今日の帰宅は須藤と一緒。
ほぼ強制だった。
須藤は、一人の時と同じ速度で歩くオレの、ぴったり隣に着いて歩いている。
「あ、あー…今日の数学、難しかったな」
「え、そうだった?…解らないところがあるなら教えようか?そうだ、勉強会でもしようよ。二人で」
「あ、いや、良いよ。…先生に聞くから大丈夫」
「……そう」
「………」
時折訪れる沈黙が痛くて、何とか当たり障りのない話題を探しては口を開くが、すぐにオレの方が黙ってしまう。

取り繕いと沈黙を繰り返している内に、いつの間にか帰路も中頃を過ぎていた。
「なあ、須藤の家ってどこにあるんだ?」
「あっちだよ」
「…同じ方向か」
オレは、感情を声に出さずにいられただろうか。
交差点を通り過ぎ、住宅街へと進んでいく。
途中何度かの曲がり道でも、須藤は俺の隣から離れる事はなかった。
家に近付くにつれ、懸念が大きくなっていく。
そして遂に、我が家の前まで辿り着いた。

「えっと…オレの家はここなんだけど」
立ち止まって、家を指差す。
すると須藤は、すっと人差し指を上げて、
「わたしの家は…ここ」
すぐ隣の、ちょうど今の須藤のようにオレの家にひたりと並んで立つ家を指差した。
「え、あ、えと」
必死に言葉を探す俺に、すうっと微笑みかける須藤。
「おとなりさんだね」
耳の後ろに、血の気が引いていく音を聞いた。
「そう…だな」
須藤の微笑一つで、全身が冷えた。
脊髄に氷柱でもぶち込まれたような気分だ。
「これでずーっと一緒にいられるね」
「あ、ああ、それじゃ」
心底嬉しそうに言う須藤。
須藤の隣にいるという事に得体の知れない恐ろしさを感じて、逃げ出すように、いや、間違いなく逃げ出して、ロクな返事もせずに玄関へと飛び込んだ。
オレはただいまとも言わずに部屋へ戻り、制服のまま布団を被って、途端にガタガタと震え始めた身体を抱きしめた。
ひどい悪寒が止まらなかった。
――この部屋から十数メートルも離れていないところに、いつも、須藤が、いる。
『ずーっと一緒』
須藤の声が頭蓋の内で反響する。

……その日は一日中、須藤のあの微笑みが、脳裏に凍み付いて離れなかった。