最新のVRMMOを購入した。ヘッドギアを装着すると、早速メニュー画面が現れる。
その視界の隅に、見慣れない物体、いや、人影があった。
手のひらに乗るくらいの大きさの、メイド服を着た女性だった。
黄緑色がかった水色のロングヘアに、清楚な白いヘッドドレス。
眼は髪と同じ色で、まるで滾々と静けさを湛えた森の奥の湖面の様だった。
すっと伸びた背筋に、露出のあまりないシックな色合いのロングスカートが似合っている。大きなリボンの着いたエプロンドレスの裾には上品にフリルがあしらわれている。
その表情が無表情に近いため大人びて見えるが、実はまだ少女と呼べる年齢かもしれない。
面食らうこちらを余所に、メイドさんは小さな口を開いた。
「プレイヤー様。このたびは当ゲームをご購入頂き、誠にありがとうございます」
落ち着きのある綺麗な声だ。声量はそれほどでもないのに、耳に心地よく響く。
「申し遅れました。私は当ゲームのナビゲーション用サポート人工知能、開発段階での仮称は”ナビ子”。――ですが」
メイドさんはこちらの指をそっと両手で包んだ。
「プレイヤー様が名付けて下さったら、嬉しいです」
固く閉ざされた蕾がほころぶようにはにかむ。
仮想現実であるはずの彼女は、その白い手袋越しでもわかるほどに暖かかった。
あとがき
無表情ロボ系メイドさんは最高だって前世紀から言っています。
なんとなく思いついたので、単発文を書いてみました。サイトで取り扱っているファンタジー物でも現代学園物でもない作品です。