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もし時を戻す事が出来て、胸に沢山の花束を抱いて。貴方の前に立った姿を描く





ふと気付いた時、何時も彼女からは違う香りがしていた。
何の香りなのかは解らなかったが、その香りがする時は決まってあの人と何かあった時だった。







「こんな所に居たんですね、柚那さん」
「…有人君」

イナズマジャパンの宿舎のすぐ近くにある橋の上に、柚那さんを見つけた。
少し驚いたような彼女の手にあったモノ。



「……煙草、吸うんですね」
「、あぁごめん。嫌なら止めるよ?」
「いぇ、構いません」


そう、と短く返して、柚那さんは再びソレを口にした。
漂う紫煙の香りは、俺が気付いた香りと同じだった。


「ホントは辞めようって思ってるんだけどね。気持ちを落ち着かせる為に、どうしても手が伸びちゃうんだ」

苦笑しながら最後の一口であろう煙を吐き出し、それを灰皿へと捨てる。
だが俺が彼女が煙草を吸うと言う事よりも気になったのが、気持ちを落ち着かせる為という意味。

「…貴女から時々、その匂いがしていた。決まって、あの人と何かあった時だ」
「…流石は有人君。君にはバレバレか。でも、きっとコレで最期だよ」


振り返りながらそう言った柚那さんが、何故が何処かに消えてしまいそうな気がして。
俺は堪らず腕を引いて抱き締めた。

「有、人君…?」
「ソレを辞める代わりに、もっと俺を頼って下さい。そうでなければ、あの人が…総帥が俺に貴女を託した意味が無い」



あの人が、俺に最期に遺した言葉。




『何もしてやれなかった私の代わりに、あいつを…柚那を任せたぞ。鬼道』





それはきっと、自分がもう柚那さんに出来無いと解っていたから。
だから、俺に言ったのだろう。
あの人は、何時だって先を見ていた。否、全てを悟っていたのだろう。



音の様に、熱の様に、掴みようの無い物



「…ごめん。もう少しだけ、此の儘でいさせて」







そう言って交わした口付けは、苦い煙の味がした。







貴方は傍に居た。何時でも僕の傍に、心に近い所に

貴方は、笑ってた






無くなってしまえば何も、残らない、涙。
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