老 犬…1

ダルが危ないと、祖母から電話をもらったのは4日前のことだ。

突然倒れ、それきり動かなくなったので、慌てて獣医に駆け込んだらしい。



祖父母は、僕の暮らすアパートから車で数十分ほど離れた隣町に住んでいる。

翌日、ここからの方が近いということもあって、僕がダルの入院先を訪ねる。





「はっきり言って、かなり良くないですね」


ゲージの中でグッタリしてるダルを見ながら、先生の説明を聞く。


「おそらく、脳か神経が何らかの原因でダメージを受けてます。

右半身は、自分では全く動かせません。

CTを撮れば原因が分かるかもしれませんが、ウチには機械がありませんし……

仮に検査で脳の損傷が見つかったとしても、開頭手術ということになれば……
高齢ですから難しいでしょうね」





「…オレが分かるみたいです」

横たわったまま、首すら持ち上げれない様子だったが、ダルの潤んだ目は確かに僕を認めてる。

「オレのことが、分かるみたいなんすけど…」





「ええ、ちゃんと分かってますよ、認知症ではないんです。

脳か脊椎か…分からないんですが、何らかの原因で筋肉が麻痺してるんです」





「痛いんですか?」





「触ると反応しますから、動かないだけで感覚はあります。

ですが、痛みはないみたいですね」





「痛くないんですね」

バカみたいに念を押し、もっとも聞きづらい質問を口にする。

「良くなるんですか?」





先生の目が、僕の顔からダルへと逸れる。

「あまり…良くないと思ってください。

容態は昨日よりも悪化してます」










ダルは10才、人の年齢に換算すると70代半ばくらいになる。

でも、僕と出会ってからたったの10年だ。

まだポケットに収まりそうなほど小さかったダルを見た日から、たった10年しか経ってない。

僕と一緒に成長してきたダルは、いつの間にこんなにも老いてしまったんだろう。