Peopleが使えないので代理アップのコラボCP小説です
ふわりと、百合の花弁が散る。
咽せるような、強い花の香り。
それが眼前にいる天使の周囲に満ちるモノであることを、悪魔はよく知っている。
大天使の一角、ガブリエルの力を引くもの。
天使らしい天使。
その存在が真っ直ぐに自分を捉えていることを感じながら、炎色の少年は強く拳を握った。
胸元で、魔力抑制のペンダントが揺れる。
これを外せばまだそれでも対応できるかもしれない。
でも、それはダメだ。
そう考えて、少年……ブレーズは息をひとつ吐いた。
「善なるものに取り憑くとは流石は穢らわしい悪魔」
冷たい声で、天使は言う。
敵意、殺意。
それを向けられても怯まず、ブレーズは息を整える。
「取り憑いたわけじゃない。俺は、イシャンのそばにいたくているだけだ」
誑かしたわけでも、何か対価が欲しくてそうしているわけでもない。
ブレーズはそう言う。
そして、それを彼も受け入れてくれている、と。
そんなブレーズの言葉に天使、リリエルは少し目を細めた。
深い海のような瞳でブレーズを見つめて、天使は言う。
「受け入れた、などあり得ないでしょう。
あの異界の神は、私とよく似た存在なのですから」
自分によく似た存在。
そんな彼(イシャン)が異端たる悪魔(ブレーズ)を受け入れるはずがない。
冷たい声で、リリエルは言う。
ブレーズはそれを聞いて眉を寄せた。
そして、半ば吠えるような声音で言う。
「お前と同じだって?ふざけるな!」
同類に扱うな、とブレーズはいう。
その瞳にはゆらゆらと、怒りの炎が揺れていた。
「イシャンにはちゃんと、感情がある、少なくとも今は、今のお前のようにただ機械みたいにいらないものをいらないと断ずることはしない!
感じて、考えて、その末に答えを出してる!
だから、それができないお前と同じにするな!」
そんなブレーズの言葉にリリエルは僅かに眉を寄せる。
そして彼が何か言い返すより、早く。
「確かにかつての私は君によく似た存在だったかもしれない」
静かな声が響く。
ブレーズが振り向けば、そこには他でもない……彼が愛する存在がいて。
ブレーズが敵意を、殺意を向けられていることに気づいてだろう、武器を構えたイシャンの、そしてアンシュの姿がそこにはあった。
リリエルはそんな彼らの姿を見てほっと嘆息する。
そして、静かな声でイシャンにいった。
「欲や感情に左右されることほど非合理的で非生産的なことなどないでしょう。
あなたもそう思っているのだと私は考えていたのですが。
そこにいる他者を堕落させることしか能がないような存在に付け入る隙を与えることになるわけですし」
ちらと向けられる視線は、ブレーズとアンシュの方へ。
人の欲を煽る、害獣のような存在。
そう言いたげな視線に、ブレーズは唇を噛む。
「正しい世界に悪は必要ない。
悪も欲もそれに繋がる感情も必要ないでしょう。
そんな高潔な世界を貴方も目指していると私は認識していたのですが」
リリエルは淡々とそう述べる。
イシャンは小さく息を吐くと、静かな声でリリエルにいった。
「今でも私は、感情や欲に振り回されること自体は愚かなことだと考えている。
誰かのために祈りし願いが、その純粋さ故に目を曇らせることがあるからだ。
故に私はそれをカーマの愚かさだと断じてきた。
だが、その祈りさえも棄てて何処へ向かうというのだ。
その結果で齎される高潔さとはなんだ」
確かにかつての自分は、リリエルによく似ていた。
異物を排除する機構のような思考。
それに従い、愚かなものであると誰かを思う弱さを、愛を求める欲を、感情を断じた。
しかし今は違う。
それが誤りであったと、確かに認めている。
認めて、その上で考えたのだと、イシャンは言った。
「確かに感情をもつ存在(もの)は弱い。だが弱さ故に手を取り合って生きているのではないか。
そのとき生じる力こそ、我々が愚かだと棄てたカーマの力なのではないか。
私はそう考え、今ここにいる。
それを堕ちたとは言わせない。唆されたとも、決して言わせない」
ブレーズを見て、彼は少し微笑んだ。
リリエルの言葉に少し不安げな顔をした、自分に真っ直ぐな好意を向けてくれる存在に。
彼によって自分が堕落したとは思わない。
彼のお陰で、かつての自分が得ようとすら思わなかった感情を得ている。
そんなことを考えながら。
高潔で潔癖な天使には、その思考が理解できないのだろう。
怪訝そうに眉を寄せ、リリエルは言葉を紡いだ。
「全てが洗練された清浄な世界ならば傷つくものも穢れるものも存在しないでしょう。
そうした世界が理想であると思うのはきっと貴方もだろうと思っていたのによりによって悪魔に取り憑かれるとは……ついてませんね、貴方も」
半ば憐むような言葉にイシャンは眉を寄せる。
そして、静かな声で言い放った。
「その理想に、その高みに辿り着くまでの痛みや嘆きを、かつての私は知ろうともしなかった。
誰かの悲しみの上に高潔なる世界などありはしない、ただそれだけのことだ」
一瞬視線を向けるのは、アンシュの方。
かつて拒絶し、彼を苦しめた、悲しませた。
だからこそ、今の自分が、今の自分の思考がある。
イシャンはそう言い放ち、魔力を放出する。
全てを焼き払う、日の神の力。
それに一瞬リリエルが怯んだ。
アンシュはイシャンの言葉にふっと笑みを溢す。
かつての彼の行動を完全に許すことはできないけれど……まぁ、今の彼の考え方は、悪くない。
そう思いながら、彼は口を開いた。
「我を貴様らの志とやらの犠牲と見做しているのは些か不満ではあるが……我(カーマ)を否定し愚弄する此奴のことは我も看過できぬ故……少しであれば手を貸してやろう。
ふふ、良い夢を魅せてやるぞ?
清廉な天使とやらを欲に溺れさせるのも悪くはないからなあ?」
そんなイシャンの言葉と彼が纏う気配にリリエルは露骨に顔を歪めた。
「穢らわしい」
吐き捨てるようにそう言って、彼はその場から姿を消す。
流石に、異界の神たる二人を相手取って戦うほど、彼も考えなしではない。
ふう、とイシャンが息を吐いたとき。
ぺたりと、ブレーズがその場に座り込んだ。
「!ブレーズ」
大丈夫か、とイシャンは彼に駆け寄る。
ブレーズはへにゃりと笑うと、肩を竦めた。
「はは、流石に俺が対峙してるにはみんな強すぎるんだぞ」
イシャンもアンシュも神たる存在。
リリエルはリリエルで神の御使いだ。
その中に一人混ざるブレーズはと言えば位の低い悪魔。
耐えるだけで手一杯だった、と彼はいう。
しかしすぐに笑うと、彼はギュッとイシャンに抱きついた。
「……ありがと」
「?何か、礼を言われるようなことを私はした覚えがないのだが」
不思議そうにしているイシャンに、ブレーズはいう。
「俺が傍にいることを認めてくれて、ありがとう」
リリエルに向けた言葉が嬉しかったのだとブレーズはいう。
……正直、自分は拒絶されてもおかしくない存在だから、と。
イシャンは彼の言葉に幾度か瞬く。
そしてふっと表情を緩めると、そっとブレーズの頭を撫でてやったのだった。
――出した答えは――
(本当は少し不安だった)
(だから、彼の言葉が嬉しかったんだ)
2020-12-5 00:04
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プロフィール
性 別 | 女性 |
年 齢 | 29 |
誕生日 | 7月27日 |
地 域 | 静岡県 |
系 統 | おとなしめ系 |
職 業 | サービス |
血液型 | AB型 |