2010-8-13 00:14
老 犬…1
ダルが危ないと、祖母から電話をもらったのは4日前のことだ。
突然倒れ、それきり動かなくなったので、慌てて獣医に駆け込んだらしい。
祖父母は、僕の暮らすアパートから車で数十分ほど離れた隣町に住んでいる。
翌日、ここからの方が近いということもあって、僕がダルの入院先を訪ねる。
「はっきり言って、かなり良くないですね」
ゲージの中でグッタリしてるダルを見ながら、先生の説明を聞く。
「おそらく、脳か神経が何らかの原因でダメージを受けてます。
右半身は、自分では全く動かせません。
CTを撮れば原因が分かるかもしれませんが、ウチには機械がありませんし……
仮に検査で脳の損傷が見つかったとしても、開頭手術ということになれば……
高齢ですから難しいでしょうね」
「…オレが分かるみたいです」
横たわったまま、首すら持ち上げれない様子だったが、ダルの潤んだ目は確かに僕を認めてる。
「オレのことが、分かるみたいなんすけど…」
「ええ、ちゃんと分かってますよ、認知症ではないんです。
脳か脊椎か…分からないんですが、何らかの原因で筋肉が麻痺してるんです」
「痛いんですか?」
「触ると反応しますから、動かないだけで感覚はあります。
ですが、痛みはないみたいですね」
「痛くないんですね」
バカみたいに念を押し、もっとも聞きづらい質問を口にする。
「良くなるんですか?」
先生の目が、僕の顔からダルへと逸れる。
「あまり…良くないと思ってください。
容態は昨日よりも悪化してます」
ダルは10才、人の年齢に換算すると70代半ばくらいになる。
でも、僕と出会ってからたったの10年だ。
まだポケットに収まりそうなほど小さかったダルを見た日から、たった10年しか経ってない。
僕と一緒に成長してきたダルは、いつの間にこんなにも老いてしまったんだろう。
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