またしても長過ぎて追記に入り切りませんでした(´・ω・`)
クッションなし10行の改行挟んですぐ感想なので御注意を。
*
*
*
*
*
*
*
*
*
第23話『運命の至る場所』
・眞悧の回想からスタート。
16年前、決行の朝
未だ中吊り広告の大半がポケベルで埋め尽くされている時代の満員電車
その方々に設置されて行く『テディ』と、計画進行中でウキウキな眞悧の前に立ち塞がったのは、運命日記を携えた桃果。
「貴方をこの世界から追放するわ。
此処に運命の乗り換えをする呪文が書いてある。これを唱えれば皆を救える。
そして、貴方を永遠の闇に吹き飛ばすの」
「なら、僕は君を永遠の呪いの中に閉じ込めるとしよう」
急ぎ『呪文』を唱え始める桃果ですが、眞悧がピングフォースマークのシール?を額に貼り付けた事で強制ストップ。
「呪文は半分で終わるよ。……君は全てを救えない」
真っ2つに引き裂かれた桃果の片割れは陽毬のペンギン帽に、もう片割れはマリオのペンギン帽に。
然し『呪文』の半分は唱えられている以上、眞悧もその儘とは行かず
2つに引き裂かれて黒ウサギと化してしまいます。
全てを救えなかった桃果。
全てを壊せなかった眞悧。
運命の分かれ目は此処だったんですね。
・場面変わって総合病院。
てっきりあの儘死んだかと思ってた陽毬ですが、今回も息を引き取る寸前で発見はされた様です。
・短い時間呼吸をする為だけに残された微かな命、それでも頻りに晶馬と冠葉の事を呼んでいるという陽毬。
言外に兄貴は来られないのかと言われてる事くらい分かる。
分かるけど、だからすぐに呼べるかと言ったらそうじゃない訳で。
「──後どのくらいですか? 陽毬は」
「今晩……明日の朝かな。
済まんね」
聞いたってどうしようもないと分かってても聞かない訳には行かない。
謝ったって何にもならないと分かってても謝らずには居られない。
・残された現実的な時間の短さに打ちのめされるゆとりさえ無い晶馬。
縋るというより殆ど確認として眞悧の所在を聞き、彼もまた非現実的な人間であった事に漸く気付きます。
16年前に死んだ、自称幽霊。
非科学的な存在。
・寄る辺を無くした晶馬を無言で抱き締める苹果のカットが凄く好きです。
「僕は『呪い』のメタファー。今度こそ見せつけてやりたいんだ、帽子の彼女に……桃果に。世界が壊れるところをね」
「世界が壊れても、陽毬を助けたい」
「助けるよ。
君に僕の魔法を1つ見せてあげよう」
眞悧が冠葉を連れて渡ったのは、前回の攻防で深手を負い今にも死にそうな真砂子の姿。
弱りに弱った彼女の荒い呼吸が止まり、フラットを刻む心電図
──死が全てを奪い去った瞬間。
抗い様のない絶望が広がり出す最初のひとコマです。
・眞悧なら臨終前の時点で助ける事が可能だったと思うんですが、敢えて死ぬまで待って絶望の波が堰を切って満ちるのを見届けてから助ける辺り、本当眞悧センセってばドS。
陽毬の時もそうでしたけどね。
・指先1つであっさり真砂子を蘇生させて見せる眞悧。
「これで分かったろう? 僕なら陽毬ちゃんの命を救えるって事が」
鼻先にぶら下げる人参としては十分でしょう。
・冠葉達同様『運命の至る場所』から来た者と関わっていた所為か、真砂子だけは冠葉達の存在に気付きます。
「駄目よ、お兄様……世界も運命も魔法で変える事何て出来ないわ」
「さあ行こう。沢山壊してくれ。
試そうよ、君の愛の力で何人殺せるか」
「冠葉、その列車に乗っては──!」
今夜一杯と言われた陽毬を前に『魔法』をぶら下げられて今更止まる訳がありません。
破滅しようが絶望しようが構わない
今自分が動かなければ確実に、何時間か後には陽毬が死ぬ。
理不尽な世界に奪われ失われてしまう。
自分では駄目だった。
『運命の人』晶馬だって駄目だった。
ならばもう。
「……これで君は僕の親友だ」
エスメラルダが駆け寄るも、寸ででドアは閉まってしまう。
これで真砂子と冠葉の間は完全に隔てられてしまいました。
命を賭して守りたかった人が、他の誰かの為に何もかもを賭して行ってしまった。
折角助かったって、もう真砂子には生きる意味も力もない。
・そう言えば、双子って事は真砂子もまた運命の3月20日生まれなんですね。
・結局、本物の双子であり本物の妹であり本物の家族であった真砂子には何も出来ませんでした。
偽物の家族である高倉家は、冠葉に何を与えたでしょう。
偽物の双子である晶馬は、冠葉に何が出来るでしょう。
偽物の妹である陽毬は、何を残せるんでしょうね。
・場面戻って総合病院。
消えそうな3号に寄り添う2号とキラキラ巡る六花以外、動くものない静かな病室
疲れが限界に来てる様でうつらうつら舟を漕いでいる晶馬に語りかけたのは、今確かに目の前で眠っている陽毬の声でした。
・恨みつらみも後悔も弱音も吐かず、懐かしい思い出だけをなぞり出す陽毬。
居間にも飾られていた潮干狩りの日の記憶。
『家族』皆で初めて出掛けたあの日、はぐれて迷子になった陽毬とそれを探す晶馬と冠葉『兄妹』達の記憶。
「怖かった。世界に私独りだけが取り残された気がした──
でも見つけてくれたね」
「ああ、兄貴と2人で見つけた。僕らを見るなり大泣きして……
そうだ、陽毬があんなに泣くのを初めて見た」
「そうだね。
私、あの時わかったんだ。私は『見付けて貰える子供』になれたんだって。だから、嬉しくて泣いたの。
誰かに見付けて貰えるって倖せな事だね」
本当に内も外も場所も人もなりふり構わない、生まれたての赤ん坊みた大泣き。
ボロボロ涙を流して鼻水を垂らして、顔を伏せる事すら忘れて絶叫する様な大号泣。
あの冷たく硬質な陽毬からは想像もつかない泣き喚きっぷりを、少しも嫌がらず笑顔で受け止める晶馬と冠葉
偽りであっても、無理矢理であっても、代償であっても、彼らが間違いなく『家族』だった瞬間が其処にある。
断ち切られた今だって思い返せばこんなにも愛おしい瞬間。
思い返した時、心に僅かでもマイナスで塗り潰せない部分が残るなら
それは未だ何処かで繋がる糸があるという事じゃないでしょうか。
全き離別を迎える事の出来ない、最後の糸を自らこそが手放せない証拠。
「私、晶ちゃんと冠ちゃんと一緒に居られて、嬉しくて楽しかった……有難う」
「何言ってるんだよ。これからだってずっと一緒じゃないか」
「──うん。そうだね、私達はずっと一緒
だから晶ちゃん。今度は冠ちゃんを見付けてあげて」
「見付ける?」
「冠ちゃんはあの時の私と一緒、迷子なんだ。冠ちゃんを止められるのは晶ちゃんだけだよ」
「止める? 僕が?」
「見付けてあげて、冠ちゃんの心を……
冠ちゃん、世界に独りぼっちだと泣いてるから」
手を取り、小さな小さな口付けと精一杯の願いを渡す陽毬。
・夢か現か妄想か実想かも曖昧な儘目を開ける晶馬を襲ったのは、今まさに託されたばかりの冠葉さん。
窓からの乱入とはこれまた派手な。
・両親の意志を俺達が受け継ぐとシレッと言い放つ冠葉に、この期に及んで晶ちゃんったら相変わらず晶ちゃんwww
いや、笑えない。笑えないよ晶馬……
「馬鹿野郎、どうしちゃったんだよ! 陽毬はもうじき──」
「俺とお前が生まれた日は、俺達の運命の至る場所
この理不尽で不公平な世界は終わる
陽毬の命も救われるんだ」
「大勢の人を犠牲にするつもりか!? そんな事で陽毬を救える筈ないだろ!」
「お前にはこの世界の真実が見えてないんだ。
今の世界は絶対に俺達に実りの果実を与えたりしない。だから、俺達は世界を変える」
強欲な者だけにしか実りを与えようとしないこの世界。
自分だけが無事に、とは言わない。
自分も陽毬も過去も未来もあの世もこの世も全て引っくるめた、正に『全世界』を相手取っての生存戦略です。
許さないと言い乍らも、では具体的にどう動くつもりかを示せない晶馬。
許しなど欲しくない邪魔だけはするなと言い乍ら、言う程徹底的に全てを潰し抜く事は出来ない冠葉。
「晶馬、ずっと……ずっとお前をこうしてやりたかったんだ」
言葉にならない感情の全てを綯い混ぜたみた苦々しい所作で晶馬を抱き寄せる冠葉さん。
隠したもう片手に握った銃口を晶馬の胸に押し当ててのゼロ距離射撃、そして再びの離別。
・一方、高倉家で母親と帰宅予定を確認し合う苹果。
今夜は陽毬のもとを離れられない晶馬の代わりに、晶馬達の着替えや入り用の物を纏めてくれていた様です。
・荷物を詰め込み乍ら、ふと目を留めたのはゆりから渡された運命日記の後半部分。
・回想、病院ラウンジでのゆりとのやり取り。
「返すわ。……やっと分かったの。これは桃果が貴女に残した物だった
もう半分を手に入れて、日記を完全な物にするの。その何処かに運命の乗り換えをする『呪文』が書かれているわ」
「呪文?そんなもの何処にも──」
「きっと何処かに書いてある。それを使えば貴女の大切な誰かを救う事も出来るわ」
「あたし、運命を乗り換えよう何て考えた事ない」
「そう……でも桃果は貴女にこれを託したの。だとしたら、何時かきっと──」
何度も何度も読み返した日記。
けれど記憶を手繰っても『呪文』らしい物は見当たらなかった。
それでも、今この時にこれが自分の手元に戻って来たのなら、それはきっと。
「(分かったよ桃果、それが今なんだね。私がこの日記で陽毬ちゃんを救うんだ!)」
大切な人の為に、大切な人のそのまた大切な人の為に、今出来る事があるなら何だってやりたい。
・決意を固めた苹果を見透かすみたタイミングで電話を掛けて来たのは、目下行方不明の冠葉本人。
日記のもう半分を手に入れたから協力して陽毬を救おうと言う。
もうちょっと時間的に猶予があれば、行方を眩ませていた冠葉が何故この時この段階で苹果の手元に日記の後半がある事を知ってるのか?と疑問を持てただろうに……
後数時間となった現状で冷静になれない苹果を責める事は出来ませんがね。
『今此処から動けないんだ。奴らに追われてる』
「奴ら? 冠葉君、一体何処に居るの?」
・本日の標語『1人より2人』
・地下鉄に乗り、指定された深夜の国際水族館に踏み込めば、何処からともなく冠葉の声が流れて来ます。
鬼さん此方、のノリでまんまと導かれて行く苹果。
「冠葉君。陽毬ちゃん、病院で待ってるよ? 倒れた時もずっと冠葉君の名前を呼んでたって……
ねえ、早く行ってあげようよ」
『心配要らないよ……明日の朝、俺と陽毬は一緒に行くんだ』
「何処へ?」
『新しい世界だ。それで陽毬は救われる』
「どういう事? だって、陽毬ちゃんは──」
言われる儘従う儘歩いて行った先には、あの黒テディが1匹。
不気味に点滅するランプと微かな刻み音に不吉な物を感じない筈もない。
焦っていた苹果も漸くあれこれおかしい事に気付きます。
取り敢えず目下最大のアイテム運命日記の事を何故知ってるのかと追求するも、既に腰まで泥沼に浸ってる訳で。
『……"友達"から聞いたんだ』
おかーさん『お友達』って不審者の事なのー?状態。
怪し過ぎる白コートの兄ちゃんと怪し過ぎるカチカチ音を放つ異物とに挟まれた苹果ちゃんマジピンチ。
「僕怖かったんだよねぇ。君とその日記が存在してると、また桃果ちゃんにやられちゃう気がして」
「貴方、誰?」
「初めまして。僕は幽霊だよ」
同時に黒テディの爆発。
かなりの規模で爆炎が上がった割に苹果は割とダメージ少な気です。
最初の爆風で上手く吹き飛ばされたのか、倒れ込んで動けなくはあっても外身はちょっと汚れた程度で済んでます。
・──と思ったのも束の間、よりにもよって持って来た運命日記に火が点じてしまう。
慌てても碌々動かない四肢とすぐ傍まで回っている火の手の中という状況では、叩いたり振り回したりする訳には行きません。
やむなく胸に抱え込むも、火の勢いの方が明らかに強い。
火傷の痛みに迸る悲鳴を追い抜く勢いで運命日記を舐めていく火の輪。
「シビレルなあ。その身を焦がしても日記を守りたいんだね」
「どうしてもこれが、必要なの……これで、陽毬ちゃんの運命を乗り換えるんだから……!!」
「ほら、もっと頑張らないと日記が燃えて消えちゃうよ?」
泣き出す苹果の苦痛も何のその、舌に油とはこの事とばかりノリノリな眞悧に呼応するかの様に燃え上がりボロボロと形を失する運命日記。
唯一の希望が、晶馬の、陽毬の、冠葉の、大好きな人達の望みが絶たれて行く脆さを手の中で味わわされた苹果の絶望は如何ばかりだったか。
「あーあ、残念だったね。愛の力ではどうでもならない事だってあるさ。
でも君の場合はこれで良かったんだ。呪文を使えばその代償として、呪いの炎にその全てを焼かれちゃうからね。
世界の風景から失われるって事さ」
炎の中をへっちゃらで去っていく眞悧の傍らには、真砂子の部屋からくすねて来た運命日記の前半を携えた冠葉。
自分はそれに触れる事が出来ないから代わりに燃やせと言う眞悧に応えて、あっさり火に入れられてしまった運命日記。
これで『呪文』は使えない。
動けない苹果を救う手も、晶馬から陽毬を奪わず収める方法も、全て失われて行く。
・場面戻って総合病院。
夜明けの最初の青光で、海の中みた均一な青に満たされた病室の床から身を起こす晶馬。
足元に転がるのは赤い忘れ玉?
はたまた青い思い出し玉?
まあCパートからするに思い出し玉なんでしょうね。
・ちょっと前後しますが、やっぱり冠葉は単純に晶馬テメェ憎いわマジ憎いわー、だけだけで動いてるとは思えないんですよね。
いや、腐ネタとかじゃなくて(この点にだけはマジで腐要素絡めたくないです)
・表面の事情と感情の下に深ーい深ーい根がある。
生まれ育った場所、思想、そこに被さる各々の選択、迎えた展開、出された答
生まれた時から背負っていた縁を互いのアクションで変質させ乍ら、此処まで生きて来てる2人。
魂に絡まる鎖の形や長さや重み、紡ぐ輪のスタート地点、変位地点、ベクトル、選び方、生き方
本当に『因縁』としか言えない糸で引きずり合って今そこに立つ2人。
単純に憎いとは言い切れないし、愛しいとも言い切れない。
手の中でよしよし大好きでちゅよ〜と猫可愛がりする事は決して出来ないと同時、容赦なく後腐れなくスッパリサッパリ踏み潰す事も絶対出来ない。
・思い出し玉を撃った場面に、冠葉の晶馬への思いが集約されてる気がします。
とっ捕まえて死角からゼロ距離射撃が1番手早く済むから、というにはちょっと無理がある。
片腕で痛いくらいに抱き締め乍ら、もう片腕で意識の外から強制的に全てを思い出させる。
そして
「ずっとお前をこうしてやりたかったんだ」
これが冠葉の、晶馬への全てなんじゃないかなと。
……前後し過ぎましたね。ハイ。
『お早う。漸くお目覚めですね、高倉晶馬くん』
歯噛みする晶馬に語りかけたのは、あろう事かあのペンギン帽。
視聴者には桃果だと解りますが、晶馬にはホラーでしかないよなこれ……www
・日記が燃やされ失われた事で桃果が半身を介し喋れる様になったとしたら、マリオのペンギン帽の方も今頃ペラペラ喋ってたりして?
もしそうなれば、マリオや真砂子が駆け付けて来る様な展開もあるんじゃなかろうか。
真砂子は活躍し切った感がありますが、マリオが惜しいなあと……
マリオの役所は飽くまでも真砂子の動機付けというガジェットでしかないのだから、活躍しないのもまあやむなしなんですけどね。
『急いで! 運命の列車がもう直ぐ出発する。貴方はそれに乗るのよ!
乗り逃がしては駄目、黒いウサギが世界を壊そうとしている。"あれ"を止められるのは貴方達だけ』
「貴方"達"?」
『そう。貴方と冠葉君』
「僕と冠葉!? だってアイツは──」
駆逐されて行く夜の青。
徐々に黄味を差して行く太陽。
数を増す靴音と車の嘶きが雑踏となって反響し合い、大気を揺らし、急速に目覚めて行く『世界』
幾度も繰り返されて来た、何気なくも強制的に繰り返されて来た、1つの終わりと1つの始まりの狭間。
訳が分からない儘、それでもペンギン帽を握り締めて必死に夜明けの町を駆ける晶馬。
今出来る事があるのなら。未だやれる事があるのなら──
『そして貴方達は、あの列車で見付ける』
「見付ける? 何を?」
『貴方達の、ピングドラムを!』
この台詞と同時に差し込む朝1番の陽射し、鳥肌が立ちますねえ。
絶望の海に浸されて沈み切ったたキャラ達と視聴者のテンションに、強く強く刺さる光明です。
・EDが『HEROS〜英雄たち〜』なのは卑怯だ。
・本日の標語『仲良き事は美しき哉』
・ピングドラム
それはプリクリ様によれば、きっと何者にもなれない晶馬や苹果も含めた『運命の子ら』皆が元々持っていたモノ。
見つける事で何が起こり、何が変わるんでしょうか。
この期に及んで全て都合良く改竄してメデタシメデタシ、という風なお便利アイテムではないでしょうが……
・電車に乗り込む眞悧(の幽霊)と、路線図を前に呟く黒ウサギ達(眞悧の本体)
何者にもなれなかった眞悧。
けれど"力"を手に入れた彼は、自分を必要としなかった世界に復讐を果たし、そして"透明"じゃないモノになるのだと言う。
「人間というのは不自由な生き物だね
だって、自分という箱から一生出られないから」
「その箱はね、僕達を守ってくる訳じゃない。僕達から大切なものを奪って行くんだ。
例え隣に誰か居ても、壁を越えて繋がる事も出来ない……僕らはみんな独りぼっちなのさ」
「その箱の中で僕達が何かを得る事は絶対にないだろう。出口何て何処にもないんだ。誰も救えやしない」
「だから壊すしかないんだ。箱を、人を、世界を──!!」
・そして漸く、本当に漸く冠葉の元へ駆け付けた晶馬。
黒服に囲まれ振り返る冠葉は、何処か振り落としたみた顔をしています。
何処までも冷たく、けれど何処までも後ろ髪引かれる様な顔。
・冠葉が両親と同じ道を選んだのは、それ(間違った世界を正す為の反乱、再びの生存戦略)が、誰かが絶対やらなければいけない事だったから。
同時に『絶対やらなければいけない事』を晶馬にやらせない為だったんじゃないでしょうか。
間違った世界に一方的に喰われ奪われ使い潰されてやる訳にはいかない。
誰かがやらなければいけない。
ならば自分が、と。
両親の罪にすらあそこまで押し潰されて来た晶ちゃんです
再度の生存戦略の実行犯何てなれやしない。
主犯格の息子が犯す再度の罪まで背負い切れる筈がない。
ならば自分が、と思ったんじゃないでしょうか?
「お前はその儘で良い」
苹果の部屋を漁ろうとしたあの時の台詞
ずっと嫌み半分拒絶半分だと思ってたけど、今思えば本当に言葉通りの意味も含んでたのかも知れません。
弱くて脆くて深い所を正視出来ない、優しいと言えば聞こえは良いけど言い換えれば浅い所から先に踏み込む思い切りのない、お利口で臆病で卑怯な晶ちゃん。
でもお前はそれで良いのだと
奥底の澱や泥を被れないなら被らない儘で、踏み込めないなら浅い所に立った儘で、思い切れないなら思い切らない儘で。
「……来たか。晶馬」
「決着をつけよう、冠葉!」
長い道を、本当に長い長い道を歩いて来た。
近くに立ち乍ら違うものを見て、別々の場所を眺め乍ら同じ場所に立って、決して並ぶ事なく、決して溶け合う事なく。
立体交差の様に、交わっている様に見えても角度を変えれば常にベクトルはバラバラな輪の上を。
漸く本当の意味で交差する彼らは、再び訪れた運命の日、運命の列車の中で、一体どんな結末を見るのでしょうか。
・回想。
10年前、ピングループマークの運搬籠の中で目を覚ました晶馬。
何も覚えていない、何も分からない。
動かない四肢をどうも出来ない儘、檻から外を透かし見れば、向かいにもう1つの運搬籠が。
その中には──
「なあ、君は誰?」
「……お前こそ、誰だ」
それは思い出し玉で蘇らされた、幼い日の記憶。
眞悧の言う『箱』の象徴風景の中で迎えた、晶馬と冠葉の『出会い』
・冠葉実父の葬式で千枝美が晶馬と冠葉を「いつの間にか仲良く」とか言ってたりもしたので、冠葉は晶馬に微妙な関心持ちつつ晶馬は完全スルーだった陽毬との初対面よりは後、葬式よりは前の出来事だと思うんですが……
・ともあれ、あらゆる相関図が埋まって行く中で最後の最後まで残された、晶馬と冠葉の『はじまり』です。
次回最終回、何処までスポットライトを絞るのか、何処までを照らし何処からを放り出して描くのか楽しみですね。