僕は、小杉の言葉の意味を計りかねて、戸惑った。

「誰が、誰を?」

そんな僕を他所に、小杉はさも当然の様な表情(かお)で言う。

「俺が、あんたを抱くんだよ」
「だから、なんでそーなるんだ!」
「あんたが俺をでもイイけど、あんたには似合わない気がする」
「お前は何を言ってるのか分かってるのか!?」

今、きっと僕の顔は面白いくらい真っ赤になっていると思う。
よりにもよって、小杉が僕を抱きたいだって?

(いや、抱きたいとは言っていないが)

「俺さ、店からあんたが出てった時、もう、これであんたは俺に会わないつもりなんかじゃないかって思ったんだ」

神妙な顔で話出した小杉に釣られて、僕も、浮かした腰を降ろして、正座をして聞いていた。

小杉にも、僕達が会うのはあれが最後になるのだと分かっていたのか。

「前の彼女の時もそうだった、あんたは眠ってたけど、俺の背中でな」

にや、と笑った小杉は、それでもすぐに真面目な顔になる。

「自分の彼女が、あんたの事を避け始めると俺は、なんでだか、その女の子への気持ちが冷めてくんだよ」

大きな身体で体操座りして、膝に顎を乗せた小杉は、少しだけ不安そうな表情(かお)だ。

「すごく焦ってさ、あんたから離れようとした事も一度や二度じゃない…けど、離れようとするのは俺なのに、あんたが俺から離れて行く気がするんだ」
「小杉…僕は」

僕はお前から離れられやしない。
だって好きなんだ。
傍若無人(ぼうじゃくぶじん)で、年上の僕の事、下の名前で呼ぶ、女癖の悪いお前が。

伝えようとした肝心な唇は、僕の腕を掴んで引き寄せた、小杉の唇で塞がれ役に立たなかった。

「ん、ん、こ、杉」
「ちょっと黙ってろ」

いつの間にか、僕の腰を引き寄せると、布団の上に押し倒し、そのまま小杉の厚い身体がのしかかって来た。

「やべ、興奮する」

下半身を押し付けられて、僕は、目を見開いた。
ゴリ、と硬いそこは小杉の言葉が嘘じゃない事を、証明していたからだ。

「那津」

切なげに、僕の名前を呼んで、犬みたいに、鼻面を首に押し当てて、僕の匂いを胸に深く吸い込む小杉が、僕の髪を優しく撫ぜる。

ズルいぞ、小杉の癖に。

僕は、観念して最後の抵抗を解いて、目を閉じた。