翌日。時任は2年ぶりに兄に会えるとあってテンション高め。
司令室では宇崎がこんなことを言っていた。


「いちか、言い忘れてた。ゼノクはゼルフェノアの人間ならいつでも行けるんだった。入館するのはちょっと面倒いけどね。セキュリティ半端ないからあそこ」
「ちょ!?室長それもっと早く言ってよ!!」

時任はギャーギャー言ってる。宇崎は根負けした。
「いちか、悪かった。悪かったから行ってきなって。隊員は隊員証がないとゼノクには入れないぞ」
「わかっていますーっ!」


時任は本部からゼノクへと向かった。なんで最初から言わないんだよっ!
組織の人間ならいつでも行けるんかいっ!



異空間・元老院本拠地。

鳶旺(えんおう)はメギド進化態のことが引っ掛かっていたらしい。戦闘員から中級に進化させた奴はどいつだ…?


「なんでしょうか、鳶旺様」
釵游(さゆう)が呼び出された。

「お前、メギドを勝手に進化させたのか?」
「…何のことですかね」


副官の絲庵(しあん)はどうも釵游が引っ掛かっている。あの時、鐡と何やら話をしていたみたいだが…。

釵游はこんなことを言った。皮肉混じりに。
「だいたいさぁ、元老院って人をこき使ってばっかりで表舞台には出ようとしないですよね〜」

「なっ!?」


釵游は鐡に指示された通り、挑発。挑発に乗ってしまったのは絲庵。
鳶旺は絲庵に告げた。

「幹部ごときに挑発されるとは、絲庵はわかっておらぬ」
「…ですが…!」
「おそらくメギドを進化させたのは鐡だ。ならば我々もうかうかしてられん。絲庵、今回はお前が行くのだ」
「私がですか!?」

「蔦沼を探してこい。見つけ次第、倒すのだ」
「しょ、承知しました…」


この元老院副官が出撃する流れにほくそ笑んでいたのは鐡。
俺は簡単にはやられねーよ。元老院副官の実力とやらを見てみるか…。



ゼノク・本館ロビー。


時任は入館し、兄が待っているロビーへ。
時任の兄は全身タイツのような全身を覆うゼノクスーツの上に服を着ているため、わかりにくいが兄は「ロビーの休憩スペースにいる、黒いゼノクスーツの男だよ」と伝えてある。


時任はすぐ気づいた。
「兄貴〜!」

時任は元気に手を振る。黒いゼノクスーツの男性は手を小さく振り返した。やっぱりあの人が兄貴だ。スーツの顔全体を覆うマスクで顔は全然見えないけど、あの仕草は間違いなく兄だ。


時任は2年ぶりに兄と再会。時任の兄は眞(まこと)と言う。
眞はいちかの頭を優しく撫でている。


「兄貴、子供扱いしないでよ〜」
「いや、お前可愛いからさ」

「兄貴、ゼノクスーツ姿が完全に板についちゃってるね…。さながら動く黒いマネキンみたいだよ」
「それは言うな。俺もわかっているから。このスーツ姿になってかれこれ2年半くらいか?」
「2年半…。なんか不便そうだね、そのスーツ生活…」

眞はマスクで顔全体が隠れているため、ジェスチャー多めで話してる。


「そんなことないよ。食事は専用の器具を使えばこのスーツ姿でも食べれるし、匂いも感じる。不便なのはトイレかな…。風呂はスーツを脱がないとならないけど。まぁ慣れだから、慣れ」


兄貴…さっきからナチュラルに触ってくるの、やめれ。相当会いたかったのはわかるが、ちょっとくすぐったいよ…。


「いちか、どうした?」
「兄貴、ナチュラルにくすぐったいからやめとくれ」

眞はいちかからすっと離れる。
「あぁ、悪い悪い。ゼノクスーツは視界が狭いからさ…」


兄貴も苦労してるんだね…。

聞いた話によると、ゼノク治療スーツを着た当初はかなり大変だったらしい。
狭い視界なせいか、しょっちゅうぶつかっていたとか。

ゼノクでこのスーツ着てる人…意外と多いよね…。あえてスーツを着てる職員もちらほら見るなぁ。ビジネスゼノクスーツってやつですかい。
インフォメーションにいた烏丸さん、ゼノクスーツで応対してる…。確かあの人、入居者担当だから配慮してゼノクスーツなんだっけか。


「いちか、庭園に行かないか?散歩がてらにさ」
「庭園ってあったっけ?」
「敷地には大きい庭があるんだよ。中庭もあるけどね。ベンチもあるから休めるよ」
「わかった。行くよ」


それにしても兄貴、黒いゼノクスーツで外なんて出たらめちゃくちゃ暑いんじゃ…。
…と思ったが、外は薄曇り。だから外に誘ったのか、兄貴は。



ゼノク・庭園。


ゼノクにいつの間にこんなデカイ庭園出来てたの!?
いちかはキョロキョロしている。眞は顔は見えないが嬉しそう。

「俺、たまにここ来るんだ。癒されるから」
「兄貴は植物好きだもんね」



そんな中、突如アラートが鳴り響く。眞はいちかを連れて走る。

「ちょ!?兄貴どうしたの!?」
「敵襲だ。シェルターへ避難するぞ」


眞の行き先は外の地下シェルター。庭園のすぐ側に1ヶ所シェルターがある。
眞はシェルターの位置を全て把握していた。

シェルターへ逃げ込み、扉を閉めようとしたが駆け込みで入居者数人もやってきた。
親子だろうか?旦那さんは至って普通の格好をしているが、奥さんと子供はゼノクスーツ姿。いちかは子供のゼノクスーツ姿にショックを受けてしまう。


あの子…まだ小学校上がってないくらいなのに、ゼノクスーツだ…。子供用のゼノクスーツは脱ぎ着しやすいように3ピースにパーツが分かれている。
奥さんは子供を落ち着かせようとしていた。

この親子のゼノクスーツはパステルカラー。子供は声からするに男の子っぽい。


怪人被害って…ひどい…。



ゼノク付近に絲庵1人のみ出現。ゼノクは既に防衛システム起動している。
出撃した晴斗達隊員は面食らうことに。


1人だけ…?


御堂は気づいた。
「こいつ、元老院の一員だ!警戒しろ!」

絲庵の出で立ちは黒いゆったりとしたローブに白いベネチアンマスク、フードを被っている。
絲庵はそこに白手袋をしていた。


絲庵はどこからか笛のようなものを出すと、それを仮面の口元に当てる。不思議と笛は鳴り→戦闘員を出現させた。

「隊員はどうでもいいのです。蔦沼はこの施設にいるはずだ」


絲庵は戦闘員を施設内に仕向けるように指示。それを晴斗達がくい止める。
「侵入させるかよっ!」

晴斗は銃で先制攻撃→肘鉄喰らわせ→羽交い締めにしている。
御堂も肉弾戦で戦闘員複数と交戦中。戦闘員はいつもの戦闘員だったせいかまとめて倒してる。

鼎も銃メインで戦っていた。時々荒い蹴りを喰らわせてるが、鼎の蹴りは重い。


三ノ宮・粂(くめ)も戦闘員相手に応戦してる。
三ノ宮は隊員全員に分析報告をする。

「あの仮面の男…元老院副官と思われます」
「元老院副官!?」


粂がギャーっと驚く。
絲庵は様子を見ているだけで、まだ攻撃をしてこない。明らかに隊員達は眼中にない様子。

二階堂も遅れて出撃した。



ゼノク・司令室。


蔦沼は絲庵の登場にどう判断するか決めかねている。西澤は釘を刺した。


「長官、奴の目的…長官かもしれないですよ!?出しゃばらないで下さいよ」
「あいつ、どう見ても元老院副官の絲庵だよ。パッと見わからないけど、あの白手袋は絲庵だな」

「…で、どうするんですか」
「絲庵次第」


まさか長官出撃するのか!?それだけはやめてくれよ…。
あんたが出たら格好の標的になってしまうだろうがっ!!

敵の思うつぼだぞ!!


西澤はハラハラしていた。長官な奔放さは戦闘でもほとんど変わらない。だから余計に心配なのだ。



一方、戦闘員と交戦中の隊員達は二階堂の加勢によって有利になる。

二階堂は義手を展開し、銃撃と刃物展開で鮮やかに撃破。ちなみに二階堂の義手の刃は対怪人用ブレードで出来ているため、人間は切れない。


絲庵はしばらく黙っていた。何かを見計らうようにして。





第24話(下)へ続く。