夏目創作。

 夏目って言うと、誰もが、皆、漱石の子孫と勘違いするだろう。

 しかし、彼は漱石とは何も関係のない至って、普通の一般人だ。

 

 そう。至って、普通の…

 「地元の本屋で、働いている夢も希望も全てを捨てた男です」

 「何、独り言、言ってんだよ」

 「すいません」
  
 会社の先輩に注意されて、慌てて、自分の持ち場に戻る。

 今、俺は店のカウンターを一人で、任されている。

 すごいとか、思ってくれている読者の方、ありがとう。

 だけど、すごくなんか、ないのだよ。

 「おい、夏目、お前、周り見てんのか」

 うわ、出たよ。先輩であり、俺の担当者である中川卓郎さんからのお小言タイムが。

 「見てますとも」

 見れる限りだけど…
 
 「悪いけどな…俺からしたら、お前、全然、周りみてないと思うぞ」

 ああ、そうかよ。

 「そりゃ、すいませんでした」

 この会話を繰り返すのはもう、何度目になるだろう…

 「お前、いい加減にしろよ。やる気ないなら、店長にクビにしてもらうからな」

 「ま、こわーい」

 いつものことなので、適当に答えるけど、さすがにそろそろ、マジでヤバいかもしれねぇな。

 ここいらで、俺もいっちょ、本気を出してみるかな。

 と思うのだが…

 「中川さん。俺は出しで、いいんですか?」

 出たな。新米スタッフのこうじま廉矢。

 「ああ、出しで、頼むよ。その前に全体回ってもらえるかな」

 「はい。わかりました」

 返事をして、売り場に戻っていく廉矢に俺は心の中で、舌打ちした。

 きにいらねぇな。

 俺のスイッチが入ると必ず、廉矢がやってくる。

 「こうじま廉矢です。○○○オフ経験者ですが、初心者と同じように扱ってください。よろしくお願いします」

 礼儀正しく、とても真面目で、すごく、気の利く廉矢は入ってすぐに皆と仲良くなった。

 「全く、お前も、少しはアイツを見習え」

 「はいはい」

 知らないから、言えるんだ。

 こうじま廉矢の秘密を…



 それはつい最近のことだ。

 「お疲れッス」
  
 そう言って、いつものように先に帰ろうと入口を出たとき、俺は思わず、目を疑ってしまった。

 なぜかと言うと、駐車場のど真ん中で、男女が堂々と人目もはばからずにキスしていたからだ。

 それもただの軽いキスではない。

 今にもクチュクチュと音が響いてきそうな舌を絡めながらの濃厚なキスだ。

 (カップルだよな…)
 
 場所を考えろよ、バカップルどもめと心の中で悪態を吐きながら、素通りしようとしたが、相手の顔を見て、思わず、大声を上げてしまった。

 「お前はこうじま廉矢!!」

 

 
 思えば、あのとき、気づいても、知らないフリをしていたら、あんなことにはならなかったのかもしれない…

          つづく