クオンの心理小説です。
ここまでシリアスにするつもりはなかったのですが…気がついたらこうなってました←おい
クオンは一度思考が沈むととことん沈むタイプだと思います(笑)
自分の能力ばかりが求められるのって辛いだろうな、クオン…というお話←
周囲に頼るのが下手なので孤立しがちなクオンをかけて楽しかったです(^q^)
ともあれ追記からお話です♪
Side クオン
何時だって、そうだった。
見てもらえるのは、俺の能力ばかり。
俺のことを見ていてくれる人間はそうそういなかった。
俺の、能力。
変身魔術。
それを扱える人間は、多くない。
悪魔や天使の魔力とは違うが、ある意味での特殊魔術。
自分の姿や魔力、声、体格……
全てを自在に操り、自在に変化させることが出来る。
そんな魔術を使える人間は、決して多くないんだ。
姿を変えられる。
それは、任務を熟す上で役に立つ能力だった。
殊更俺の部隊……風隼の騎士がこなす任務においては。
敵の組織に入り込む。
決して激しい戦闘をするのではなくて、隠れて内側から機会を狙う。
そのために、姿を変える騎士は多く居る。
でも、大体の騎士はウィッグを使うなりカラコンを使うなり……
表面的な変装をすることがおおいのだ。
表面的な変装は、常に危険を伴う。
うっかり躓いてウィッグが外れたら?
うっかりコンタクトが外れて落ちたら?
その人間と殊更親しい人間がいてばれたら?
でも俺は違う。
完全に、姿を変えられる。
それこそ、その家族が気がつかないほどに。
銀髪を金髪にすることも出来る。
長い髪を短くすることも出来る。
男の自分を、女にかえることも出来る。
もっというのならば、存在する人間に化けることも出来る
そっくりそのままに。
服装も体格も声も何もかも、その人間になることが出来る。
相手の性格や趣味を探るのは、風隼の騎士なら誰でも出来る。
その人間の口癖や口ぶりを真似ることも。
でも、流石に声までは真似れない。
声でばれる、何てケースもなきにしもあらずだった。
でも俺は、その心配もない。
声もしっかりと、相手のそれに変えられるから。
それは好都合な能力だったと思う。
任務をこなす上で幾度役にたてたか、わからない。
けれど……――
「凄いわねぇ……本当に、本物みたい」
「寧ろ本物なんじゃないのか?」
そんな、冗談めいた言葉。
楽しそうに笑いながらそういっていたのは、俺の叔父と叔母だったか。
そんな評価を聞いて、父や祖父は自慢げな顔をしていたっけ。
それは俺にとって嬉しい言葉であり、不安な言葉でもあった。
本物そっくり。
寧ろ、本物に見える。
その言葉は誉め言葉であり、刃物(ナイフ)だ。
わからなくなるんだ。
俺が一体誰なのか、何者なのか、わからなくなる。
自分という存在が何であるのか、わからなくなる。
銀の髪。
銀の瞳。
それが、クオン・ロゼルという人間。
しかしそれも"本当"なのか、わからない……――
皆は俺の能力を誉める。
俺の能力は素晴らしいものだと。
でも、"俺"のことを見てはくれなかったな。
俺の両親は俺が好きなものを知っているだろうか。
俺の両親は俺が嫌いなものを知っているだろうか。
俺が今まで仕事を務めて、化けた相手の好き嫌い趣味嗜好だけじゃなくて……
―― 嗚呼。
それはきっと望めないだろうな。
そう思うと同時に、ひどく虚しくなる。
俺は、誰なんだろう。
俺は、俺のことは、誰が理解してくれるのだろう?
兄さんは俺を理解してくれてると思う。
でも兄さんだって仕事がある。
ずっと一緒にいる訳にはいかない。
大好きな相手。
それといつも一緒にいられないというのは、ある意味でストレスだ。
だからこそ、思考は落ちていく。
俺は誰?
誰が俺?
俺は誰にでもなれる。
誰でも俺になれる?
じゃあ、俺の存在価値は?
俺の、魔力が消えたとしたら……
その時、俺は"要らない"と捨てられてしまう気がして、怖い。
求められているのは、俺の魔力だけなのではないかと思ってしまって……――
そんな暗い思考に沈みそうになりながら、俺は今日も姿を変える。
そうして任務をこなすために。
任務をこなせば親が喜ぶ。
そうしていればもしかしたら、もしかしたら……――
そんな淡い期待を抱きながら、俺は今日も"俺"を消して、
標的に近づける、一番の姿をとる。
それが如何に自分からかけはなれた姿であっても。
それが如何に自分が苦手な姿であっても……――
この能力を使うことが俺にとって最大の価値だ。
だから、この価値をなくさないように、俺は今日も姿を変えるんだ。
―― My value ――
(俺の価値はなんなのだろう)
("俺"自身を求めてくれる人間はいるのだろうか)
2014-8-2 23:33