ある日の本部。御堂は宇崎がいないことに気づく。
「室長、どこ行ったんだよ…」
御堂、めんどくさそう。



解析班。御堂は朝倉に聞いていた。


「司令なら隣の病院に行ったわよ。なんか検査の立ち会いとか言ってたような…」
「検査の立ち会い?なんだそりゃ」
「とにかく病院、行ってみたら?司令いるはずだから」

「朝倉、ありがとよ」


御堂はそう言うと、本部に隣接する組織直属病院へと向かうことに。



本部隣接・組織直属病院。


藤代は定期的に検査を受けてるらしく、今日はその日だった。

なぜか宇崎もいる。


「藤代、検査は仮面着けたままでやるから眼鏡だけ外してくれないか?」
「仮面はそのままなんですか」

藤代は眼鏡を外し、トレーに置く。


「藤代は素顔になるとほとんど目が見えないんだろう?ぼんやりと見える程度か。ダメージは今も深刻だもんな…。
その仮面は一見するとただのベネチアンマスクだが、うちの組織の最新鋭のシステムが搭載されてんの。その目の保護用レンズに。
仮面着けるとちゃんと見えてるだろ?その目の保護用レンズはお前の目の役割をしてる」
「医療技術が向上すれば顔は元に戻るでしょうか…」


藤代は寝たまま、聞いている。宇崎は作業しながら答えた。


「今のゼノクの技術でも難しいよ…。藤代はむしろよく生きてたよレベルだからね。
しかし、よくまぁあんな状況で生還したな」

「蔦沼長官とゼノクのおかげです」
「じゃあ今から検査するからリラックスして。痛みはないから心配しないでね。ただ寝ているだけでいいから。検査は10分くらいかな。お前の身体のダメージの具合を見たいから。特に顔ね」


この部屋には検査を受ける藤代となぜか呼ばれた宇崎、看護師2人がいた。もちろん、医師もいる。
患者が怪人被害の場合、組織の研究者が呼ばれることもあるようだ。本部の場合はだいたい宇崎が呼ばれる。



御堂は院内をうろうろしていた。室長はどこにいるんだよ…。


ある部屋では藤代の検査が終わったらしかった。

「お疲れ様。先生が藤代の素顔の治療経過を見たいらしいから仮面外せるかい?」
「…はい」

藤代は手慣れた様子で仮面を外す。宇崎は藤代の素顔を見た。角度の関係でほとんど見えないが…治療してこの状態だと!?
そういえば藤代は手術を何回か受けたと聞いた。


御堂はある部屋の前を通り抜けようとした。この部屋には通路側に窓がある。カーテンは半開きで中の様子が少し見えた。
あの人…なんか見覚えがある。ん?なんで室長がいるんだ?


宇崎は御堂に気づいたらしい。慌てて部屋を出る。


「御堂、なんで病院にいるんだ?」

「俺は室長を探していたんだよ。朝倉に聞いたら室長は病院にいるっつーから来たんだ。あの人…なんか見覚えがある。誰だっけ」


御堂は部屋の中にいる患者が気になった。まだ彼は素顔のまま。通路側だと全然顔がわからない。
やがて彼は白いベネチアンマスクをそっと着け、さらに眼鏡をかけた。

御堂は彼と目が合った。


藤代…?なんでここにいるの?


やがて部屋から藤代が出てきた。御堂は戸惑いを見せた。


「藤代…お前定期的に病院来てんのか」

「怪我の経過観察とか色々あるんだよ。顔はまだ今の技術では元に戻れないらしくてね。だからこの仮面に頼ってる。保護用レンズは目の役割してるから必要なんだよ。
素顔になるとほとんど目は見えないからね。ぼんやりとしか見えないんだよ。仮面補正で見えてるようなもんさ。あの時のダメージ…かなり深刻でさ…」
「藤代って、人前では断固仮面姿なんだろう?お前食事の時、どうしてんだよ」

「それは言えない。言いたくない」


鼎の仮面と見た目は似ているが違うものなのか…。あの保護用レンズが目の役割してるって、何気に高性能…。

ゼノクの技術、よくわからないけどすごい…。



「御堂と一緒に歩いていると高校時代思い出すね」
「よく一緒に帰っていたもんな〜」



高校時代――。あれは高3の頃だったか。


「藤代ー!ゼルフェノアの内定決まったぞ!」


御堂、めちゃくちゃ喜んでいる。ゼルフェノアは学生からしたら狭き門。とにかく高卒が隊員になるには難しい組織。大卒でも難関。

御堂は試験も最難関である、最終試験までクリアした。適性検査もあっさりクリア。


藤代もゼルフェノアを目指していたが、適性検査で隊員の条件に合わず道を閉ざされる。


「受かって良かったね」
藤代、複雑そう。だけども友人を鼓舞してる。

「藤代、お前のぶんも頑張るから!なっ!」



本来、高卒や大卒がゼルフェノア隊員になるには数回の試験をクリアし、最難関の最終試験をクリアしなければならない。
さらには適性検査にも受かる必要性がある。

そういう意味では高校生の晴斗はイレギュラーすぎた。
いきなり戦闘したことから後々適性にも合っており、隊員向きだったというオチ。



「御堂の活躍、見ているよ。3年前のことは覚えているだろう?」
「あれは嫌でも覚えている…」



3年前――。

御堂達数人は雨降りの中、中級メギドと交戦していた。この時、鼎は地方任務に行ってたため彼女はこのことを知らない。


御堂達は苦戦していた。
「このままだとやられてしまうっ!市民だけでも避難させろっ!」

当時の分隊長が叫んでいる。怪人は容赦ない攻撃で彼を意図も簡単に惨殺。
残された隊員は僅か2人。御堂の後ろでは藤代が腰を抜かしていた。


「藤代っ!早く逃げろ!!殺されるぞ!!」
「御堂…腰が抜けて体が動かないんだよ…」

藤代は震えていた。
怪人は藤代をターゲットにした。御堂は藤代を庇い、負傷。怪人はジリジリと詰め寄り、藤代を斬りつける。辺りは血の海に。


「藤代ーっ!!」


御堂はズタズタに斬られた藤代を見た。死んだのか?まだ僅かに体が動いている。御堂は怪人撃破よりも撤収を選択した。


「救急隊は呼んだか!?」

「呼びましたが…彼はもう助からないかもしれません」
「バカ言うなっ!藤代っ!返事をしてくれよっ!藤代ー!」

御堂は泣いた。



藤代はその後、瀕死の重傷だとわかり本部隣接の病院で最初の手術を受けた。このおかげで命からがら助かった。

それから間を置いて、ゼノク隣接の病院へと転院した。
彼はゼノクで2回、手術を受けている。



「藤代…お前すごいよ。生命力が」
「家族を残して死ねるわけがないからね。どんな形であれ、生きてればなんとかなると思ったから」

「お前…本当にすごいよ」





第36話(下)へ続く。