Twitterの「ワンライ ( ♯深夜の創作ワンライ )」に参加させていただきました。
私が今回選んだお題は「会いに来たよ」と「月夜」です。
シストとエルドで…
ちょっとだけホモっぽくなったような気がしないことはありませんが…
この二人のスキンシップも大概ですね(笑)
ほのぼのと、でも切なくなってたらいいなと思いつつ…
こういう時間制限つけて小説書くのも、とても楽しいです♪
では、追記からお話デス!
いつも通りに夢をみる。
一人でいるには広すぎる、二人用の部屋で。
静かな、静かな、初夏の夜。
開け放った窓から吹き込む風は爽やかで、涼しい。
「ん……」
ベッドの上で一度寝返りを打った長い紫髪の少年……シストはゆっくりと目を開けた。
彼がこうして夜中に目を覚ますことは、ほぼない。
いつもはぐっすりと寝入ってしまっているから。
「……珍しい、な」
そう呟きながら彼は体を起こした。
そしてゆっくりと目をこする。
アメジスト色の瞳がゆっくりと瞬いた。
窓の方を見る。
風に揺れるカーテンの隙間から、綺麗な満月が見えた。
「今日は、満月か……」
そう呟くシストの声は、静かな部屋の中に消える。
その呟きを聞くものは、もうこの部屋にはいない。
そう思いながら、シストはふっと苦笑を漏らした。
「……やれやれ」
独り言が多くなったかな。
そう思いながら、シストは小さく溜息を吐き出した。
と、その時。
「昔から多かったぞ?独り言」
不意に声が聞こえて、シストは驚いたように視線をその声の方へ向けた。
そこにいたのは、鮮やかな緑の髪の少年で……
その姿にシストは大きく目を見開いた。
「え……」
嘘、だろう。
そう呟いたシストのアメジストの瞳に映っている少年……
それは、シストのかけがえのない相棒だった少年……エルドだった。
「え、な、何で……」
動揺したように呟くシスト。
その様子を見て緑髪の少年……エルドは苦笑を漏らした。
「あはは、やっぱりそういう顔するか」
そういって、エルドは苦笑した。
そして、そっとシストの頬に触れる。
その手は確かに温もりを持っていた。
その声は確かに、温かさを持ってシストの鼓膜を震わせた。
その笑みは、確かに……
「エルド……どうして」
シストの瞳が潤む。
その瞳には、エルドの微笑みが映っていた。
エルドはそんな彼を見て、目を細める。
それからぎゅっと、シストの体を抱きしめた。
「……会いに来たよ」
そういうエルド。
彼は愛おしげにシストの長い髪を撫でた。
エルドは、もう既に死んでいる人間だ。
もう二度と、会えないはずの人間で……――
シストは彼の言葉にゆっくりと瞬きをする。
そして掠れた声で問いかけた。
「会いに来た、って……」
「会いたかった。
……お前がずっと泣いてるからだぞ、馬鹿」
そういって、エルドは一度シストの体を離す。
そしてふっと微笑みながら、優しくシストの頬をなでる。
「お前がいつも、俺を想って泣くから。
だから……」
―― 慰めに来たんだ。
そういって、エルドは優しく笑う。
その言葉にシストはゆっくりと瞬きをしてから、震える腕でエルドを抱きしめた。
「……ほんとに、エルドだ」
確かに感じる彼の温もり。
愛しい、かつての相棒の体。
それを存分に感じてから、シストは彼の体を離した。
そして、穏やかに笑う。
一筋頬に涙を伝わせながら、彼はいった。
「久しぶりだな、エルド」
そういって、シストは笑う。
エルドはそんな彼を優しく撫でながら、"久しぶりだな"と笑った。
「……お前は、帰ってきたのか?」
シストは彼に問いかける。
その言葉にエルドは首を振って、答えた。
「いや。時間制限はあるよ。
……今夜だけの奇跡、ってやつだな……」
そういいながら、エルドは少し寂しげに笑った。
シストは彼の言葉に少しだけ落胆した顔をする。
彼が帰ってきてくれたのかと思った。
彼が、自分の傍に……
しかし流石にそんな奇跡までは望めない。
彼はもう、死んだ人間なんだ。
こういう形ででも、一時だけでも会うことが出来た……
それだけで、十分だ。
「……んで、俺は久しぶりにお前に会いに来たわけだけど」
エルドは気を取り直したように明るい声色で言う。
シストはそんな彼の方を見た。
彼の紫の瞳を見つめつつ、エルドは首を傾げて、問いかける。
「何がしたい?
……っていったってこんな真夜中だから、出来ることなんてほぼねえけど」
そういってエルドは苦笑する。
"お前は明日も仕事あるだろうから出かけるってわけにもいかねぇしなぁ"と呟くエルド。
シストは彼を見つめてから、少し躊躇うように視線を揺らした。
そして"もしエルドが良かったら、なんだけど"と口を開く。
「……昔みたいに、さ。
一緒に、寝てくれないか?」
「へ?」
思わぬ要求だったのか、エルドはきょとんとした顔をした。
シストは彼の反応に頬を赤く染める。
「が、ガキじゃあるまいし、って思うかもしれないけど、さ……その」
―― 一人で眠るのは、寂しんだよ。
呟くように、シストはそう言った。
それを聞いて、エルドはエメラルドグリーンの瞳をゆっくりと瞬かせる。
それから、ふっと笑った。
「……ったく、可愛いこと言い出すな」
そういってエルドはぎゅっとシストに抱き付いた。
そして、穏やかに微笑みながら、"良いぜ"という。
「でも、俺のベッドの布団とかは片付けられちゃってるし……
お前のベッドで一緒に寝るしかないぞ?」
野郎二人で添い寝ってのも何だかなぁ、とエルドは苦笑する。
シストは"確かにな"といって苦笑した。
「でも、俺はいいよ。
ガキの頃にも、よくやったじゃん。
どっちかが怖い夢見たりとか、雷鳴ったときとかさ」
その時と同じだと思えばいいよ。
そういいながらエルドは笑う。
シストは彼の言葉に小さく頷いた。
二人で、一緒にベッドに横たわる。
成長したシストと、あの時と変わらないままの姿のエルド。
彼らが二人でベッドに寝るには少々狭かったけれど……
―― 落ち着く。
一人きりでない空間。
それに酷く安心して、シストはふっと息を吐き出した。
エルドはそんな彼の頭をそっと撫でる。
そして小さく笑った。
「ほんとに、お前は甘えん坊だな……」
そういう、エルド。
シストは"うるせぇ"と呟きつつ、ぎゅっとエルドに抱き付いた。
この奇跡は、今夜だけのものだという。
この奇跡は、もうすぐ消えてしまうものだと。
……それならば。
もう二度と会えないはずの、大切なパートナーとの時を、大切にしたい。
「……眠かったら寝ていいんだぞ?」
明日も仕事だろう。
エルドはそういう。
シストは"俺の好きにするよ"といった。
「昔もよくこういうやり取りしたよなぁ……」
懐かしそうにエルドは呟く。
シストはそんな彼を見て小さく笑って、いった。
「俺が仕事で、お前が休みの時とかな。
時々喧嘩したりもしたっけ……」
そういいながらシストは目を細める。
明かりを消せだのなんだのと文句を言い合ったりもしたっけ。
そういって笑うシストを見て、エルドも小さく笑った。
「懐かしいなぁ……」
こういうやり取りすんのも。
そう想いながら、エルドはいった。
そして彼はふっと息を吐き出しながら、いった。
「……お前が寝付くまでちゃんと傍にいてやるから、さ」
―― おやすみ。
エルドはそういいながら、優しくシストを撫でる。
ほんの少し寂しげな顔をしているのは隠しながら。
大切な、大切な相棒。
彼の姿を見られただけで、声をかけられただけで、こうして笑い合えただけで満足だ。
エルドがそういうと、シストは微笑む。
そして、彼にいった。
「……ありがとう、エルド」
俺に会いに来てくれて。
俺の我儘を聞いてくれて。
……本当に、ありがとう。
そういって目を閉じたシストの頬に一筋だけ、涙が伝い落ちていく。
もっと、もっと色々話したい。
そう思うけれど体は限界で、少しずつ瞼が重くなる。
眠りに落ちる直前……
"これからも見守ってるからな"という優しいエルドの声が聞こえた気がした……――
―― I come to… ――
(会いに来たよ。
かけがえのない、愛しいパートナーに)
(今宵だけの奇跡。それに俺は縋ろう。
目が覚めたその時には、お前の姿がなくなっているとしても…)