まあ、クリスマスだしな」
クリスマスに一緒とか、恋人がやることじゃないか。大丈夫なのか。本当に嬉しそうな彼女を見て、かなり期待してしまう。
「よっしゃ! お前の奢りだな!」
「え?」
「当然だろ。クリスマスは男が女に奢る日だって決まりだ」
「おいおい、どこの国の風習だ。そんなの聞いたこと無いぞ」
「私が今決めた。文句ある?」
期待した俺が馬鹿だった。彼女にはそれが当たり前だったな。
結局、彼女の自信満々さと飾り気の無い笑顔に敵うはずもなく。
俺は財布の中身を確かめて、外出の支度をすることにした。