ゼルフェノアと鐡一派が元老院を倒すために同盟関係になるという事態は、ゼルフェノア支部や鼎が入院しているゼノク内の組織直属病院にも知らされた。



京都・ゼルフェノア支部――。


囃(はやし)は小田原司令と話をしていた。

「『元老院』とかいう敵組織を倒すために、あの『鐡一派』とゼルフェノアが同盟組んだって…マジ?」

囃は極端な反応を見せている。強面でサングラス・髭のいかつい見た目の小田原司令はきょとんとしている。

「蔦沼長官は鐡一派が元老院と敵対していたのを利用して、『あえて』乗ったとしか思えないぞ。敵同士共倒れになればゼルフェノアからしたらまぁ楽にはなるからな」
「しかし、元老院の狙いが本部の暁晴斗と紀柳院鼎って…なんでまた」

囃、微妙な表情を見せる。


「ゼノクの今現在の調査結果で、どうやら元老院は彼ら2人の『能力(ちから)』を狙っているのが明白になった。元老院の長・鳶旺(えんおう)は能力を奪うつもりらしい。
鐡一派は前から元老院とは険悪だったから、元老院とずっと敵対しているゼルフェノアを利用したかったのかもな」

「鐡…頭良さそう」
「なんでかは知らないが、鐡は暁に因縁つけてるみたいだが…。さすがに今は便宜上の味方だから攻撃はしないだろう。
暁の能力はブレードを介して露になってるが、紀柳院…もとい都筑の能力はまだ発現していない。彼女は事件以前から狙われていたから、紀柳院が動けない今…守る必要性がある」
「紀柳院が動けないって今初めて聞いたぞ!?」


「囃、お前聞いてないのか?紀柳院はゼノクを襲撃した暁を狙った鳶旺の攻撃を庇って、今入院中だよ。
致命傷は免れたが、まだ退院の目処は立ってない」

「元老院のゼノク襲撃って先月だっけ…?紀柳院そんなにもヤバいのか」
「『命に別状ない重傷』というやつだ。鳶旺の棘のような攻撃で体の一部は貫通したと聞いた。攻撃で内臓やられたから彼女は回復までかかるんだよ…」


なんてエグい攻撃…。鳶旺は冷酷非情とは聞いていたが。


「支部に出来ることって…今…ないよな…」
「今の激戦地はゼノク周辺だからなぁ。そのうち総力戦になるかもしれないよ。ゼルフェノアvs元老院は長引いているからね。お前も知ってるだろ?黎明期からゼルフェノアは元老院と敵対していた話」

「怪人メギドの元締めって…元老院なのか?鐡なのか?」
「今のところはっきりしないんだよな〜。鐡は『メギドを統べる者』と名乗ってるあたり、実力は鳶旺と同等かそれ以上と推測するが…」


小田原は真剣に話ながらも編み物をしている。小田原司令は意外と可愛いもの好きなため、チクチク手芸したり編み物やってる。
強面の司令がぬいぐるみを作っているギャップよ…。

これは支部では見慣れた光景。支部隊員な慣れっこ。



ゼノク。組織直属病院・鼎の病室。
鼎がいる病室は6人部屋だが、病室には鼎しかいない。組織直属病院は主に隊員が使う一般病棟があるため、鼎はそっちに搬送されている。一般病棟は市民用と隊員用と2つあるのが組織直属病院の特徴。

鼎は外を眺めていた。まだ退院の目処が立ってないため、しばらくこんな感じ。


そこに西澤がやってきた。

「紀柳院…順調に回復しているようだね」
「西澤…」
鼎は西澤を見た。鼎は仮面姿なため、顔は隠れているがどこか寂しげ。どこかうつむいている。

「西澤室長…『北川さん』に会いたいのですが…。あの人は事件で居場所を失った私を救ってくれた恩人なんだ…」
「北川って、『北川司令』のことか?いや…元司令だね」


普段、相手のことを呼び捨てで呼ぶ鼎が北川「さん」と呼ぶのは珍しい。
彼女からしたら恩人らしく、北川を慕っているのだろうか…。


「北川さんに聞きたいこともある。都筑家の能力(ちから)のこととかだ」
「紀柳院…ちょっと落ち着こうか。君はまだ怪我が回復してなくて動けない。元老院にも狙われている。とにかく今は回復に専念して欲しいんだ」

「長官にも…伝えて貰えますか?あれ以来、北川さんとは会えてない…!会わせて欲しい…声だけでもいいんだ…!」
鼎の声は悲痛だった。


普段冷淡な話し方をする紀柳院が、北川のことになると話し方がガラッと変わっている。
事件以降、彼女に影響を与えた人物なのは間違いない。居場所を失った紀柳院を組織の直属施設に匿ったのは北川なのか?


西澤は複雑そうな表情を見せつつも、なんとか答えた。
「なんとかやってみるよ。長官にも伝えておくからね」

とにかく彼女を安心させなければ…。
西澤は病室を出た。鼎はその西澤の背中を見送った。

鼎は抑えていたのか、泣きそうな声を出す。北川さんがいなければ…今の私はいない。



異空間・元老院。
鳶旺は次の手を考えていた。

「正面から攻めても無駄だったが、あの2人の能力は我らの世界破壊には好都合なのだよ」
「ど…どうしたんですか、鳶旺様」

副官の絲庵(しあん)はびくびくしながら聞いてる。


「都筑悠真が死ねばあの力は手に入るのだがな…」
「死ねば手に入る?」

「そう。都筑家の能力(ちから)はなかなか表には出ないのだよ。表に出てしまえば、直接彼女から奪うしか方法はないが…まだ発現していない今、殺せば確実に手に入る」
「なっ…何を言って…」

絲庵、鳶旺の冷酷さを目の当たりにする。


「私はね、手段を選ばないのだよ…。暁は既に能力が出ているあたり、厄介だが…都筑はまだ行ける」
「長、一体何をするつもりですか」
「都筑悠真を殺す。私は本気なのだよ?能力(ちから)を奪い取るためなら手段は問わぬ!」



ゼノク・司令室。
鐡一派は普段とは違う白っぽい格好でゼルフェノアに紛れていた。鐡は蔦沼と話してる。


「おい長官、鳶旺の野郎…また来るぞ」
「また来るのか」
「今度は本気だ。おそらく…あの仮面の女をとり殺す算段だ」


仮面の女…紀柳院か。彼女はまだ能力が発現していないから、格好の標的になっているということか。


「鐡…紀柳院はまだ入院中で動けない。鐡は何か案、あるかい?彼女は病院から動けないんだ」
「んなことわかってる。仮面の女は能力(ちから)が発現してしまえばいいんだが…。
そうすれば少しは危機を免れることが出来る。解放された能力はそう簡単には消えないからな」
「やけに詳しいんだね」

「元老院とはこっちもずっとドンパチしているからよ、あのジジイと副官に関しては詳しいぞ」


紀柳院の鍵は「能力の発現」か…。



鳶旺はゼノク周辺に戦闘員を多数出現させる。

「都筑悠真を探し出せ!」


鳶旺は戦闘員達に命令を下す。ゼノクは防衛システムを起動。明らかにターゲットが鼎のため、病院のシールドが強化されてある。

敷地内の対怪人兵器も起動。蔦沼はゼノク隊員・本部隊員・鐡一派に伝えた。

「紀柳院を全力で守り抜け!」
「わかってんよ、長官」

鐡はニヤリとした。晴斗はまさかの鐡との共闘に変な感じになっていた。


鐡一派からは鐡のみ参戦。


「あのジジイには気をつけろよ。前回の比じゃねぇかんな。奴は本気だぜ」

怪人の勘…なのだろうか。





第31話(下)へ続く。