長らく放置してしまっていたFallenシリーズの続き。
今回はロシャのお話です。
彼はどうにもこういう雰囲気の話が似合うので…
アンバーへの憎しみをうまく書きたかったです。
そしてフォルが相変わらずにゲスいです、はい(笑)
ともあれ、追記からお話です!
賑やかな、ディアロ城の城下町。
そこを、歩いていく二つの影……
それはこの暖かい陽気だというのにやたらと着込んだ服装の二人組で、街行く人々はその姿を見て不思議そうな顔をしていたのだった。
うぅん、と唸る亜麻色の髪の少年……フォルは小さく息を吐き出す。
そして、呟くような声で言った。
「この辺りなんだけどなぁ……」
そう呟くフォルの隣で、漆黒の髪の青年も目を細める。
そして、フォルに問いかけるように言った。
「騎士の弟……ですか」
そう問いかけるノアールに、フォルは小さく頷く。
そして、目を細めながら、呟くように言った。
「あの子だよ。この強い感情……」
そういいながらフォルは楽しそうに笑う。
そして、指折り数えながら、言った。
「寂しさ、怒り、何より……孤独」
最後の一言のあとに、フォルはにやりと笑みを浮かべた。
そして、まるで歌うような声色で言う。
「最期にすがった兄にたいしての感情だね。
……ふふ、身内への感情は何よりも強い糧になるからね」
そういいながらフォルは笑う。
……愉しそうに、嗤う。
ノアールはそんな彼を見て、目を細めていた。
そのまま、二人は道を歩いていく。
彼らが探しているのは、"未練"を抱いて死んだ魂。
それも、フォルが完治した、この国の騎士団の騎士の弟の魂……それだという。
きっと、"彼"は大きな力を持つだろう。
フォルはそういって笑うのだ。
そうして街中を彷徨っていると、小さな光を見つけた。
城の方へふらふらと彷徨うように飛んだり、街中に戻ったり……
そんな光を見て、フォルは目を細める。
"見つけた"と小さく呟いて、彼はその光に手を伸ばす。
「……おいで」
優しい声を、フォルは出す。
それを聞いてか、光はふわふわとフォルの方へ漂ってくる。
フォルはそれをそっと捕まえると、笑みを浮かべながら、言った。
「君に、肉体を与えよう」
その光と共に、フォルは空間移動術を発動させる。
そうして自分たちの屋敷にまで戻ると、いつも通りの魔術を使い、その魂に肉体を与えた。
創りだされた体。
それは、黄色の髪に琥珀の瞳を持った少年の姿。
その少年はゆっくりと目を開けると、瞬きをする。
「え……」
小さく声を上げて、少年は自分の手を見る。
驚いている表情だ。
そして彼は顔を上げて、フォルとノアールの方を見た。
そして、呟くような声で言う。
「これ……僕……」
「君は、蘇ったんだよ。
僕の操り人形として……ね?」
そういって微笑むフォル。
君は生まれ変わったんだ、という。
新しい体に。
丈夫な体に。
もう、苦しまなくて良い体に。
彼の言葉に少年は驚いた顔をした。
そして不思議そうに、少し警戒した表情で、フォルに問いかける。
「どうして……?」
どうして、そんなことを?
見たこともない人たちがどうしてそんなことをしてくれたの。
そんな顔をしている少年。
フォルは口元に笑みを浮かべて、言った。
「……君のお兄さんが、憎いだろう?」
彼の発言に、少年は大きく目を見開いた。
琥珀の瞳が揺れる。
それを見つめながら、フォルはいった。
「君が苦しんでいる、最後の瞬間……彼は君の手を離した」
「……違」
違う。
そう否定しようとする少年。
しかしフォルはその発言を遮るように、言った。
「そればかりか、君との約束も忘れて、彼は笑顔で生きているんだよね?」
彼の発言に、少年は黙り込む。
そして目を伏せてしまった。
フォルは愉しそうに笑いながら、そんな彼に歌うような声色で問いかけた。
「……憎いでしょう?復讐、したいでしょう?
どうして彼ばっかりって思うよね?」
その問いかけに少年は答えない。
しかし握りしめた拳が小さく震えていた。
フォルはそんな彼の手にそっと触れながら、言う。
「そのための力を、僕があげるよ」
「どうして……それに、貴方は誰?」
警戒はいつの間にか困惑に変わっていた。
フォルは彼の発言に小さく首をかしげながら、言う。
「僕?僕は君をこの肉体に定着させたモノ……君たちの御主人さ?」
「御主人……」
繰り返す少年。
フォルはそんな彼に手をさしのべた。
そして優しい声色で言う。
「君が、これから生きていくために必要な存在になるよ。
大丈夫、僕は君のお兄さんと違って君を棄てたりしないからさ」
「……っ」
"棄てる"というフォルの発言に少年の表情が変わる。
害された獣のような表情。
それを見て、フォルは肩を竦める。
そして愉快そうに笑いながら、言った。
「おっと、その憎しみの表情を僕に向けるのはやめてくれないかな?
僕が殺されちゃったんじゃあ、あまりに形無しだからね」
わかるだろう?
そういって微笑むフォル。
その無害そうな表情に、少年も表情を崩す。
「……わかったよ、御主人」
これからよろしくね。
そういって、少年は笑ったのだった。
***
「主、何故彼の容姿はそのままに……?」
少年が寝付いてから、ノアールはフォルにそう問いかけた。
というのも。
大体、拾ってきた"操り人形"は容姿を変える。
ぺルも、そうだった。
それなのに、どうして?
そう問いかけるノアールに、フォルは言った。
「わざとだよ」
「わざと?」
ノアールは少し驚いた顔をする。
フォルは愉快そうに笑いながら、言った。
「そうした方が面白いだろう?
彼は、否が応でも思い出すのさ……彼の兄に、"見棄てられた"ことを」
「あぁ、なるほど……」
そういって頷いたノアールは笑みを浮かべる。
フォルは彼の絶望や憎しみを糧に、操り人形としての力を高めようとしているのだ。
そのために、あの少年が憎む兄の姿によく似た容姿は役に立つのだろう。
そう思いはしたが……
「でも、ずっとあの容姿でいては、その……浮いてしまうのでは?」
ひとつの懸念。
他の操り人形は皆、黒髪に黒い瞳。
そんな空間では浮いてしまうのでは?
そう彼が問いかけると、フォルはおかしそうにいった。
「ふふ、ノアールの口から"浮く"なんて言葉、聞けて新鮮だったな。
大丈夫、あの黒い髪と瞳は僕の操り人形である証……
明日の朝、ちゃんとそのためのものは渡すつもりだよ」
フォルはそういって笑う。
ノアールは"主がそうおっしゃるなら……"と小さく頷いたのだった。
***
そんな、翌朝。
起きてきた少年に、フォルは声をかけた。
「おはよう、ロシャ」
「ロシャ……?」
その呼び掛けに、少年はきょとんとした顔をする。
彼は今にも彼の"本当の名前"を口にしようとする。
フォルはそんな彼に微笑みながら、言った。
「そう。
体の弱い、戦えない"ハク"はもういない。
君の名前は、今日からロシャ……
新しく君は生を受けたんだ。前の名前に縛られたくはないだろう?」
だから、僕が君に名前をつけた。
ロシャ。
君は、ロシャとして生まれ変わったんだよ。
そういって笑うフォル。
ロシャと名付けられた少年は幾度かまばたきをしてから、嬉しそうに笑って、言った。
「……うん、ありがとう、御主人!」
嬉しそうな顔をしているロシャに、フォルはなにかを差し出して、言った。
「それから、もう一つ。
これは、僕から君への贈り物だよ」
「え?」
差し出されたものを見てロシャは驚いた顔をする。
彼が差し出しているのは、カラーコンタクト。
きょとんとしているロシャに、フォルはいった。
「髪は魔術で染めればいいし、瞳はこれで色を変えればいいよ。
君のお兄さんによく似たその髪と瞳を、ね」
そういって、フォルはロシャの黄色の髪を撫でる。
すると、ロシャはフッと笑った。
瞬間、彼の髪色が黒に変わる。
少し驚いた顔をしているフォルに、ロシャはいった。
「……御主人、気遣ってくれてありがとう。
でもね、一つだけお願いがあるんだ」
「へぇ?何だい?」
「僕に、"あの人"の話をふらないで」
お願いだよ。
そういうロシャの琥珀の瞳には、強い憎しみの感情が点っていた。
フォルはそれを見て、目を細める。
「っはは、わかった、気を付けるね?可愛いロシャ……」
これからよろしく。
そういって笑う堕天使のサファイアの目には、悪戯な子供のような光が点っていたのだった。
―― Fallen…〜絶望の操り人形〜 ――
(うまく操れればそれでいい。
それが僕の望みなのだから、ね?)
(兄を憎む、幼い少年。
彼には、命を刈り取る鎌を与えようかな)