本部・司令室――


穏やかな雰囲気の司令室に御堂と時任が。

「あれ…室長鼎は?」
御堂が聞いてきた。
「息抜きに散歩行くって言って、本部周辺にいるよ。10分、15分くらいで戻るって言ってたからそこらへんぶらぶらしてるんじゃない?」

「宇崎」
「どした北川」
「紀柳院、やけに遅くないか?本部出てからもう20分以上経ってるぞ」
「室長、モニター回せる?あいつ何かに巻き込まれたかもしれねーだろ?」

「わかったよ。和希、ほれ」
宇崎は本部周辺の映像を出す。鼎はどこにいるんだ?



ゼルフェノア本部は東京都内・多摩地区にある。本部周辺は意外とのんびりした雰囲気。
鼎はコートを羽織り、とぼとぼと歩いていた。

そろそろ戻らなくては…。


一方の恭平。恭平はひとり、とぼとぼと歩いている鼎の姿を目撃。

司令補佐?ひとりでなんて珍しくないか?


鼎はふと、立ち止まる。少し離れたところでは「蒼い炎」が燃えていた。

こんなこと…あり得るのか!?飛焔は倒したはず…。



鼎は火が苦手だ。なんとか克服こそは出来たが、それでもあの飛焔が発した爆発に巻き込まれ「生きたまま焼かれた」せいで苦手なのにはかわりない。
特に怪人由来の「蒼い炎」に関しては克服出来ない。トラウマが鮮明に蘇るからだ。


「嘘…だろ…!?なんで…?」


鼎の体はガクガクと震えていた。そして立っていられなくなり、しゃがみこむ。気持ち悪い。吐き気がする。


恭平は思わず駆け寄っていた。

「おい!大丈夫か!?なんか具合悪そうだけど…」
鼎は恐る恐る顔を上げた。そこには約3週間前に話した青年の姿が。

「お前…あの時の青年か?」

「…そうだ。また司令補佐に会えるんじゃないかと思ってた」
「お前…あの『蒼い炎』が見えないのか?」


鼎はその蒼い炎の場所を示した。恭平は見てみるも、何もない。
「…何もない」


一体どういうことだ!?



端末のアラートは遅れて鳴った。蒼い炎は幻覚なのか、鼎にしか見えないらしい。


「怪人が出たようだな。…私は動けないが」
「何もないじゃん。どういうことだよ?」

「『蒼い炎』が辺り一面燃えているのが見えた。…私は『蒼い炎』に関しては…トラウマがある。
悪い…まだ気持ち悪くて…」
「立とうとするなって!具合悪いんだろ!?
大人しくそこにいた方がいいよ…。隊員達、来るんだろ?」
「もう来てる」


通信からは御堂の声がした。

「怪人の姿が全然見えないんだが、出たのか!?」
「幻覚なのかはわからないが『蒼い炎』を見た。和希…私は動けそうにない。トラウマが再発したからな…」

「幻覚系って厄介だぞ…。鼎はそのままそこにいろ。具合悪いんだろ?」
「まだ吐き気がする…」
「お前は下手に動かない方がいい!誰か側にいるのか?」
「1度だけ会話した一般市民がいる」


…一般市民?



恭平は鼎をよく見た。首筋にも大火傷の跡が生々しく残っている。
顔はそれ以上にひどいのか…。


「…お前、私のことを嗅ぎ回っているんだろ…。そんなにも知りたいのか」

なんで知ってるんだ?組織で監視してるとか?それとも直感か?


「お前…知って何になる?拡散する気か?馬鹿げたことはよせ…知ったところで得はしないぞ…」

恭平は鼎がだんだん過呼吸のような症状を起こしていることに気づく。幻覚の蒼い炎を見て一気に体調崩したのか…。


鼎の異変に気づいたのは時任だった。
「御堂さん!きりゅさんのところに行ってきまっす!応急処置しないとなんかマズイよ!」
「いちか、これを持っていけ。助かるはず」

御堂は簡易酸素吸入器を投げ渡した。時任は受け取る。
「いちか、もしかしたら仮面外さねーとならないかもしれない。お前…鼎の素顔見たことないんだろ。
変な反応だけは絶対するな。あいつが傷つく」
「ら、ラジャー…」


時任は急いで鼎の元へ。



恭平は鼎を寝かせた。やっぱりかなり具合悪そうにしてる。
こういう場合、どうしたらいいんだ…!相手は仮面を着けている。明らかに苦しそうだ。

そこに時任がやってきた。
「そこの一般市民、きりゅさんを寝かせてくれてありがと。
ここからはあたしが処置するから!」

時任も彩音から鼎にあり得る症状の対処法を学んでいた。シミュレーションもしている。


これ…御堂さんが言ってた通りだ…。仮面を今すぐ外さないとますます悪化する…。直接口元に酸素吸入しないとヤバい…。


「そこの一般市民くん」
「は、はい」
恭平はビクッとした。

「今からきりゅさんの仮面を外しますが、騒がないでよね。
司令補佐の素顔を見たからって外部に拡散すんなよ。言いふらしたらダメだかんな。今は緊急だ、時間がない。
鼎さんはなりたくてこうなったわけじゃないの。わかるか君ィ!?」


時任の声色が変わった。いちかは本気モードになると口調が少し変わる。
そしてそっと鼎の仮面が外される。角度の関係で素顔はほとんど見えないが、2人は初めて見る鼎の素顔に、どう反応していいのか複雑。

恭平は「思っていた以上に大火傷の跡がひどい…」と感じた。見るのが辛い。
いちかも同じようなことを感じたが、処置優先なので意外と冷静。


時任は簡易酸素吸入器を鼎の口元に当てた。酸素を送り込む。
ゼイゼイ言ってた鼎もだんだん落ち着いてきたようだ。発作とは違う症状だったらしく、酸素吸入だけで処置は完了。


いちかは落ち着いた鼎の体をゆっくり起こし、優しい手つきで仮面を着けている。

「きりゅさん、頭痛くない?キツくない?」
「痛くないよ」
「きりゅさん、幻覚系の怪人は御堂さんが倒したよ。だから蒼い炎はないよ。安心して」

いちかは鼎の肩を優しくポンポン叩くと持ち場へ戻った。ゆっくり休んでの意味らしい。


恭平はこの一連の流れを呆然と見届けるしかなかった。

処置が手慣れてる…。隊員も把握してるのか。…それにしても司令補佐の素顔…思っていた以上に大火傷の跡がひどい…。あんなんじゃ、とてもじゃないが人前には出られない。


鼎は恭平に気づいた。

「まだいたのか、お前」
鼎は背後にいる恭平を見るために、僅かに振り返る。白い仮面が見えた。
黒いコートに白い仮面が際立っている。

「だ、大丈夫なのか!?」
「いちかのおかげで症状は治まったよ。…お前…私の素顔見たよな…。緊急だから仕方ないが。
見たと言って外部に拡散するなよ。こっちは傷ついてるからな…お前みたいなやつにはわからないだろうけど」


お前みたいなやつにはわからない。恭平は突き刺されたような感覚になる。


恭平は空気を読まずにこんなことを聞いてしまう。鼎はゆっくり立ち上がろうとしている。

「紀柳院司令補佐の正体は『都筑悠真』なんですか?」


鼎は立ち上がるとしばし恭平に背を向けたまま。間を置いてこちらを見た。
仮面姿ゆえに表情がないはずなのに…なんだか圧を感じる。


「私は私だ。正体なんて突き止めて何がしたい?」
「…俺…傷つけてしまいましたよね…?すいません…」

「お前、名を何という?答えろ」
「す…菅谷恭平…です……」


恭平は鼎の圧に萎縮してしまってる。鼎は語気を強めにはっきりと言った。

「今後一切、お前は私に関わるな。組織ではネット絡みの監視もしている。
お前と鷲尾は既にマークしていたんだよ。言っておくが、ゼルフェノアは私に関して隠蔽なんてしていない。
そんなにも知りたいのなら、北川か加賀屋敷にでも聞け。まぁ…一般市民が彼らにアポを取るのは難しいだろうな」


北川は鷲尾が言ってた「北川元司令」だとすぐにわかったが…。
「加賀屋敷」って誰!?


新たな謎が出てきてしまった。加賀屋敷とは何者なんだ!?



――数日後。某喫茶店。

恭平は鷲尾と合流。恭平は司令補佐の正体を突き止めることをやめると告げる。


「恭平くん、やめちゃうの?」
「こんなことをしても無駄だと気づきました。何やってんだろうってなったんです」


数日前に見た、司令補佐の素顔が脳裏から離れない。どれだけ壮絶だったんだろうか…。
あれほどの大火傷って、相当だよな…。

恭平は複雑になる。



本部では時任が鼎に話しかけてきた。


「きりゅさん…あたし初めて素顔を見たけど…。本当は辛くて辛くて泣きそうだったの。でも助けたいからなんとか冷静になれた」
「いちかは優しいな」

鼎は時任の頭をなでなでする。
「きりゅさん、あたしは子供じゃないよ〜」
「小動物みたいで可愛いな、お前」



恭平は鼎が言ってた謎の男・加賀屋敷について調べてみることに。
だがいくら調べても出てこない。出たのは最新情報だけ。


そこには「ゼルフェノア所属。ゼノク医療チームチーフ・外科医」とだけあった。

外科医?ゼノク医療チームなんて初めて聞いた。
加賀屋敷とは一体何者なのか…。





特別編 (4)へ続く。