「…僕を失ったって小杉にはたくさん飲み友達がいるじゃないか」

それに、佳奈ちゃんだって。

最後の言葉は飲み込んだ。
小杉が僕を追って来たことで、佳奈ちゃんとどうなったか知るのが、すこし怖い。

「あんたはなぁ…飲み友達っつーか…」

仰向けになったままの小杉の視線がさまよう。
まるで、天井に書いてある答えを探す様に。

そして、むくっと起き上がり胡座(あぐら)を組んで僕に向き合った。

「あんたって俺の何なんだろ」

何て表情(かお)をしてるんだ小杉。
まるで、帰り道に迷った犬みたいだ。

「僕に聞くなよ」

マグカップを、ぎゅ、と握った。
心臓がバクバクする。
小杉の中で答えが見つかったら、僕らはどうなるんだろう。

「そうだよなぁ…ところで、頼みがあるんだけど」
「なんだ急に」

そう言ったくせに、小杉は中々、口を開かない。
でもな、とか、どうなんだ?とか、ブツブツ言いながら、困った様な顔をしている。

「そんなに困ってるのか」

なんでも、ハッキリと口にするこの男が、これだけ躊躇(ためら)うなんて、よっぽどの事に違いない。
なんだろ、仕事で何かあったのか。
それとも、金に困っているとか。

それか、佳奈ちゃんに、とりなして欲しいとか…

それなら、僕にも責任がある。
例え、友達とは言え、僕を優先させた事は、佳奈ちゃんにとっては、気分が悪い事に違いない。

その時、チラッと、心の隅に、昏(くら)い喜びが見えた。

ーー 『彼女』より、僕を優先させた。

そんな、仄暗(ほのぐら)い喜びが。

「あー!俺らしく無いっ!」

パシッと、手で胡座をくんだ脚を叩くと、怖いくらい真剣な眼差しで僕の目を真っ正面から見据えた小杉がこう言った。

「なぁ、ちょっと俺に抱かせてくれない?」

…なんでそーなる。