電車の向かい。窓に映った自分が、真っ赤なマフラーを巻いていた。
だけど、今日はマフラーなんかしていない。
よく見ると、首を締め付ける真っ赤な手。
布団を干したときのいい香りは、ダニの死臭だという話がある。本当なのか、都市伝説なのかはわからない。
人間を含め、動物の死体は腐敗の過程で凄まじい臭気を放つが、白骨化したものは、案外に良い匂いがすると聞いた。
これも事実なのかはわからない。
ただ、拜島さんのところに現れた骸骨の幽霊は、なんともいえない良い香りを漂わせていたのだという。
「お香じゃない?」
鐘子が言うと、拜島さんは納得したように手を打った。
「夢の話ってのは、つまんないかな?」
鐘子が返事をする前に、大柴さんは内容に入ってしまった。
「学校の校舎みたいなとこを歩いてたんだ。なんの目的かはわからないが、ただただ廊下や階段をね」
「ほーほー、そこに幽霊が現れたと?」
「もう少し聞いてくれよ」
興味なさげな鐘子の相槌に、大柴さんは苦笑い。
「普通、夢に出てくる学校って言ったら自分の母校だろ?」
大柴さんの夢に出てきた学校は、記憶にまったくないところだった。ただ、学校だという感覚がしただけで、教室らしいものを見たわけでもない。
どこか、ずれた夢だった。
「それから、先生に会ってさ」
「先生も知らない人だった」
「いや、先生は知ってたんだよ。ただ、」
職場の同僚が、先生という立場で出てきたんだという。
「そこで俺さ、『あぁ、夢だな』って気付いたんだ」
そして。
「『お前、先生よく似合ってんな』って言ったんだよ」
すると、同僚が言った。
――ばれたか。
「あれは一体どういう意味だったんだろうな」
大柴さんは、小さく震えた。