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ツイッタ投下小話(虎豪)





「傍にいます、俺だけは」

昔から意志の強い瞳だった。
口にする訳ではない言葉を何より明確に伝えてくる。
向けられる方がもどかしくなる程の一途さで。
後輩以上の存在としては受入れられなかった昔を乗り越えて、今、昔以上に傍にあるこの瞳に、一体自分はどれほど救われてきただろう。

「……ありがとう」

自分も思いを言葉にはしない。
けれど、真っ直ぐな瞳を見つめ返せば、彼は微笑むのだ。

「離れませんから、決して」

それが二人の暗黙の了解だ。







* * * * * * *



聖帝になるにあたり、いったいどんなやりとりが二人の間でかわされたのか、というのがココ最近の妄想の種です。


クリスマス企画より(染豪)






「お前、耳赤いぞ」

自分の吐く息が白くて、そうすると当然隣の人物の吐く息も、白い。
声をかけるとこちらを向いたから、自分の吐きだした息と相俟って、二人の間の空気がほわりと白んだ。
自分も相当に寒いのだが、自分よりはいくらか色の白い豪炎寺は、頬も耳も真っ赤になっている。
自分よりもよほど寒そうに見える。
特に、耳。

「そうか?」

しかし本人はあまり気にもしていないのか、意外に寒さと感じていないのか、首を傾げただけだった。

「そういう染岡も、」

手袋もしていない手が伸びてくる。
頬を通り越して、右耳に触れた。

「冷たいぞ、真っ赤だ」

豪炎寺の指先も真っ赤で、相当に冷たいはずなのだが、触れられてあまり冷たさを感じないということは、自分の方も相当に冷えてしまっているとい

うことだろうか。
しかし、言い出したのは自分の方。
そんなことはない、豪炎寺の方が赤いと対抗するために、染岡も手を伸ばす。
右手が豪炎寺の耳に到達したが、自分は手袋をしている。
染岡の指の冷たさよりも、毛色の柔らかな感触の方が伝わったはずだ。
触れる耳朶は手袋越しにも冷え切っていて、しかし柔らかかった。

「……あったかいな」

豪炎寺が小さく笑った。
少々くすぐったかったのか、小さく肩を竦めたが、振り払われることはない。
指の腹で耳の縁をなぞってそっと包むと、ふ、と笑いながら息を吐いた。

「だろ、やっぱりお前の方が冷たい」

「手袋してたら反則だろう」

「関係ねえよ」

俺の勝ちだと胸を張ると、何の勝負だと呆れられた。
染岡の耳を摘んだままだった豪炎寺の指が、ふいと降ろされた。
そして、豪炎寺の耳に添えられた染岡の手に、それが重なる。

「耳もいいが、」

「何だよ?」

「こっちの方が、あっためてもらいたがってる」

そっと外された手が、今度は指が絡んで繋がれた。
辺りに人影はない薄暗闇とはいえ、外でそういう触れ方をすることはほとんどない。
しかも、豪炎寺の方からだ。
度肝を抜かれた染岡が言葉に詰まっていると、豪炎寺が困ったように眉を寄せた。

「ダメか?」

「……じゃ、ねえよ」

驚いただけだ。
言えば安心したように微笑んだ顔が前を向いて、再び歩き始めた。
繋いだ手がお互いを引きあって、時々肩がぶつかる。
ふと横を向けば豪炎寺もこちらを向いて視線があって、二人の間の空気の白さが濃さを増す。

「あったかいな」

豪炎寺は言うけれど、それは染岡にしても同じ。
絡んだ指先から、伝わる温度は、心に温かさを灯す。
今夜は雪だと天気予報が告げていた。
けれど、この温度があれば、寒くはなさそうだ。





さつきさん、ありがとうございました^^

Merry X'mas!!
2011.12.25

クリスマス企画より(真修)





両親がでかけてしまう週末を利用して、従兄の修也が泊まりに来ていた。
夕食を終えて片付けを済ませて、俺はダイニングの椅子に腰かけてお茶を入れて啜っていた。
洗い物くらいはするというから修也に任せて、流しに向かう背中を眺めているとちょっと幸せな気分になる。
お互いにそれぞれの生活が忙しいから、なかなか二人きりで過ごすなんてできないんだ。
さて、明日はいつもの例にもれずサッカーをして、ちょっと買い物にも出かけて、と、翌日の予定を頭の中で考える。
晴れるといいけどな、と、窓の外に目を向けると、ちらちらと白いものが夜の景色に浮かんでいる。

「修也、雪だ」

ちょうど修也は洗い物を終えて、手を拭いてこちらにやってきたところだった。

「初雪だな」

呟いて窓の上枠に手をかけて覗き見る修也の肩越しに、立ち上がった俺も窓を覗き込む。
暗くてよくは見えないけれど、降り始めたばかりらしい雪はまだ積もるには至っていない。
他の家の窓明かりに照らされてぼんやり浮かび上がる白が、ふわふわと揺れている。

「積もるかな」

子どもでもあるまいに、一瞬期待感が胸をよぎったのは修也には秘密だ。
修也の肩に顎を乗せると、こら、と額を叩かれた。

「数年に一度の大寒波らしいけど。どうかな」

付けっ放しのテレビからは、大雪に注意、なんてニュースをやっているけれど、都市圏のここでは積もっても数センチ。
明日出かけるには、大した支障にもならないだろう。



と、思っていたのに。



『数年ぶりの積雪に見舞われて、首都の交通網は大打撃を受けています!』

真っ白の景色の中、野次馬の子どもがちらつくテレビ画面の中で、レポーターがもこもこのダウンジャケットに着ぶくれてそんなことを言っている。
分厚い遮光カーテンを開けると、どんよりと黒い雲。
だけど、積もった雪の白さでか、世界はどこか明るく見える。
修也と向かい合って、昨日作り置いておいた味噌汁を啜りながら、卵焼きを摘んだ修也の箸の使い方が相変わらず綺麗だな、なんて、呆れられそうな

ことを考えた。
一方修也の方は、俺のひそかな感慨なんて思いもよらない。
食事を終えると窓の外を気にしている。

『ご覧ください、久々の積雪に、子どもたちは大喜びで遊んでいます』

画面の中ではマイクを向けられた小さな男の子が、雪の玉を抱えてにこりと笑っている。
ゆきであそべてうれしい、少々舌ったらずな口調での答えが画面いっぱいに映り込んで、そちらに目線を向けた修也が微笑んだ。
夕香を思い出しているんだろう。
もう従姉の夕香はこんなに小さくないけれど、面倒見のいいところのある修也は基本的に年下に優しい。
男の子を見て和む修也を見て、俺が和んで、それからひとつ、提案をした。

「外、行く?」

「何するんだ?」

こんな雪の中、と指し示す窓の外、いまだに雪は降り続いているのだ。
雪国の人たちからすれば微々たるものなんだろうけれど、この辺りで暮らす人間にとっては大雪の部類に入る。

「えぇと、」

サッカーをしようにも、この分では近くのグラウンドも雪にまみれて真っ白だろう。
そして、ちょっと動けば今度は溶けた雪が土と混じって一気にどろどろだ。

「……雪だるま、作ろうか」

ちっちゃい頃、一度大雪が降ったことがあって、その時も遊んだなあと思い出したのだ。
田舎のばあちゃん家で雪まみれになって、転がりまわって遊んだ記憶。
まだまだ小さかった夕香を抱いて、窓越しに修也のおばさんが見えた。
ぶんぶんと手を振る俺たちに、優しい笑顔でおばさんが手を振って、それから夕香の手をもって振ってくれた。
夕香に見せてやりたくて、大きな大きな雪だるまを作ることにした。
手近な雪を小さく丸くこねて、毛糸の手袋でぺしぺしと叩くと雪がしみて冷たかった。
じんじんする指先なんて、でもまったく気にならなくて、二人して雪玉を転がしながら大きなふたつにした。
修也がほんの少し大き目に作ったから、その上に俺のを乗せて、完成。
窓辺に手を振ると、小さな夕香がぱちぱちと手を叩くのが見えて、とにかく嬉しくなって、修也と二人でおでこをくっつけあって喜んだ。
懐かしい記憶が、どんどん蘇ってきて、俺はいてもたってもいられなくなる。

「外、行こう」

誘うと言うよりはもう強引に連れ出す勢いで修也の腕を引っ張ると、仕方ないなと修也の眉が下がって、それからいいよと頷いた。
テレビ局のレポーターみたいにもこもこに俺たちも着ぶくれて、マフラーをぐるぐる巻きにして外に出る。
止むことなく降り続ける雪に手をかざして、子どもみたいだなとまた呆れられた。
そうかも。
俺は修也といるとついつい昔に戻ったみたいな心持ちになる。
でも、それだけ、優しくてあったかい思い出がいっぱいあるってこと。

「たまには、修也だっていいんだぞ?」

子どもに帰っても。
雪に大喜びして、飛んで跳ねて転がりまわって、それからおでこをくっつけあって楽しさを共有するんだ。
大人びた修也がそんなの見せられるの、だって俺しかいないだろう?

「……そうだな、たまには、な」

嬉しくなって修也の手を取る。
ごつんと額をぶつけると、勢い余ってなかなかの痛みだった。

「バカ、痛い」

苦笑する修也は、でも、俺の額を跳ね除けない。
くしゃりと笑う顔が、いつもの大人びた雰囲気を消して、俺はそれが嬉しかった。
修也のこんな顔を見れるのは、多分、俺だけなんだから。





シノブさん、ありがとうございました^^

Merry X'mas!!
2011.12.25

幸福を掬うひと(真修)




スプーンは幸福を掬う





「……何だって?」

従兄弟の言った意味が捉えられなくて聞き返すと、真人は肩を竦めた。

「だから、スプーンは、」

今ちょうどマグカップの中身をかき回していたスプーンをひらひらとかざして、何故だか真人は胸を張った。

「……幸福を掬う?」

一息空いた間を引き取って続けると、そう、とスプーンを突き出してきた。

「縁起がいいアイテムなんだって」

こないだなんかの番組で言ってたの思い出した、と温めたばかりのコーンスープに口を付け、

「あちっ!」

舌を出した。
その様子に思わず吹き出すと、照れ笑いが返ってくる。

「夕香の分、もっと冷ましとかないとな」

この従兄弟は、豪炎寺の妹を実の妹のように可愛がっている。
自分にとって大事な妹が、他の人間からも大事にされているのは嬉しいものだ。
夕香の分のカップを抱えて、くるくると新しいスプーンでかき回す真人を微笑ましく見ていると、

「で、」

真人が視線をあげた。
ぱちりと目が合って、

「何だ?」

「考えたんだ、俺」

「何を」

「どうやって掬おうかなって」

「……?」

何を言っているかわからないが、真人が真剣なことだけはわかる。
自分とよく似た切れ長の目が、それは真直ぐにこちらを向いている。
そして、

「修也の、幸福をさ、」

とても優しい色になる。

「俺が掬ってやりたいなって」

三つ並んだマグカップの、まだ手を付けられていないひとつは自分のためのものだ。
真人がそれに手を伸ばし、スプーンを差し込んだ。
くるりくるり、柔らかい黄色の液体がマグカップの中を回って、とぷんと揺れた。

「ほら、」

差し出されるスプーンに、程よく冷めたコーンスープが掬われていて、

「…………ああ、」

ぱくりとそれを口に含むと、

「幸福の味、だな」

笑顔を向ければ真人からも同じものが返って。
温かいのはスープだけではなくて。

「夕香にも、持っていってやらないとな」

マグカップをふたつ、両手に抱えた真人にふわりと頷いた。

「ああ」





2011.2.28


豪炎寺さんには [ 翼 / スプーン / 勇気 ] なんていかがでしょう。
shindanmaker.com
#3randomkey2

より。
結局スプーンしか入らなかったのですがまあ。
勘弁してください……

冬の日の帰り道(染豪)






ひゅる、と、一際強い風が吹いた。
頬を切る冷たさに、思わず目を閉じる。
首もとに巻いた毛糸のマフラーがふわりと舞って、ひらひらと翻った。
漂う尻尾を捉まえて巻き直すと、一瞬とはいえ冷気に曝された毛糸はすでにして冷たくなっていて、触れた頬がひやりと冷える。
少しでもあったまらないかと、マフラーに顎を埋めて息を吐いた。
籠もる息に、いくらかだけは温かさを感じて、竦めた首をもとに戻す。
ふと見ると、同じ風にさらされた隣の染岡はいかにも寒そうに首を竦めていた。
この真冬に、マフラーのひとつも巻いていない。
しまった忘れた、と舌打ちしていたのは自主練を終えて、帰り支度をしていたときだったか。
一昨日あたりから、テレビの天気予報が「あさっての昼過ぎから寒波到来、みなさま温かくしてお出かけください」、なんていう言葉を繰り返していた。
豪炎寺はそれに従ってきちんと防寒の出で立ちをしてきたのだが、自主練のことしか頭になかった染岡は、そんなことがすっかり抜け落ちていたらしい。
風が吹くたび、うお、だとか、さみぃ、だとか、あまりに寒そうで、大きな体が首も肩も縮こめているのを見ると、気の毒になってくる。

風邪を引かれては困る。

と、思う。
チームの大事な仲間で、さらに染岡は自分と連携を組むことも多い大事なフォワードだ。
練習でだって行動を共にすることが多いから、もしも染岡がいないと困る、と、思う。

「…………………」

染岡は、さみぃさみぃと相変わらず繰り返している。
坊主頭の髪型も相まって、風が彼の傍らを通り様は、ああ、確かになんて寒そうなんだろう。

「………染岡、」

「あ?」

なんだよ、と振り返った寒そうな首筋に、すいと手を伸ばす。
うわ、と染岡が声を上げた。
ぺたりと当てられたものに、染岡が目を丸くした。
買ったばかりのホットココアのボトルを当てたのだが、大げさにびくりと驚くのが少しだけおもしろい。
もともと感情表現は豊かなやつだからまあ、こういう反応も大きいのだろうと思う。

「すまん、驚いたか」

それでも手を引っ込めないまま謝ると、

「いきなり首当てられりゃな、」

そりゃ驚くだろうと、染岡は首をさすりながら息を吐いた。
手袋のひとつもしていない指先が、豪炎寺の指にちょんと触れた。自分の指だって十分に冷たい自覚はあるが、それ以上に冷えきった指にまた、気の毒になる。


「マックスあたりならともかく、お前がそういうイタズラまがいのことするとか思わねえし」

確かに、松野辺りは喜んでやっていそうだ。
餌食になるのは大抵染岡か、彼に言わせるとからかい甲斐があるらしい半田といったところか。
慌てふためく反応がおもしろいじゃん、といかにも楽しそうにあれやこれやとイタズラをしかけては大騒ぎをしているのは、まあ、雷中サッカー部にとっては日常の光景だ。
その松野とは違って、豪炎寺には驚かせようとかイタズラのつもりは欠片もなかった。
ただ、

「寒そうだと、思って」

「………まあ、実際寒いよな」

どうやら豪炎寺にそういうつもりがないことは、分かってもらえているらしい。
松野がしかけたときとは明らかに異なって、頬を掻くだけの反応は、別段怒っている様子もない。

「サンキュ」

少しばかり照れたように目を背けて礼を言われて、豪炎寺は内心でほっとした。

「今日は寒いから、な」

そう返すと、そこで、

「お前も寒いのか?」

と聞かれて、少し首を竦めた。

「今年最後の大寒波到来、なんて言われて平気なほど強くはない、な」

つまり、寒いに決まっている。

「……お前でも、寒いもんは寒いのか」

何故か嬉しそうな染岡は機嫌よくはは、と声を上げて笑った。

「お前、サッカー以外じゃわりと普通だもんな」

サッカーはすげえけどな、と、改めて言われると、多少くすぐったいのだが、

「……どういう意味だ?」

普通、というのがどういう意味合いを含んでいるのか捉え損ねて聞き返す。

「貶してねえよ」

「そうなのか?」

「ああ、むしろ、」

口の中だけで響かせたようなその続きが聞き取れなくて、豪炎寺は首を傾げた。

「むしろ?」

「……………なんでもねえよ」

「なんでもないのか?」

「ああ、ねえよ」

またあちらを向いてしまった染岡だが、彼がないと言うんだからないのだろう。
ただ、染岡が寒さに負けないくらい嬉しそうにしていて、それならそれだけでいいかとひっそりと思った。

「帰るか」

「おう、」

勢いよく返事を返して、帰るか、と、に、と笑う顔に、豪炎寺も少し笑って返した。

大寒波とやらは確実に街全体どころかこの地方一帯を覆ってはいるが、豪炎寺の心はぽかぽかと温かい。
それがこの笑顔に支えられているとわかっているから、染岡も同じようであればいいと思って豪炎寺はもう一度、笑顔を乗せた。








同じように感じたら嬉しい、
そういう話。



2010.12.29
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