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双子と蚊帳の外な勝呂くん
いつもの如く放課後教師となった衛之助は、つぅっと瞳を細めると困惑と不機嫌を織り交ぜた表情で唇を開いた。
思い返す。
緑の瞳の少女は、初めて会った時からずっと前を向いていた。前だけをずっと見据えて、進み続けてきた。
始めは幼さの残る顔だった。黒髪の中、緑の瞳だけが爛々と輝いて、リランと共に成長して行くにつれ、次第にその頬から丸みが消え、すらりとした大人の女性へと変わっていった。
大人びた横顔は不思議な魅力を醸していたが、トムラは、彼女―-エリンの幼さの残る笑顔が好きだった。
共に過ごした時間は長かったが、けれど彼女にはリランしか見えておらず、興味の対象はリランだけだった。
やきもきしたこともあれど、長く経つとそれでこそエリンなのだろうと納得できた。
きっと、いつまでもエリンはこうなのだ。
けれど思う。
いつか傍らに立つ誰かが、己であればいいと。
***そしてポッと出のイアルに取られちゃう可哀想なトムラさん。
「お前、年頃の娘だってこと分かってんのかよ」
「へ?」
トムラは呆れて、思わず天を仰いだ。頭が痛い。
彼は教導師見習いから卒業し、エリンは今年16になった。それなのに今彼女は、リランと戯れて、頭が爆発し羽まみれなのだ。
そして何より、暑いからか袖と裾を捲り上げて細い腕や脚を曝け出している。
「え?え?何が?」
「分かってないしさ…」
きょとんとしたエリンが全く分かっていないのがまた痛いところだ。キリキリとこめかみが痛んでくる。
子供の頃ならまだしも、大人になるにつれ、通常、女性が肌を出すことははしたないことだと言われている。
肘や膝あたりまでなら仕方ないが、肩や腿、それ以上まで肌を出すのは伴侶の前だけ。
<霧の民>の血を引く彼女の肌は白く、また、泥の跳ねがそれを際立てているので思わず視線を向けて唾を飲む。
…エリンになんの気もないことは知っているが、けれどトムラは残念なことにそんな彼女が好きなのだ。
「女が肩まで肌を出すな!脚も!はしたないだろう!」
くるくると捲り上げられた袖を戻す。脚に手を伸ばすのは流石に躊躇われたのでやめた。
不満気に唇を尖らせていたエリンが裾を直しながら唐突に笑い声を上げたので、きょとんとするのは今度はトムラの番だった。
「何笑ってんだよ」
「ううん、何でもないの。ただ、なんかトムラがお兄ちゃんみたいで」
「…………」
「お兄ちゃんがいたらきっとトムラみたいなんだろうね」とクスクス笑うエリンに、彼は半眼になって口を閉ざした。
……………兄、か。
「トムラがお兄ちゃんならいいのになぁ」
「全然よくねぇよ」と言葉悪く心中で毒吐いたトムラは、しかし告白する勇気もなく、エリンの笑い声に乗せて、自らも乾いたそれを立てたのだった。
***柱の影でユーヤンにきっと爆笑されている可哀想なトムラさん。
手を出せといわれて素直にエリンは従った。ちょっと照れ臭そうに何かを突き出したトムラが、ぶっきらぼうに「やるよ」と言って外方を向く。
瞳を見開いて、それを見た。
エリンの瞳のような澄んだ緑色の石がはめ込まれた髪飾りだった。
細い金細工が羽をかたどり、リランを彷彿させる。
「…街出たら売ってて、なんかお前っぽいなぁって思って、つい買っちまった」
照れ臭そうに頭を掻くトムラの頬は赤くなっていた。それと手の中のものを見返して、エリンは困って眉を下げた。
「でも、タダでなんて貰えません」
トムラの笑顔がピシリと固まった。
18になったエリンは若木のような、不思議な魅力を持っていた。が、エリンは腐ってもエリンだった。
人の好意は受け入れるが、絶対に何もかも対等である。
「い、今更返品なんか利かないし。俺が髪留めなんか使ったらおかしいしさ、エリンが貰ってくれたら嬉しいん、だけど、なぁ…」
「でも、私なんかより、トムラはトムラの好きな人にプレゼントするべきだよ」
アハハハハ。声が硬い。
というか既にトムラは半泣きだった。
…………全く以て、彼の好意の意味が彼女には伝わっていなかったのだ。
でも、とまだ渋るエリンに、勇気を出してトムラは唇を開く。
「エリン!あのな、それ、俺からの、お、おおおおとことしてのだな、」
「大男?」
きょとん。
純粋な緑の瞳がトムラを見上げる。ひたすらまっすぐに。
そこに自分が映っているのを見て、トムラは―-………
「……………兄からの、プレゼントだ」
がくりと肩を落とした。
ヘタレだ。俺はヘタレだ。と涙を飲む。
「お前、飾り気ないからな。兄として心配なんだよ…………」
自分が吐き出す言葉が刄となって自分に返ってくる。「妹は黙ってありがとうって言ってりゃいいんだ」と言えば、ぱちくりと瞳を瞬いたエリンが「黙ってたらありがとうって言えないよ」と笑った。
「ありがとう、トムラ。大事にするね」
………ふんわりしたその笑顔が見れただけで良いとしようか。
ズタボロになった心と財布を胸に、トムラは笑い返した。
***後でエサル師にヘタレと小突き回される可哀想なトムラさん。
何年も使っていると色々なものが痛んでくる。例えば餌を入れる桶だったり、王獣舎の壁だったりがそうである。
「なぁエリン、なんか必要なものあるか?」
用具入れを見ながらトムラは聞いた。やはり世話をしている本人に聞くのが一番である。
「え?必要なもの?」
「そう。リランの妊娠のこともあって補助金出たしさ。出産も初めてのことだからリラン達が過ごしやすいように計らえってエサル師がさ」
言い終え、振り向くと。
「………」
「………」
きらきらとした瞳がじっとこちらを見ている。その熱の強さに、思わずトムラは後退った。
「エ、リン…?」
「あのねやっぱりエクとリランだけならこの部屋だけでも大丈夫だと思うんだけど、リラン妊娠中で落ち着かない様子だしもうちょっとでも広く出来ないかなーなんて思ってあと寝藁をもっと敷き詰めて安定した寝床とかねそういえば最近餌の桶の大きさがちょっと」
「ストップ!」
あまりの熱意にトムラは負けた。
頬を引きつらせてエリンを止める。
「…ごめん、それ、後で直接エサル師に話して貰っていいかな…?」
「うん分かった!」
ニコニコニコニコニコニコ。
その笑顔を見てふと、トムラは思った。
(あれ?俺が髪留めあげた時以上の笑顔じゃないか…………?)
気付いてはならないことに気付いてしまった気がしてならないトムラであった。
***自分で自分の首を絞めてしまったヘタレで可哀想なトムラさん。
090707
余りにも可哀想なトムラさんシリーズ。
トムラ→エリン→リラン
報われないトムラさん。
ヘタレなトムラさん。
残念なトムラさん。
ごめんねトムラさん。
むん!
教習所行ってきます!
性 別 | 女性 |
誕生日 | 5月19日 |
地 域 | 群馬県 |
血液型 | O型 |