まだ、残暑の厳しい頃だった。
国民の少数派であるところの俺は、アルバイトから帰ってきたところだった。
多くの人間は、みな、アンドロイドに働かせて生きている。
俺はちょっとばかしか不運だったものだから、アンドロイドを所有できるような余裕はなくて、わずかな生身の人間の労働力需要をかき集めて生きていた。
今日の仕事は、モニターのハシゴ。
製菓や化粧品など対生身の製品は、最終的に生身の人間でモニタリングする必要がある。
今日以外の仕事も、だいたいが似たり寄ったりのモニター係だ。
今日は3社だけだった。楽でいいが、収入も減る。
ポストに入っていたチラシをチェックすると、一風変わったハガキが紛れていた。
「Aプロジェクト?」
ハガキの目立つところに、『モニター募集!』と書かれている。
内容は、新型アンドロイドの不具合チェックだ。
荒んだ世を憂いて、大手アンドロイドメーカーが、セラピーアンドロイドを生み出したのだ。
どんなアンドロイドかと言うと、人間のような感情をもつアンドロイドだ。
動物や赤子に癒される人は、少なくない。
一部の病院では、動物と触れ合うセラピーを実施しているぐらいだ。
研究者は考えた。
人は、動物の無垢で純粋なその心に癒されているのでは、と。
現に、動物型ロボットや動物育成ゲームなどに癒やしを感じてる人は、多い。
ならば、ヒト型アンドロイドでも、同じことができるはず。
そして出来上がったのが、セラピーアンドロイド。
人との触れ合いによって、感情が芽生え個性が成長するアンドロイド。
研究所内での実験は成功している。
あとは実践データが欲しい。
それが、今回の募集のようだ。
ハガキの隅のQRコードを携帯電話で読み取ると、より詳しいホームページがでてきた。
実施期間は3ヶ月。
ひと月毎にレポートを提出。
アンドロイドは無償提供で、諸経費も会社負担。
謝礼金額を見ると、月々10万の計30万。
悪くない、な。
アンドロイドは高い。
普及率の上昇に伴って、相場の値段も随分下がった。
それでも自分のように、日々の生活すらギリギリの人間には、おいそれと手出しできない値段なのだ。
あれば便利だろうと思いつつ、ずっと歯噛みしていた。
逆立ちしたって一生持てないと思っていたアンドロイドを、一時期とはいえ持てる。
家事をこなす負担が消える上に、謝礼まで貰えるんだ。
こんないい話はない。
応募ページを開くと、個人情報をこと細かに(住所や携帯電話の番号はもちろん、家族構成や生活パターンまで)書かされ、性格診断や心理テストをいくつか受けた。
すべてのテストが終わったあと、アンドロイドの選択ページが現れた。
実験段階の割に、種類が豊富だ。
成年A型・成年Y型・青年型・少年型、さらに何故か基本的な家事すら出来そうもない幼児型まである。
それぞれに男女が用意されて、10パターンもある。
成年Aの外見年齢は、40代後半から50代前半ぐらい、成年Yは20代後半から30代前半ぐらい。
青年型は10代後半、少年型は10代前半、幼児型は2歳前後。
性別は女性型にするとして…年齢はどうしようかな。
アンドロイドでもなきゃ、こんな美人には近づけないわけだし。
んー…やっぱり青年型だろうか。
僕の守備範囲は、下は12歳の上は35歳と幅広い訳で、まぁ、少女型でも成年Y型でもイケるんだけど。
20歳の僕といて違和感なく、デ…デートとかいろいろできるのは、やっぱ青年型だろうし。
少女型連れてて、タイーホされたらやっぱ困る。
アンドロイドはいろいろあれど、外見年齢はやっぱ成人が多いのです。
言っとくけど、僕は決して変態でもロリコンでもない。
ちょっと妄想過多だけど、あらゆる女性を愛でる博愛主義なだけだ。
……たぶん。
応募から1ヶ月後、メールにてモニターに当選したことが知らされた。
さらに一週間後、僕の家にアンドロイドが届いた。
季節はすっかり、秋になっていた。