久々にワンライに挑戦しました。
けれども久々の視点固定の話で完全にすっころんだ感です…
前半はフィアの視点、後半はシストの視点。
相棒二人の不器用な関係を書きたかったのです。
今回使用させていただいたお題は「誰か赦してよ」と「嘘をつくなら、上手くやりなよ」です。
では、追記からどうぞ!
夢を見る。
二年前の夢。
あの、悪夢の日の夢を。
失った光。
ずっと隣にあった、失いたくなかった光。
当たりまえに、すぐ近くにあった光……――
あれを失ったのは自分の所為だ。
自分の頭の中に響く声は、永久に消えないのだろう……
***
Side フィア
「顔色が悪い」
思わずそう声をかけた。
それも無理が無いくらい、俺の相棒の顔色は悪かった。
青白い、というのか。
とにかく、血の気が引いた顔。
その癖に俺がそういうと不思議そうに首を傾げる。
あまつさえ、にこりと微笑んで、言うのだ。
「ああ、寝不足なんだよ」
大丈夫、一日寝たら治るから。
そういって笑う相棒……シスト。
彼はひらりと手を振ると、"今日は一日休ませてもらうから"とだけ言って、俺の傍を離れていった。
……まったく。
わかりやすいにもほどがある。
「……下手くそ」
思わずそう呟いた。
「何が?」
不意に後ろで声が聞こえて、驚いて振り向く。
その視線の先にいたのは、真っ白い髪の少年。
「アル……いや」
何といえばいいか。
そう思いながら視線を揺らすと、彼は眉を下げた。
「……悲しい」
「え?」
いきなりどうしたんだ。
俺がそういうと、アルは瞳に涙を浮かべた。
「シストさん……かな。
何だかすごく、悲しいよ……」
あぁそうだった。
アルは、シストの感情を感じ取ってしまっているのだろう。
精神共鳴の能力を持つ彼は、よく見知った人間の感情をよく感じ取ってしまうから。
特に、負の感情。
悲しみや怒り、憎しみ……心の痛み、SOSを感じ取ってしまう。
不便だろう。
そう問いかけもしたが、彼は微笑んで首を振ったものだった。
痛みを感じ取れれば、対応もしやすい。
どうしてあげたらいいかを考えられるから……
何より、この能力は珍しい。
其れならば僕にしかできないこともあるはずだ。
彼は、そういっていた。
と、その話は今関係ない。
アルがそういう、しかも泣いているということは……
やはり、確実だろう。
「さっき俺が下手って言ったのは、シストが嘘をつくのが下手だってことだよ」
「嘘……?」
アルはこぼれる涙をぬぐいながら首を傾げる。
俺は小さく頷いて、言った。
「何でもない、って言ってたけど……なんかあったんだろ。
あいつの顔色は酷かったから」
体調が悪いという風ではなかったし。
俺はそういいつつ、シストが出ていったドアを見る。
おそらく部屋にいるだろう。
そう思いながら俺は小さく息を吐き出した。
「……とりあえずいってみるよ。
あの状態のシストはひとりにしておけない」
一度思い詰めるととことんだからな。
俺がそういうと、アルは微笑んで、頷いた。
「そうだね……シストさんも、喜ぶと思うよ」
だから、いってあげて?
アルはそういって微笑む。
シストが出て行ってから少し時間が経ったからか、彼の涙は止まっている。
俺は目じりに残っている彼の涙を指先で拭ってから、シストの部屋に向かったのだった。
***
Side シスト
ベッドに腰かける。
やっぱり、フィアにはばれたかな。
そう思いながら息を吐き出した。
最近よく見る夢。
エルドを亡くした時の夢。
俺の不注意で、エルドは死んだ。
その時の夢を繰り返し見るのだ。
―― わかっている。
俺が悪い。
俺が、悪いんだ。
俺があの時余所見をしなかったら。
俺が、もっとちゃんとしていたら。
エルドは、死ななかった?
そう考えれば考えるほど、胸が苦しくなる。
忘れてはいけない、そう思うのに……忘れてしまいたいと、そう思うのだ。
―― 赦して。
そう、願ってしまう。
嗚呼、愚かしい。
自分でそう思う。
彼が死んだのは俺の所為なのに、俺は誰かに許されることを願ってしまうのだ。
もういいよ、と。
出来る事ならばエルド本人からその言葉をもらいたいけれど、それは出来ない。
エルドはそんな人間ではないとわかっている。
けれど……恨まれているのではないかとそう思ってしまう時も、確かにあって。
と、その時。
ドアをノックする音が聞こえた。
今は、みっともない顔をしている。
だから、居留守を使おうと思った。
けれど。
「……シスト」
いるんだろう。
静かな、俺のパートナーの声。
あぁやっぱり、彼にはばれていた。
そう思いながら俺は小さく息を吐き出す。
「……どうした」
「入っていいか?」
「……いや」
今は勘弁してくれ。
俺がそういうと、フィアは素直に"わかった"とドアの向こうで答えた。
それからは、しんと静かになる。
え?と思いながら"フィア?"と声をかけると、"何だ?"と返事がある。
べつに何かを言うわけではない。
ただ、ドアの前にいるのだ。
それを感じ取ると思わず笑みがこぼれた。
―― こいつには、かなわない。
俺はそう思う。
彼には勝てないと。
傍にいるだけ。
其れだけでこうも心が穏やかになっていく。
言葉なんてなくても。
そう思いながら、俺は枕に顔を埋めた。
許容の言葉なんてない。
けれど彼は、こうして傍にいることで伝えてくれるのだ。
俺を避けたり恐れたりはしない。
一度相棒を死なせてしまっている俺の傍にいる。
そう伝えられることが、俺への"赦し"であるように感じた。
ありがとう。
その言葉を伝えることは出来ないけれど、俺は確かに"今の相棒"に感謝していた。
―― わかりやすい嘘 ――
(お前の嘘はヘタだから。
隠そうと思うならもっとうまくやれと、そう思う)
(求めるのは赦しの言葉。
彼はそれを与えはしないけれど、俺とともに"罪"を背負う覚悟を見せてくれて…)
2016-3-19 22:28