任務のあと、レキは買い物に寄った。
大きな紙袋いっぱいに食材を買って、城に戻る。
彼の足取りは、軽かった。
今日は、夕方までに任務が終わった。
だから、久しぶりに夕食を作ることにしたのである。
レキは料理が好きで、彼の恋人であるジルは食べることが好きで。
そんな彼の為に料理を作るのが、レキにとっては楽しみだった。
今日は寒いしシチューにしよう。
そう思って食材を買ってきた。
人参、ジャガイモ、タマネギ、肉……
少しチーズをいれてみようか、余ったらドリアにするのもありかもしれない。
そう想いながら、彼は部屋に入った。
「ごめんジル、ただいま……あれ?」
部屋に入り、ベッドに座っているジルをみてレキは目を丸くした。
顔を上げたジルの瞳はどちらも金色。
お帰りなさい、と微笑んだ彼をみて、レキは言った。
「今日は"ジル"が表にでてるのか」
少し驚いた。
レキはそういう。
それを聞いてジルはにこにこと笑いながら、言った。
「はいっ表の私が偶には貴方も美味しいものが食べたいでしょうと代わってくれました!」
すごく嬉しいです、とジルは言う。
それを聞いてレキは少し笑ってから、心配そうな顔をした。
「それは良かったけど……今日の夕飯は俺が作るぞ?」
それでいいのか?とレキは心配そうだ。
ジルはそれを聞いてくすり、と笑った。
「ふふ、それが嬉しいんですよ。
貴方が食事を作ってくれるんでしょう?
中からみていて、とてもうらやましかったんですよ」
そういって嬉しそうに微笑むジル。
レキは彼の言葉に嬉しそうな顔をして、言った。
「そっか……それなら、張り切って作らないとな」
張り切るよ!と声をあげるレキ。
ジルはそんな彼をみてにこにこと笑った。
「ふふふ、楽しみにしていますね?」
そういって笑うジル。
レキはそれをみて微笑みながら、夕食の支度に取りかかることにしたのだった。
***
キッチンにたって、材料を切っていく。
とんとんとん、と小気味よい音。
それを聞きながらジルは目を細める。
ベッドの上に腰掛けて、クッションを抱きながら包丁を動かすレキをじっと見つめた。
「……ジル?」
「はい?」
何でしょうか。
ジルがそういって首を傾げると、レキは少し頬をひっかく。
そして、苦笑混じりに言った。
「何でそんなまじまじと……少し、照れるんだけど」
レキはそういって笑う。
ジルは彼の反応にくすくすと笑いながら、言った。
「ふふふ、楽しみでしょうがないんですよ。
とてもいい匂いがしてきました……少し、味見がしたいです」
おなかすきました、とジルは言う。
普段の彼より幾分幼さの残る振る舞いの彼に目を細めつつレキは彼を呼んだ。
「おいで。だいぶできてきたから味見してくれ」
レキがそういうと、ジルは嬉しそうに笑って、てくてくとレキの方へくる。
レキは煮込んでいたシチューから小さなジャガイモの欠片をすくい取って小皿にのせると、ふうふうと冷まして、ジルに渡した。
「はい、火傷しないようにな」
「はぁい」
ふぅふぅ、と息を吹きかけてから、小皿の上のシチューを口に運ぶ。
そしてぱぁと顔を輝かせた。
「美味しいです!」
「そっか、それは良かった」
ほっとしたよ、といってレキは微笑む。
ジルは嬉しそうに小皿を返しながら、言った。
「ふふふ、楽しみにしてますね」
そういってジルは部屋の方へ戻っていく。
レキは彼の姿を見送ってから目を細める。
「よし、と」
最後の仕上げだ。
そういって笑ったレキは鍋の中をかき混ぜたのだった。
***
「はい、用意できたぞー!」
レキはそういいながらテーブルに料理を並べる。
シチューを煮込みながら用意したサラダをならべつつ呼ぶと、ジルは嬉しそうに席に着いた。
「ありがとうございます……わああ、美味しそうです!それに可愛い!」
ジルが思わずそう声をあげた理由。
それは、シチューの中に入っている野菜が可愛らしくくり抜かれていたから。
花や星の形。
それが愛らしくてたまらない、という顔をした。
レキは我が意を得たり、といわんばかりの顔をして微笑む。
そして"せっかくだからちょっと工夫してみたくてな"といって笑う。
「さ、たべよう?」
暖かいうちにさ、とレキは笑う。
ジルは彼の言葉に嬉しそうに笑って、スプーンを手にした。
そうして、二人で一緒に夕食を取り始める。
綺麗な形にくり抜かれた人参を嬉しそうに眺めつつ、ジルはシチューを口に運んでいく。
レキはちらちらとそんな彼を見つめていた。
「んぅう、美味しいです……」
幸せそうに笑うジル。
レキはそれを嬉しそうに笑いながら、ありがとう、と言った。
そういいながら、レキはやはり彼の様子を窺っていた。
気になっていること。
それは、一つだけジルの皿に忍ばせたハート型の人参だ。
彼がどういう反応をするかなと思っていれたのだけれど……
あんまり、反応がない。
もう食べてしまったのだろうか。
気がつかなかったのか?
そう思っていると……
「あ」
気づいた。
ほとんど空っぽになったジルの皿の中。
そこに一つだけ、人参が残っている。
ハートの形にくり抜かれた人参が、ひとつだけ。
レキの反応を見て、ジルは微笑む。
そして照れくさそうな顔をしながら、言った。
「だって……だってやっぱり最後に食べたいじゃないですか」
ちゃんと最初から気づいてはいましたよ?
ジルはそういって微笑む。
レキはそれを聞いて幾度か瞬きをしてから、ふわりと笑いながら、言った。
「はは、そっか……良かった」
気づいて無いのかと思った、といってレキは笑った。
ジルはにこにこと微笑む。
「ありがとうございます、嬉しいです」
幸せです、と微笑むジル。
レキはそんな恋人をみて嬉しそうに微笑んでいたのだった。
−− 愛しい君への… −−
(愛しいと思うからこそ…
こんな工夫をしてあげたくなるんだよ)
(可愛らしく切り抜かれた人参。
そんなちょっとした工夫が嬉しくて…)