悪魔族が増えました。
今回そのうちの一人、ヘイルの話です。
正式に言えばヘイルとライシスという最悪のコンビを組ませるために書きました←
好色な悪魔。
好色な人間。
彼らが力を合わせたら…どうなることやら←
そんなわけで、追記からお話です!
昼間とは違う、どことなく妖しげな雰囲気を漂わせた、ディアロ城の城下町を歩く、鮮やかな桃色の髪の少年は小さく笑う。
別段おかしなことがあるわけではない。
ただ、こうした夜の街を歩くのは楽しくて堪らない。
ただ、それだけだ。
彼……ライシスが身にまとっているのは真白の制服。
この国の、王国警察が身に付けているその制服は、彼が警官であることを確かに示している。
そのため、こんな夜遅くに、まだ幼さを残した少年が一人、街の中を歩いていても補導されたり、声をかけられたりすることがないのだった。
しかし、実際のところ、この少年はもう勤務後。
普通ならばとっくに家に戻っている時刻だった。
それなのに彼がこうして街の中を歩き回っている理由……
それは、彼の趣味で。
彼はかなり、好色な性格だった。
男であれ女であれ、共に寝るのが楽しい。
勿論それはただの添い寝ではなく、"そう言った行為"を含むものだ。
一夜限りの甘い関係。
そう言ったスリルが彼には好ましいもの。
それ故、こうして夜の街を闊歩する。
寂しそうな、或いは隙のある人間を見つければ、声をかけるために。
いつも、上官には叱り飛ばされている。
勿論、倫理的に間違っているということはライシス自身もよく知っていた。
しかし、だから……だからこそ、そう言った行為を彼は好んで、自らそう言った行為に手を出すようになっていた。
今宵はどんな相手を探そうか。
時折客引きの男や女の姿は見えるが、それは一切目に止めない。
最初から手に入るものなど、求めては居ないのだった。
「面白いね、君」
不意に聞こえた声。
それにライシスは足を止める。
反射的に腰の剣に手を伸ばしながら、彼はその声が聞こえた方を視線だけで探した。
その声が聞こえたのは、静かな路地裏。
野良猫一匹居ないそこに一つの影が見えた。
まるで猫の瞳のように煌めいているのは、相手の瞳だろうか?
「……誰です?私に声をかけましたか」
「君以外に居ないだろう?」
そんな声と同時に、相手はくすり、と笑い声を漏らした。
まるで睦言の最中に零すような、甘ったるい笑い声。
それを聞いて、ライシスは訝し気に眉を寄せた。
「そんな顔をしないでくれよ。
こうして俺に声をかけられたことを光栄に思ってほしいものだね?」
そう呟くと、相手は影から出てきた。
長い、濃い紫の髪。
ほんの少し巻いているのだろうか、毛先がくるりと内側に向いていた。
瞳はまるで猫のように鮮やかな金色。
それを細めながら歩み寄ってくる青年の姿に、ライシスは足が竦むのを感じた。
何と表現するのが正解だろうか。
眼前に立つ青年の姿を見て、まったく動けなくなった。
伝説にあるゴルゴンの目を見てしまったような……否、そんなおぞましいものではなく。
ぞっとするほどに、美しい。
眼前に立つ青年が纏う色気だとか、雰囲気だとか、そういったものに飲み込まれてしまったような、そんな感覚だった。
「ふふふ、なかなか素直な反応をしてくれるじゃないか。
でも、俺の気にあてられてるようじゃ困るよ」
そう言いながら、青年は微笑み、ライシスの頬に触れた。
彼の行動に、ライシスは少し驚いたような声を上げる。
それから、いつもの調子を取り戻したように笑みをうかべて、いった。
「どういう、意味ですか……?私に何か、用事でも?」
「まだ気がつかないの?俺の本当の姿……」
彼はそう言うと同時に、魔力を解放した。
―― 刹那。
背に開く、大きな黒い翼。
その姿を見て、ライシスは一瞬目を見張った後……すぅっと目を細めた。
「なるほど……悪魔でしたか」
「そうさ。
俺の名前はヘイル・ポイゾナ……
誇り高き、フルーレティの血を引く者……」
彼はそういいながらふわ、と微笑む。
穏やかで柔らかな表情。
しかしその奥には確かに、不思議な色が点っていた。
彼が悪魔であることを一瞬で感じ取れる、何か。
「ほう……それで、そんな悪魔様がどうして私何かに声を?」
ライシスはそういって小さく首を傾げる。
するとヘイルと名乗った少年は小さく笑って、"気が合うと思ったからさ"といった。
「俺が興味を抱く人間なんて、そうそう居ないんだよ……
だから、声をかけたんだ。
ねぇ、ライシス・ファラント……」
―― 俺と、契約しない?
***
二人は、静かな街外れの森の奥まで来た。
人っ子一人来ない、静かな空間。
そこに立つと、ライシスはちらりとヘイルの方を見た。
「契約……私に害は?」
「無いよ、基本的に。
強いていうなら悪魔の魔力を薄くだけれど持つことになるから人に警戒されやすくなるかもね。
でも、それだけでこんな面白い取引を拒むような君じゃないだろう?」
そういって微笑む、ヘイル。
愉快そうな笑顔は先程から一度も崩れない。
その様を暫し見つめたライシスも、すぐに彼によく似た笑みを浮かべた。
「……構いませんよ、私の新しい力として使わせていただきましょう」
「はははっ、そうこなくちゃね」
そういって笑う、ヘイル。
彼は足元にすらすらと魔法陣を描いた。
そして自身の指と、ライシスの指に傷をつけた。
ぽたり。
滴り落ちる、赤い雫。
ぼうっと、魔法陣が光った。
「さあ、契約を交わそう……君とならば、楽しい世界を見れそうだ」
―― 彼奴の言葉も、存外嘘ではなさそうだね、人間界ってのも、面白そうだ。
そう呟くヘイルの声を聞きながら、ライシスは体に流れ込んでくる悪魔の魔力に身を委ねたのだった。
―― Contract ――
(交わす、契約。
さあ、面白いモノをたくさん見せておくれよ?)
(美しい悪魔。
彼の力を借りれば、この乾いた体も心も、満たしていくことが出来るでしょうか?)