フォルスタでシリアスネタというか、
フォルのトラウマ的なネタをやってみたくて…←
ふぉーちゃんはわかりにくいとこに地雷あるので問題がある(おい)
*attention*
・フォルスタSSです
・シリアスっぽい感じです。ラストは少々甘め、か?
・フォルはこう言う状況が多分駄目だろうな、と思って…
・というか首絞めネタがやりたかっただk(蹴)
・スターリンさんごめんなさい(切実)
・ナハトさん、本当にすみませんでした!
以上がOKと言う方は追記からどうぞ!
がさり、と下草を踏む音が響く。
スターリンは森の奥にある廃墟の前に来ていた。
おそらく彼の探し人……フォルは此処にいるだろう。
いつもスターリンが仕事の時は此処で魔術の練習をしている。
大抵は彼が仕事を終えて帰るまでには部屋に戻ってきているのだが、
今日は帰っても部屋に彼がいなくて。
たまには自分から迎えに行ってやるかと思ったのである。
「フォル?」
外から、彼を呼んでみる。
いつもならばそれで彼は返事をしてでてくる。
けれども今日は返事さえなかった。
怪訝そうな顔をするスターリン。
そのままドアを開けて、なかに踏み込む。
もしかしたら、部屋の中で倒れているのかもしれない。
フォルは、魔力の調整が下手だ。
時々部屋で潰れている時がある。
それを思うと心配で、スターリンは部屋の中に足を踏み入れた。
入ってすぐに気づく。
感じるのは強い魔力だ。
それがフォルのものであることはすぐに理解できる。
どうやら、倒れてはいないようだが……
強く、強く、冷たい魔力だ。
彼にしては珍しいと、思った。
だから、その魔力を感じる方へ彼は足を進める。
このレベルの魔術を使い続ければフォルもバテるだろう。
その前に止めてやらなければ、と思って……
彼がいるのは廃墟の奥の一室だった。
影猫と言う組織をフォルが率いていた頃の彼の自室だと言う。
ドアは僅かに開いていた。
それに誘われるようにして、スターリンはドアを開ける。
そして。
そこに広がっていた光景を見て彼は大きく目を見開いた。
部屋の真ん中に立って朗々と魔道書を詠唱するフォルの姿。
初めて見た。
此処で魔術の(或いは呪術の)訓練をしている、フォルの姿は……
一瞬、言葉を失った。
あまりにその様子が人間離れしていたからだろうか。
美しい。けれどもそれは、残酷な美しさ。
冷たい、氷のような魔力を全身で感じて、思わず圧倒される。
一歩足を引いたとき、床板が軋んだ。
その音でフォルが振り返る。
その冷たい表情に、スターリンは思わず息を飲んだ。
怯えることはない。
目の前にいるのは、フォルなのに……
恐怖を感じた。
スターリンの表情を見て、一瞬フォルはサファイアの瞳を大きく見開いた。
そして、その表情が歪む。
―― 君モ僕ヲ拒絶スルノ……?
聞こえたのは、無機質な声。
それがフォルの声だと、スターリンは暫し認識出来なかった。
次の瞬間。
素早く彼の体に巻き付く、何か。
スターリンは大きく目を見開いた。
それがフォルの魔術であることに一瞬気づかなかった。
彼が自らスターリンを傷つけようとすることはなかったから。
あんなにも冷たく無機質な声を投げてくることなどなかったから。
フォルは手を真っ直ぐにスターリンに向けていた。
サファイアの瞳には冷たい光。
スターリンの体に巻き付いたそれは強くスターリンを締めつける。
首筋に巻き付いたそれで呼吸が出来なくなる。
「ぐ、……っや、め……」
フォルはスターリンが苦しげに呻いても魔術を緩めようとしない。
巻き付いた黒い蔦のようなものは一層強くスターリンを締め上げる。
動きを奪い、呼吸を奪うそれに恐怖した。
必死に藻掻く。
それを解こうと藻掻けば藻掻く程、強く絡みつくソレ……
痛みよりも苦しみが。
苦しみよりも驚きが、悲しみが大きかった。
今、自分はフォルに殺されそうになっている……
「や、だ……苦し……フォル……フォル!」
スターリンは涙声で叫んだ。
精一杯に彼を呼んだ。
やめろ、と叫んだ。
その刹那。
ふっと、魔術が緩む。
急に吸えるようになった空気でスターリンは盛大に噎せた。
「げほっ、ごほ……っ」
「……書記長、様?」
聞こえたのは、いつもどおりのフォルの声だった。
スターリンは涙で滲んだ視界で彼の方を見る。
先刻までとは明らかに様子が異なっていた。
先刻までの冷たい雰囲気はない。
フォルは夢から覚めたかのように目を見開き、瞬きを繰り返している。
ハッとした顔をすると、床に座り込んで荒い息を吐いているスターリンにかけよった。
「書記長様、大丈夫……!?」
「へい、き……なのだよ」
本当はまだ少し怖かったし、息苦しくもあった。
でも、今怯えた顔をすればフォルが傷つくこと位はスターリンも理解している。
確かに今スターリンを攻撃したのはフォルだが、
別に彼を恨んでいるわけでもなければ、彼を傷つけたいわけでもない。
だから、そう答えた。
答えながら、フォルに笑さえ向けて見せた。
それを見てフォルは悲しげに表情を歪める。
「……ごめんね」
フォルは弱々しい声でそう言って、スターリンを抱きしめた。
彼の手は、体は、微かに震えていた。
どうやら今のことは彼も覚えているらしい。
自分が魔術を発動させたこと。
それをスターリンに向けたこと。
……危うく、スターリンを殺しそうになったことも。
「フォル……」
スターリンはもう一度、そっと彼の名を呼んだ。
フォルはふるふると首を振って、一層強くスターリンを抱きしめた。
おそらく彼を正気に戻したのはスターリンだろう。
彼がフォルの名を呼んだ瞬間に彼は魔術を解いた。
もし、あの状況でスターリンが彼を呼べなかったら?
呼んだとしても、彼が反応しなかったら……?
あのままスターリンはフォルに、フォルの魔術に絞め殺されていただろう。
フォルはぎゅ、とスターリンを抱きしめたまま息を吐く。
「……ほんとにごめん。でも、書記長様……一つだけ、約束して」
「ん……何、なのだよ?」
いつになく真剣なフォルの口調にスターリンは不思議そうな顔をする。
フォルは抱きしめた腕を緩め、スターリンを見つめながら、いった。
「僕が此処で魔術の練習をしてる時は、絶対にドアを開けないで。
……今日と同じことが起きるかもしれない。
もしかしたら、今度は本当に君のことを殺してしまうかもしれない」
そう言いながらフォルは浅緑の髪を撫でる。
彼の顔には何とも言えない表情が浮かんでいた。
「どうし、て……?」
スターリンはフォルにそう問いかけた。
どうして、彼はああいう反応をしたのだろう。
確かに、スターリンはあの時怯えた顔をした。
でも、今まで一度だってスターリンに危害を加えるような真似はしなかった。
したとしても、一度やめろと声をあげたらその手を緩めていたし、
何より……あそこまで本気で殺しにかかってきたことはない。
疑問だった。
何故彼がああも過剰反応したのかが。
フォルはスターリンの問いかけに手を止める。
そして、微かに笑みを浮かべながら答えた。
「……僕が、堕天使になった時と同じ状況になりうるから」
「……!」
「……殺される、って反射的に思っちゃうんだろうね。
僕も、ああいう魔術使ってる時は意識はっきりしてないからよくわかんないけど。
それで、多分……」
フォルはそこで言葉を切った。
殺される前に殺してしまえ。
そうしないと自分が殺される。
そう思って、彼は動いたのだろう。
スターリンは納得した。
先刻、半分以上意識が他所へ言っている彼が呟くように言った言葉の意味も理解した。
―― 君モ僕ヲ拒絶スルノ?
あの時の父親のように。
あの時の母親のように。
自分を拒絶し、排除するつもりなのかと彼はそう言っていたのだ。
スターリンは目を伏せているフォルを見つめ、言った。
「……お前でも……」
―― 怖いと思うことがあるんだな。
スターリンはそういった。
フォルはその言葉に目を丸くする。
しかしすぐに笑って首をかしげた。
「怖かった……のかな。
あの時は怖かったのか、悔しかったのか……よくわかんないや。
でも、ひとつ言えるのは……」
ぎゅ、とスターリンを抱きしめ直してフォルは言う。
呟くような、声だった。
「……今、君を殺してしまっていたかも、ってことが怖かった」
意志の伴わない魔術で。
彼の首を絞め、殺めてしまいかけたことが怖かった。
フォルはそう言って、スターリンの首にうっすら残っている紐状の痕をなぞった。
そして、いつものように微笑んで"帰ろうか"と言う。
差し出された手は優しく、握れば優しく握り返され。
いつもどおりの彼に安心した。
先刻見たフォルの姿は確かに恐ろしくもあったけれど、
今隣にいる彼はいつもどおりの彼だから……
"いいかな"と、そう思う。
一緒にいられないことはない、と。
傍から見ればおかしいのかもしれないけれど。
「どうしたの?書記長様」
黙り込んだスターリンにフォルは不思議そうな視線を向ける。
スターリンはゆっくりと首を振って、一度だけ強くフォルの手を握り返した。
―― Fallen angle ――
(時折見え隠れするフォルの"堕天使"としての姿)
(それに怯えず傍に居てくれるのは君だけだから…)
2013-6-30 13:22