「もう二度と….
僕みたいな弱い人間が生まれませんように.
もう二度と….
吉本みたいな怪物が生まれませんように.
先生….
僕,強くなりたかったよ」
何を教える家庭教師なのか.
なぜ家庭教師になったのか.
根本の疑問であるこの点が,8年前の真実から少し見えてきた気がします.
そして,先生が沼田家にこだわる理由.
“吉本荒野”と慎一くん,“真田宗多”と茂之くん.
それぞれが重なって見えたのでしょうね.
「こんな世界にも希望はある.確かにある.
でもな.
現実はお前が思っているより,よっぽど残酷なんだ.
だから.強くなれ」
「お前みたいなやつがいるから,俺が生まれたんだよ」
今まで沼田兄弟に対して言っていた言葉の根底には,真田くんや“吉本荒野”の存在がありました.
突拍子もない言動で何が目的か分からなかった先生の言動.
8年前の真相が明らかになったことで,その意味合いが分かってきた気がします.
すべては8年前,真田くんの自殺から始まったこと.
それはあまりにも重く悲しい過去でした.
彼を救えなかった自分自身.
彼を追い詰めた“吉本荒野”.
それを許した社会.
先生は,すべてに対する憎悪と悔恨を背負い,向き合うことを選択した.
そうすることで,償おうとしたのでしょうか.
「そんな教育を受けて平和ぼけに漬かっている人間が,無意識のうちに悪意だと感じない悪意で!
汚れなき弱者を追い詰めているんだ」
4話で慎一くんに対して言ったこの言葉は,8年前の自分自身に対する言葉でもあったのですね.
自分の立場を守るために彼を見捨ててしまったことを先生はずっと悔いて,責め続けていた.
慎一くんに対しての言葉のはずが,無意識のうちに過去の自分自身に対する言葉になっていたのでしょう.
先生は,元凶である“吉本荒野”よりも真田くんを救ってあげられなかった田子雄大,自分自身を何よりも憎んでいたのかもしれません.
だからこそ,田子雄大である自分自身を殺し,憎む相手である“吉本荒野”になったのではないでしょうか.
“田子雄大”が“吉本荒野”として家庭教師をする理由は,最終回を見なければ分からないことですが,そうすることで“吉本荒野”の罪さえも背負い,罰を受けようとしたのではないかと,そんな風に感じました.
“吉本荒野”を作らないため,“吉本荒野”のような人間に負けない強さを身につけさせるため.
学校の教師としてできなかったことを,家庭教師として子供とその親を巻き込んで,勉強とは違う教育をしようとしたのかもしれません.
“東大合格率100%”のキャッチコピーを謳ったのも意味があるように感じました.
しかし,その思いとは裏腹に,先生は葛藤していたのだと思います.
「それで罪を償っているつもりか!」
「お前に人を教える資格があるのか!」
「お前のやっていることは本当に正しいのか?」
これは真田くんの言葉というよりも,先生が自問自答をしているように見えました.
真田のためにとやっていることは本当に正しいのか.
真田を救えなかった自分に人を教える資格はあるのか.
自分が許されたいためにしているのではないか.
そんな風に自分自身と葛藤していたものが,真田くんの幻影として見えたのかもしれません.
償えないと分かっているからこそ,自分のしていることの矛盾に悩み苦しんだのでしょうね.
先生が廃校の教室で絶叫し,暴れる理由もそこに繋がるのかもしれません.
そして,再び先生が沼田家に戻ってきた目的は何なのか.
離婚届にサインをしようとしたタイミングで戻ってきたのは,沼田家を見捨てていないからなのか.
先生の計画はまだ終わっていないということなのかもしれませんね.
本当のフィナーレを迎えたとき,どんな風景が見えるのか.
慎一くんと賭けをしたことも茂之くんがいじめる側になってしまったことも.
未だ問題が山積したままの沼田家を前に,先生は何を残すのか.
そして,残されたすべての謎が明らかになったとき,先生はどこへ行くのか.
明確な答えが提示されなくても,そこをゴールだと思わず,スタートラインとして捉えられたらなと思います.
最終回,自分なりの希望を見出したいですね.
そして,すべてが線になった状態でもう一度,1話から見たいと思います.