暖かな日が降り注ぐ小さな公園。青々と茂る木の枝は根本への光を少し和らげていた。
そのうちの一本の木の下で、苺は読みかけの本を閉じ、太い幹に背を預けて瞳を閉じた。
とても穏やかな気持ちだった。
この田舎に来た当初はどこかびくびくしている自分がいた。
私とこの子達は違う、と必要以上に近づかないようにした。
クラスメイト達の物珍しげな視線も居心地が悪かった。
自分はこの中では異質な存在だ―――
当たり前のようにクラスにいるが、苺と他の生徒達は異なる時間を生きている。
苺は以前、自らの時を"止めていた"
自分にとってはただ眠っているだけのつもりだったが、目が覚めると何年もの月日が流れていた。
周りに馴染めなくなってこの田舎へと越してきたのだ。
停滞は恐怖だった。
夜に眠るのさえ怖かった。目が覚めたらまた何年も過ぎているのではないか、むしろ二度と目覚めないのではないか。
そんな考えが後から後から沸いてくる。
だからどんなに話しかけられても楽しくおしゃべりなんてする気にはなれなかった。
けれども彼らは決して苺を一人にしてはくれなかった。
最初は誘われても断り続けていたが、あまりのしつこさに流されるうちにグループに入っていた。
とりわけ苺の心を明るくしたのは小石の存在だった。
小石は苺が一人で居るとすかさず話しかけてきた。彼女の屈託のない笑顔や優しさが嬉しかった。男の子のようなさばさばとした性格も苺の気に入るところだ。
彼女のおかげでまた笑えるようになった。
そんな彼女がある時から暗い顔をするようになった。みんなの前ではいつも通り明るく振る舞っていたが、ずっと見てきた苺には彼女の変化がすぐにわかった。
彼女の辛そうな顔を見て、苺の胸もズキズキと痛んだ。その痛みは苺の中でどんどん大きなものになって、いつしか真っ暗なブラックホールとなった。徐々に広がる闇は全てを飲み込み、苺を再び深い心の底へと誘う。
小石は悲しむ原因をこっそり苺にだけ話してくれた。
小石の想い人、草薙圭。勇気を出して伝えた気持ちは、彼に届くことはなかった。
彼にも他に想い人が居たのだ。
苺は自らの病を告白し、苺の傍にいてくれるよう彼に頼んだ。
苺の話に驚く彼は、自らの秘密も語ってくれた。
彼もまた苺と同じ"停滞"に苦しむ者だった。彼にとってのその人は、苺にとっての小石だった。
苺同様、その人がいることで彼は進み続けていた。
しかし、苺の苦しみを一番わかってくれるのは彼だった。
同じ病を抱える苺のために、彼は小石を選んでくれた。自身が止まりそうになるのを必死に堪えて…
結局は本当のことが小石にばれてしまった。彼女にはひどく怒られたが、自分は大丈夫だからと笑ってみせる彼女に心が少し軽くなるのを感じた。
自分も歩き出さなくてはいけない。
自らの足で、一歩ずつ。苺の先を歩く彼のように。
私はここに居たい、進みたい――――
遠くで名前を呼ぶ声がする。
瞼を開け顔を向けると数人の人影が目に入る。真ん中で一際大きく手を振る人物を認め、口元が綻ぶ。
本を鞄にしまいすくりと立ち上がると、深く息を吸い込み、一気に吐き出した。
そうしてつられるように笑顔を向け、苺を待つ彼らの元へと一歩踏み出した。
眩しい光の下へと…