「Sacrifice」の続きなIFパロ設定のお話です。
ヘフテンさんがいなくなったあとの大佐殿の様子を書きたくて…
珍しいペアな話になりました←
*attention*
大佐殿とスターリンさんメインなお話です
シリアスなお話です
IFパロ設定のお話です
「Sacrifice」の続きなお話です
珍しいペアなやり取りでした
スターリンさんにとってフォルは一応恋人なので…
こうして怒るスターリンさんとそれに対して思わずこんなこと思う大佐殿萌えます
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
ひんやりと冷えた空気が満ちる、廊下。
いつもは賑やかなその場所が、何故か今日は酷く静かだ。
今日は、というよりは時間が時間だからか。
そう思いながらそこを歩いていく隻眼の少年……シュタウフェンベルクは小さく息を吐き出した。
そして、窓の外を見上げる。
空には、細い月が昇っていた。
真っ白い月あかりが、降り注いでいる……
と、その時。
背を冷たい風が撫でた。
今日は夏にしてはやや涼しい日だと思っていたが、それにしても冷たすぎるような風が……――
驚いて、ふり向く。
そしてそこに立つ人物を見てシュタウフェンベルクは目を見開いた。
そこに立っていたのは、浅緑の髪の少年。
険しい表情を浮かべた少年……スターリンは、シュタウフェンベルクを睨みつけていた。
彼も、偶然此処を通ったのだろう。
そして、偶然シュタウフェンベルクを見つけたのだろう。
……だって。
彼がすすんでシュタウフェンベルクに会いに来るはずないのだから。
元々二人はあまり関わりがなかった。
しかし、彼らが顔を合わせない理由は、それではない。
……二人の間には、埋めようのない溝が出来たから、だった。
その、刹那。
びゅうっと強い風が吹き抜けた。
冷たく、鋭い風。
シュタウフェンベルクは反射的に目を閉じる。
と、次の瞬間。
シュタウフェンベルクの胸ぐらを、スターリンが掴んだ。
「何故殺したっ」
響いた、鋭い声。
それはほかでもないスターリンの声だった。
シュタウフェンベルクは少し驚いてそんな少年を見下ろす。
スターリンは琥珀の瞳に強い怒りと……悲しみを灯していた。
何故殺した。
その問いかけの意味は、シュタウフェンベルクにもよくわかっていた。
彼が殺したわけではない。
彼の恋人……ヘフテンが"殺した"のだ。
亜麻色の髪にサファイアの瞳の堕天使……フォルを。
フォルはしばしばシュタウフェンベルクに何かとちょっかいをしかけていた。
無理矢理押し倒して悦楽を与えたり、彼の魔力や宿命についてつつき回して傷つけたり……
そんな堕天使のことが許せなかったのだろう。
ヘフテンは堕天使に戦いを挑んだ。
勝ち目など、ないはずだった。
相手は堕天使。
特殊な魔力を持つ存在だ。
それに対してヘフテンは普通の人間だ。
勝てるはずなど、なかった。
しかしそれはあくまで普通の戦い方をした場合。
"対価"を支払ってならば……勝ち目はあった。
属性的にはヘフテンが有利。
ヘフテンはそれを生かしたのだ。
フォルに確実に攻撃を仕掛ける方法。
彼を確実に……殺す方法。
その道は、一つしかなかった。
堕天使を殺す、代償。
それは……ヘフテン自身の命だった。
自爆。
それが、堕天使を殺める方法だった。
愛しい恋人を守るためならばと命を散らした、シュタウフェンベルクの副官。
あれから既に数日が経過していたけれど……
まだ、シュタウフェンベルクは現実を受け入れられずにいた。
そして、スターリンがシュタウフェンベルクにつかみかかった理由……
それは、ヘフテンが殺した堕天使が、スターリンの恋人だからだった。
シュタウフェンベルクにつかみかかるスターリンの手が、緩む。
彼は声を震わせて、いった。
「彼奴は、確かに堕天使だった……悪、だったかもしれない。
でも……殺すこと、なかっただろう……」
静かな、震える声で彼はそういう。
シュタウフェンベルクは何も言わずに、黙っていた。
スターリンはぐっと唇をかみしめた。
そして、掠れた声で言う。
「俺にとっては、唯一の……」
―― 唯一の居場所だったのに。
確かにフォルは良くも悪くも堕天使らしかった。
意地悪なこともしたし、酷い快楽主義者であったこともスターリンはよくわかっている。
けれど……
スターリンに対しては優しく、穏やかで……
愛おしい、唯一の居場所、かけがえのない恋人だったのだ。
だからこそ怒っている。
だからこそ……シュタウフェンベルクを憎んでいるのだった。
スターリンが再びシュタウフェンベルクの胸ぐらをつかむ手に力を込め、口を開こうとしたその刹那。
「スターリン」
そっと、スターリンの肩を誰かが掴んだ。
スターリンはその声に振り向く。
そこに立っていたのは……――
「ジェイド……」
医療部隊長である、ジェイドだった。
彼はスターリンを見つめ、ゆっくりと首を振る。
そしてシュタウフェンベルクの胸ぐらをつかむ手を解かせた。
「駄目ですよ、スターリン」
静かに諭す声。
それを聞いて顔を歪めたスターリンはシュタウフェンベルクから離れ、去っていく。
その背を見送ったシュタウフェンベルクはかくんとその場に座り込んだ。
「……っ」
「大丈夫ですか?シュタウフェンベルク」
ジェイドはそっとそんな彼の肩を支え、背をなでた。
それから、悲しげに眉をさげつつ、言った。
「スターリンも混乱しているんです……
気にしては、いけませんよ」
彼も、事情は知っている。
だから、どちらの味方となることもなかった。
シュタウフェンベルクは目を伏せた。
それから、ふっと息を吐き出す。
そして掠れた声で呟いた。
「……、なら」
「え?」
彼の呟きはジェイドには聞こえなかったらしい。
不思議そうに瞬くジェイドの翡翠の瞳……
シュタウフェンベルクはそれを見てから目を伏せた。
「責めるくらいなら……
いや、なんでもない」
ゆっくりと首を振る、シュタウフェンベルク。
一度口に出した言葉をもう一度繰り返さなかったのは、それを口に出せばジェイドに叱られることがわかり切っていたからか……
はたまたそれを望んではいけないと、彼自身が持っていたからか。
シュタウフェンベルクはゆっくりと立ち上がる。
そしてふらふらと部屋に向かってあるいていった。
ジェイドはその後ろ姿を見つめ、眉を下げる。
覚束ない彼の足取り。
悲しげな、苦しげな表情が、見えなくてもわかってしまった。
「シュタウフェンベルク……」
彼の辛さは、苦しさは、わかるとは到底言えない。
けれど少しでも、ほんの少しでも彼を慰めてやりたい……
そう思いながら、ジェイドは目を伏せていたのだった。
***
ジェイドと別れたシュタウフェンベルクはひとり、部屋に戻っていた。
それから、一人でベッドに横たわる。
「ヘフテン……」
小さく呼んだのは、愛しい恋人の名前。
自分を守るために命を散らせた、愛しい人の名前……――
―― ちょっと出かけてきますね。
最後に聞いた彼の声。
それが頭をよぎる。
にこりと微笑んで出ていった彼は、そのまま戻っては来なかった。
事情を聞いたのは、彼が戻ってこないなと思い始めた矢先。
唐突に、一緒に居た弟の姿が透け始めたからだった。
―― クラウス兄さん……?僕、どうなっちゃうの……?
怯えた表情で、彼はそういっていた。
助けて。
怖いよ。
そう呟いた彼……ペルの姿はみるみるうちに消えていって……――
彼の姿が完全に消えて、茫然としたその時。
届いたのだ。
……ヘフテンが死んだという、報告が。
森の奥。
それは黒く焼け焦げていて、周囲には漆黒の羽根が何枚も散っていた。
状況は、読めてしまった。
そして彼がどうしてそんな行動をとったかも、ある程度わかってしまって……
「どうして……」
シュタウフェンベルクはそう呟く。
その頬に、冷たい涙が伝い落ちていった……――
―― すれ違う願い ――
(私はただ、お前がいてくれればそれで良かった。
愛しいお前がいてさえくれれば、何ににでも耐えられたのに…)
(どうして、どうして…お前は、一人で…?
せめて相談してくれれば、私は…)