兎虎V




話は進んでいません。
















































エレベーターで下まで降りている間、おじさんはずっと黙ったままだった。
機械の無機質な音だけが聞こえる中で自然と意識は全て繋がれた手に奪われる。自分より僅かに熱い体温が、おじさんの存在を確かに伝えていた。
何か言った方がいいのだろうか。
沈黙よりも微妙な距離感に動揺してしまい、普段なら考えもしない事を実行しようとしてそれを戒めるようにエレベーターが鳴った。

「よし、行くぞ」

ドアが開く音がし、次に聞こえてきたのはおじさんの呟き。
それは僕に対して言ったと言うより自分自身に言い聞かせていたと表現した方がしっくりきたので、僕は黙って後について行くだけだ。
エレベーターから一歩外に出れば、普段と変わらないぐらい大勢の他人の存在を感じた。昼休み時なれど活気の絶えないエントランスは仕事場の象徴のように見える。人工的に明るく賑わう空気は悪くない。
しかし、如何せん人が多すぎる。
影しか見えない今の状態では、十中八九三歩歩いて一人にぶつかりそうだ。計画と現実の誤差に十数分前の自分の甘さを少しばかり後悔していると、繋がっている方の手が引かれた。
心なしかさっきより握力が増した気がしたが別に言及することもないだろうと判断してつられるように歩き出す。大分人が集まっている場だ。変な動きをして悪目立ちする訳にはいかないし、仕事関係者以外の人物だって混ざってる可能性が高い。何より格好が格好なので、今をときめく人気ヒーローとしてスキタャンダルは避けたい所だ。なるべく手を繋いでいるのが見えないように気を付けつつ俯きがちに顔を隠して、先を歩くおじさんに従って行く。
一方のおじさんはそんな事等全く考えていないらしくすいすい人の間を縫って歩いている。正直歩き難くて仕方ない。だが、人一人を引き連れながらも誰ともぶつかる事なく進む様は魔法のようだった。もしおじさんの申し出を無理に断っていたら、こんな人間の中を接触無しに歩くことは出来なかったのかもしれないと考えて、頭を降る。抑の原因はおじさんにあるのだから、今こんな事を考えている時点でイレギュラーだ。時間の無駄以外の何物でもない。非効率的すぎる。
まぁそんな事を今更考えても起こってしまった事象はどうしようもないので、結局の所この思考すら無駄なものだ。そしてその無駄な事に専念していた間に、僕らは無事エントランスを抜けた。
真っ昼間の輝かしい太陽光が裸眼に刺さる。人々の騒音は無くなり、空間が一気に解放されたように感じた。

「無事会社から出れましたね」
「まぁーな、こんなもん俺にかかれば朝飯前よ」
「偶々ですよ、調子に乗るところでは無いです」
「お前は………!つか、これからどーすんだ?」
「タクシーを拾いましょう、それが一番早いですから」

しかし外に出たとは言え未だ会社の前だ、目的地である自宅までの道程は長い。
おじさんと無駄口を叩く暇も勿体無く思え、僕は急かすように手を動かした。
先ずはタクシーを捕まえるのが先決だと歩き出そうとすると、意外そうなおじさんの声が僕の足を止める。

「あれ?バニーちゃんっていつも歩き?」

それは出社の方法を聞いているのだろうが、その質問は今何の意味があるのか。
意図を測りかねて一時言葉に詰まる。

「歩き、と言いますか、決まってはいません」
「じゃあ今日は歩きなのか?」
「…………いえ、今日は車で来ましたよ。と言うか何なんですか急に」

尋ねられたので一応答えるが、訳のわからない質問を重ね一向に動こうとしないおじさんに焦れて口調をきつめればおじさんは、なーんだ、と、僕の言葉を流した。余りにも場違いな抜けた声音に、流石に堪忍袋が刺激される。一言文句を言ってやろうと口を開いたところで、またもやおじさんが僕の動きを止めた。

「じゃあバニーちゃんの車で行った方が早いだろ。鍵貸してみ」
「……………えぇ…?」

力んだ喉から零れたのは情けない声。
繋がっていない手を眼下に差し出されて、漸くおじさんの目的が見えた僕は俊巡した。
タクシーにさえ乗り込めれば後は自宅まで直行だ、つまり、おじさんの助けも不必要と言う事。本当はタクシーを捕まえるまで手伝ってもらったら、きっぱりもういいと言うつもりだった。こうなった元凶がおじさんのせいと言えど家まで付き合わせる義理は無い。
それなのにこのおじさんは、本気で僕を自宅まで送る気だ。
遠慮したい、全力で。
仮にも、おじさんの顔は知られていないとしても、ヒーローが二人真っ昼間から手を繋いで歩いている状況でさえ危ういのに、それをまだ続けるつもりなのだ。一体どれ程の目撃者が出てしまうか想像もつかない。明らかに世間体を気にしていないおじさんらしい考え方だ。
しかし、おじさんの言い分も一理ある。
僕の車で行けば、確実にタクシーで移動するより早く帰ることが可能だ。裏道を使えば更なる時間短縮になる。タイムリミットの迫る現状だけみるなら、断然こちらが有効な手段だろう。
だが、と逆接に逆接を重ね、出した答えにより僕はおじさんの手を放した。

「……………………………………………どうぞ」

その手をポケットに突っ込み鍵を掴むとおじさんに渡す。
内心納得いかない部分も多々あったが、考えすぎてどうでもよくなってしまった。
早く家に帰って眼鏡を着ければ全て終わる。
そう信じて、僕は世間体より時間短縮を選んだ。

「ん。何か今の間が気に食わねェが、まぁいいや。じゃあ駐車場まで行くか!」
「急いで下さいよ、唯でさえ時間が押しているんですから」
「なんでそんなに偉そうなんだよ!」

鍵を渡すと直ぐにおじさんから手を握られ歩き出した。
おじさんなりに一応急いでいるようだ。
これでやっと終わりが見えてきた、と思った時だった。

「わり、バニーちょっと待ってろ」
「は!?ちょ、おじっ……!」

するりと抜けた手を止める暇もなく離れていくおじさん。
何が何だか、取り残された僕にはわからなかった。





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生きている意味探し




なんかタイトル野心出ちゃいましたwww
すいません全くそんなこと考えたこと無いです多分←
まぁそれは置いておいて



連続二日事切れました、つまり寝落ちましたorz
凄く!時間が勿体無く感じますよね!寝落ち!
だから私今日はここに宣言しておくんです!



本日こそ、徹夜でなんかする!←←←
なんか、します!
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