ノアールとフォルのお話です。
ナハトさんが可愛らしいノアールとフォルの昔のイラストを描いてくださったので…
昔のノアールの様子を書きたかったのと、フォルが相変わらずなのを書きたかった←おい
ノアールも昔は泣いたり怒ったりしてたのかなぁ、と思いつつ…
とりあえず、ショタ時代のノアは可愛かったとおもうのですはい(^q^)
今はあんなフォーマルな格好してるけど今はTシャツにジーンズというか長ズボンという…
パーティの時はフォーマルウエアも着てたはずですがね←おい
ともあれ、追記からお話です!
吹き抜ける冷たい風。
街中の冷たい階段の淵に腰かけながら、主の帰りを待つ。
そんな漆黒の髪の青年を、街行く人々は不思議そうに見ていた。
凛とした容姿。
物静かなその様子に声をかけるツワモノもいたが、彼……ノアールが冷たく跳ねのけると、恐れをなして離れていった。
ふぅ、と息を吐き出す彼。
ここ数日暖かい日が続いていたけれど、今日は少し冷え込む。
寒さが苦手な堕天使がよく出かけると言い出したものだ、と思いながら彼は息を吐き出した。
ふわり、と息が白い靄となって空に昇る。
それを見ながら、彼は目を閉じた。
頭をよぎる、自分の記憶。
遠い昔の、痛い記憶。
そうだ。
此処は、あの日初めて、フォルと出会った場所。
心も体も傷ついたその状態で逃げ出してきたノアール。
彼をこの場所で拾ってくれたのが、あの堕天使だった。
美しい、空のような、或いは深海のような、青い瞳。
冷たい風に揺れていた、亜麻色の髪。
差し出された白い手。
自分が浮かべることなど出来なくなった、子供らしく明るい笑み。
―― あぁ、彼は今も昔も変わらない。
そう思いながら、ノアールは目を閉じる。
そして、考えた。
自分が、もし普通の家に生まれていたとしたら。
自分は彼に……フォルに出会うことはなかっただろうか。
そんなことを想いながら……――
***
彼が生まれたのは、ディアロ城下の街の、とある屋敷。
ルシェラルド家という、中流貴族の家だった。
華やかな生活。
彼も、貴族の家の御曹司にふさわしい習い事を幾つもした。
ダンス。
器楽。
マナー。
乗馬やフェンシングも。
普通ならば、彼は周囲に誉めそやされただろう。
彼は頭もよく、スポーツも出来たから。
そして家柄も良い……
そんな彼は、本来周囲に好かれるはずの存在だった。
しかし……
そうはならなかった。
寧ろ、彼は疎まれる存在だった。
その理由……
それは、彼の容姿故だった。
艶やかな黒髪。
黒曜石のように美しい漆黒の瞳。
それは、不吉の象徴とされていた。
それ故に、彼は疎まれる存在となっていた。
誰にも相手にされない。
誰にも愛されない。
……そう。
実の親にさえも。
彼の中にある"家"や"家族"の記憶。
それは痛みと恐怖に支配されたものだった。
強い衝撃。
痛み。
それを堪えながら顔を上げれば、思い切り髪を掴まれた。
「っ……」
「そんな目で私を見るなといっているでしょう!?」
甲高い叫び声。
目の前にいる女性は憎しみの籠った瞳で、ノアールを睨みつけていた。
目の前にいる女性は、彼の母親。
彼女は、ノアールを憎んでいた。
実の息子でありながら、彼が息子であることを心の底から憎んでいた。
詫びても、縋っても、彼女はノアールを愛しはしなかった。
そのことは、ノアール自身も良く知っていた。
夜遅く。
一人自分の部屋に戻った後……
ノアールは、自分の父親と母親が怒鳴りあっているのを聞いた。
「何なのよ、私に当たることないでしょう!?」
「お前の子だろうッ!」
そんな、叫び声。
ヒステリックな母親の声と、苛立ちの籠った父親の声。
彼らが、自分の事に関して話しているのがすぐにわかった。
「それを言うなら貴方の子でもあるでしょう!?」
「私にはさっぱり似ていないじゃないか!
お前がよそで作ってきた子供なんじゃないか!」
父親がそう叫ぶ。
彼がそう思っていた事は、その時に知った。
確かに自分は、父親にも母親にも似ていない。
父も母も、自分のような黒髪でも黒い瞳でもなかった。
だから、父親は母親に言ったのだ。
"お前がよそで作った子供ではないのか"と。
その言葉に、幼かったノアールは傷ついた。
けれどそれ以上に、母親の言葉は残酷だった。
「それは私だって知らないって言っているでしょう?
あの子が私の子だなんて、私だって信じたくないわよ気味が悪い」
間違いなく自分が生んだはずの子供を、否定する。
気味が悪い、と。
最初からわかっていたつもりだった。
彼らは自分を疎んでいるだけだと。
けれど……
それでも、確かに傷ついた。
哀しかった。
大人しくしていれば、彼らの、両親の言う通りにしていれば。
いつかは、いつかは……そう、思っていた。
「本当にか、ルシェラルド家の血を引いていないならあんな子供は……」
父親の声が遠くなっていく。
それを、ノアールは聞いていた。
その頬に涙が伝い落ちていた。
思えば、涙をこぼしたのはその時が最後だったかもしれなかった。
***
それから少しずつ暴力は悪化した。
素手で殴られたり足でけられたりでは済まなくなった。
固いものを投げつけられたり、脅しで武器を向けられるようにもなった。
命の危機を感じて、ノアールは逃げ出して……――
「君も、同じ?」
そう問いかける声が聞こえた。
はっとして、ノアールは顔を上げる。
「え……」
「ふふ、覚えてる?
僕が此処で、君に声をかけた時の事」
そういってフォルは笑う。
人懐っこい、子供のような笑み。
それを見て、ノアールはふっと表情を緩めた。
「ちょうど、そのことを思い出していました」
あの時のことを。
そういってノアールは口をつぐむ。
本当は自分の過去のことも思い出していたのだけれど……
それは口に出すまでもないだろう。
フォルはそれを聞いて、笑った。
そして、懐かしむような顔をして、言う。
「見た瞬間にわかったからね。
君は僕と同じ、この世界の"異端者"だって」
誰にも愛されず、認められず。
それでも、認めてほしかった。
ポツリ、呟いたフォルの表情は見えない。
ノアールは少し驚いたように、ゆっくりと瞬きをした。
フォルはふっと息を吐き出した。
そしてあの時のように手を差し出して、笑う。
「帰ろう?」
そういいながらフォルは笑う。
ノアールは彼の言葉に頷いて……少し躊躇いながら、彼の手を取った。
ひやりと冷たい、その手。
"あの日"と変わらないその手を感じながら、ノアールは漆黒の瞳を細めたのだった。
―― Desire for recognition ――
(昔は確かに、望んでいたと思う。
認められることを、そして……――)
(親に?妹に?それとも、貴方を否定したすべてに?
…主、貴方はいったい誰に認められることを求めていたのですか)