「好きです!私と付き合ってください!!」
………これで入学して、女子にコクられたのは五回目になる。
☆今日も僕らは、☆
「ありがとうねぇ。」
―――暑い夏。
部活終わり。私は友達の翔《カケル》とアイスを買いながら、家に帰っていた。
「……んで当麻ちゃん、今日は誰を泣かせてきたんですかぁ?」
「は?」
やっぱ動きまくったあとはアイスの買い食いに限るよな。とか呑気に思いながらガリガリくんを頬張っていたら、不意に翔に話し掛けられる。
「泣かしてきたって…」
首をかしげれば、何故か頭にチョップをくらった。痛い。
「とぼけちゃダメよダーリン。今日コクってた子、二年で可愛いって噂されてた女子だぜ。」
翔にその事実を聞いた瞬間、私は顔を歪める。それはまた男子から反感を買いそうだ。っていうかダーリン止めろ。
「はぁ…いつも通り、断ったよ……」
「泣いた?ねぇねぇ、やっぱ泣いた?」
えぇ、泣きましたとも。そりゃあ困るほどに。挙げ句の果てに『一回キスしてくれたら諦める』とか言うもんだからソッコーで逃げ出したわよ。と、私は事細かに説明してやった。
――――自己紹介が遅れた。
私は渚当麻《ナギサ トウマ》。16歳。身長175センチ。短く切り揃えられた髪に切れ長の瞳は、どっからどう見ても男の子。だがついてない。そう、私は正真正銘の女なのだから。
それなのに、周囲の女子は私をイケメンと持て囃し、男子には敵視される。それが私の学校生活である。
「何で私がこんな目に遭わなきゃいけないんだろ…」
「それはイケメンに生まれた宿命っしょー」
「はぁぁ〜……不幸だ…」
ガリガリくんが溶けていくのも構わず、私は項垂れた。何度断っても告白してくる女子達。カッコいい男子なんていくらでも居るのに。そう、例えば今まさに隣を歩いてる野郎とか。その他もろもろ。ホントどうしてわざわざ私なんだ。同性ながらまったく理解しがたい。
そんな俯き唸る私を見て、翔は清々しいほどの笑顔でこう言った。
「でもー、高校の頃に比べたら減った方なんだろ?俺のおかげで。」
ぴた。私の動いていた足が止まる。そう。そうなのだ。確かに高校に入って翔と遊び出してから、告白してくる女子が減った。
だけど………。
「…けど………けどぉ…っ明らかに変な目で見てくる人種が増えちゃったじゃん!!」
俗にいう、腐女子とやらがその輪に加わってしまったのだ。
ちょっと翔と喋ってたら『どっちが受けかな?』とかコソコソ話されたり、私と翔が喧嘩してたら『そのまま押し倒せ!若しくは押し倒されろ!』と叫ばれたり、酷いときには部活で怪我した腕とか見て『どんな激しいプレイを!?kwsk!!』って詰めよってきたりされてしまう。
何て言うか、逆に気を付けなきゃいけない事が増えたっていうか…とにかく、むしろ悩みの種は増えたと言っても過言では無かったりする。本当に。
私がそういうと、翔はぶはっと吹き出して笑った。
「ほんっと当麻のリアクション一々ウケるんだけどw」
「翔…私が真剣に悩んでるって分かってる……?」
私のリアクションがツボにでもハマったのか、翔は笑い続ける。はぁ…もう怒る気にもなれない。止めよう。コイツは私の境遇を楽しんでるだけなんだ。
本気で悩んでくれる友達なんていない。そう悟った瞬間、まるで私の希望がどこかへ行ってしまったように、持っていたアイスが地面に落ちた。
「あーっ!」
「あれま、落ちちゃった。早く食べないからだぞー」
「まだ全然食べてなかったのに…」
どうやら、落ち込んでる間にすでに溶けまくっていたようだ。手がベトベトして気持ち悪い。
もう一本新しいのを買う気にはなれなくて、私は落ちたアイスを眺めながら溜め息をついた。
「はぁ…もうやだ。どうせ明日になったらあの先輩、また来るんだろうなぁ…泣かれて、男子から白い目で見られて…それでまたその日も買ったアイスが落ちちゃうんだ…私は不幸だーっ!」
まさに負の連鎖。ネガティブな思考は留まることを知らず、私の目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
「……」
こうなったら、帰ってふて寝だふて寝。学校も遅刻してやる。グレちゃうんだからな私だって!
さっきより若干大股で歩く私。その後ろで、何やら大人しくなった翔は、どういうわけか私の前に立ち、進行を防いできた。
「何よぅ…心身共に落ち込んだ私に、まだ何か悪魔の仕掛けをするっていうの…?」
「んーん、違うよ。」
「じゃあ何…――――」
ちう。その音が鳴ったことにより、私の言葉は遮られてしまった。
あれ、なんか唇に柔らかいものが当たってるーなんて気付いた頃には、もう翔は離れてて。かわりに冷たいアイスが口の中に放り込まれていた。
「……」
あぁ、そうか。私、翔にキスされたんだ。で、ついでにアイス口移しで貰ったんだ。と、キモいくらいに冷静な頭が悟る。
「どう?ガリガリくんリッチなコンポタ味は?」
「……冷たい、デス。」
「あーまぁーそりゃアイスだしな。味わって食えよー」
いつもの翔の棒読み口調が、遠くで聞こえた気がした。口の中にはどうしていいのか分からない冷たいアイスが転がってて、もう、なんかちょっといきなり色んなことが起こりすぎてキャパシティオーバー状態だった。
とりあえず分かることは、一つ。
「?当麻、どしたー急に足止めて。帰らねーの?」
「………」
私の拳が目の前の男に注がれるまで、そう時間は掛からないってことだ。
(恋の始まり?いいえ、喧嘩の始まりです。)
――――――――――
最後めんどくなって適当に終わらせた。
僕にイケメン女子ください。
END