件のIFパロシリーズのラストのお話です。
纏めました、やや強引だけどこれ以上長引くのもあれなので←
こういうIFパロ好きです(笑)
*attention*
ヘフテンさんとフォルメインのお話です
件のIFパロシリーズ
シリアスなお話です
一応これにて完結
ヘフテンさんしか大佐殿の記憶を持たないのは辛そうだなと
それをからかいにかかるフォル
でもフォルはツメが甘いです
全てはふりだしに戻る、だと思う←
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
ヒヤリ、冷えた静かな空間。
大きなベッドと、豪華な調度品のある部屋で……堕天使は愛おしい恋人を抱いて、眠っていた。
長い浅緑の髪の少年……スターリン。
彼のことだけを愛して、慈しむ堕天使。
此処は、彼の寝室だった。
そこで、フォルは目を覚ました。
隣を見れば、すぅすぅと穏やかに寝息をたてている恋人。
その様子を見て目を細めると、フォルはこっそりとベッドを抜け出した。
そうした彼が足を向けたのは、その屋敷の地下室。
かつん、かつん、とヒールの音を立てながら下へ、下へ降りていく。
そうして辿り着いた、地下室。
そこには質素なベッドが、あった。
その上に寝かされる、隻眼の少年の姿……
それを見つめて、フォルは目を細めた。
「よく眠っているねぇ……」
そう呟きながら、フォルは彼の頬を撫でる。
ひんやり冷えた手なのに、彼……クラウスは目を開けない。
ただ一人、静かにベッドに横たわっていた。
そんな彼の髪を掬いあげて、フォルは微笑む。
そして、歌うような声でいった。
「唯一の僕の計算違いだよ大佐殿……」
歌うような彼の声。
それに応える者はない。
それでもフォルは言葉を続けた。
「君の中の魔力はあの副官くんに干渉したことで尽きたんだろうけど……
それでも新世界に来たんだから心を閉ざすのはやめてくれると思ったんだけどなぁ……
閉ざすように仕向けたのは僕だけどね」
そういってフォルはにっこりと微笑んだ。
目を覚まさない、眠ったままのクラウス。
それは、フォルにとって唯一の誤算だった。
起きていてほしいと思っていたのだけれど……
その願いを彼は叶えることをしなかった。
眠り続ける彼。
それは、永久の深い深い眠り……――
ふ、とフォルは息を吐き出す。
そして、肩を竦めながら言った。
「まあ生きる気力も失ってたときに僕に力も奪われて起きていられたら尊敬するけどね」
こうなるのも致し方ないか。
フォルはそういいながら一度クラウスから離れた。
窓のない地下室。
そこに寝かされた彼は目覚めることもないけれど、フォルはまるで人形に話しかけるように言う。
「にしても素晴らしい魔力だね、破魔の魔力は……
魔を滅するだけじゃない、本当に神のような力だ」
うっとりとそう言うフォル。
彼の魔力を用いて作り上げたこの世界。
それは彼にとってはカンペキで、美しく、最高の世界だった。
愛おしい人間を傍に置いて、従わせたい人間を従わせて、邪魔な人間は排除した。
そうして、過ごしやすい世界を作り上げ、彼は手に入れた能力を使って、遊んでいる。
「どうせだから、君にも見てほしかったなぁ……」
歌うようにフォルは言う。
そして目を細めつつ、月があるであろう上の方を見上げた。
「君は、何を思うだろうね?」
―― 君を想い涙する"最後の人間"になったあの子の姿を見たら。
そういって微笑むと、フォルは地下室を出ていく。
そこに眠る祓魔師を置いて……――
***
一方。
金髪の少年……ヘフテンは空を見上げていた。
綺麗な月。
それを一緒に見上げる人間は、居ない。
そして彼が考えていることを共有できる人間も、もういない。
「どうして、みんな大佐のことを忘れているんだろう」
途中まで覚えていたのに。
大切な、仲間だったはずなのに。
……それなのに、一体どうして。
ヘフテンはそう呟いて唇をかみしめた。
握りしめた拳が小さく震える。
彼は掠れた声で小さく呟いた。
「もしかして……」
―― 今が"現実"?
それは恐ろしい仮定だった。
もしかして今生きているこの世界が全て現実で、自分の頭の中にある彼……クラウスと過ごしたあの時間こそが偽物?
自分が作り上げた、幻想なのではないか?
そう、不安になる。
涙があふれて、零れた。
しかしヘフテンはそれを否定するように慌てて首を振る。
そして、強い声を努めて出しながら、いった。
「でも、こんな世界おかしい……
悪が崇められ、正義が排除される……こんなの絶対に、おかしい」
「何がどうおかしいんだい?」
ヘフテンの声に重なった、もう一つの声。
それにヘフテンははっとして顔を上げる。
そんな彼の視線の先には、亜麻色の髪の堕天使の姿があって……
「お前……っ」
「ふふ、苦しんでるみたいだね?」
歌うように言うフォル。
ヘフテンはそれを見て険しい表情を浮かべた。
そして武器をフォルに向ける。
今まで堪えてきた感情が、溢れた。
「神の眷属である祓魔師を蹂躙したお前に、神の代行者として統治する権限があると思っているのか!?」
そう叫ぶように言うヘフテン。
しかしフォルは一切動じることなく、言った。
「そうだね、聖なるものを踏み躙ったのは認めるよ……
でも今更だろう?僕は、堕天使だよ」
僕らしく生きているだけさ。
そういってフォルは楽しそうに笑った。
ヘフテンはそんな彼を睨みつけて、叫ぶ。
「そうだお前は魔なる物で本来なら排除されるべき存在のはずなのに……!」
そういって手を震わせるヘフテン。
彼の様子を見て、フォルは冷たい表情を浮かべながら、いった。
「この世界でいくら君がそう吠えたところで誰も信じない、この世界の秩序では堕天使こそが至高存在なんだから」
その秩序の中では、君の声は無力だ。
僕が絶対なのだから。
そういってフォルは笑った。
ヘフテンは彼の言葉に顔を歪める。
そして俯くと、彼は掠れた声で言った。
「っ、どうして僕だけが……?
どうして、僕しか大佐を覚えていないの……」
独り言のような、その声。
それを聞いてフォルは楽しそうに笑いながら、いった。
「それが彼の願いだからさ。
僕が叶えたんだよ……叶えるお手伝いをしてあげた、っていうのが正解かな?」
そういう彼の声に、ヘフテンは顔を上げる。
フォルはそんな彼を見てサファイアの瞳を細めつつ、言った。
「君にだけは、自分のことを覚えていてほしいって。
全ての人に忘れ去られる、っていうのはやっぱり耐え難いことだったみたいだね」
そこでフォルは一度言葉を切る。
そして猫のようににんまりと目を細めつつ、言った。
「でも……――
それは結果的に君を苦しめているみたいだけれど」
君は、彼を覚えている。
君だけがそれを覚えている。
そのことに君は苦しんでいるみたいだね。
歌うようにそういう彼の声。
それにヘフテンは顔を歪める。
フォルは彼の様子に愉快そうに嗤うと、言った。
「忘れたい?
忘れたいに決まっているよね?
でも、君が忘れてしまうということは要するに……
彼を覚えている人間が全ていなくなるということだよ」
「っ……」
彼の言葉にヘフテンは顔を顰める。
フォルはそんな彼を診て追いつめるように、言った。
「彼がこの世界のためにしたことも。
彼がいたというその記憶さえ、誰も持たなくなる。
……ま、そのことを彼が知ることはないんだから、忘れたいというなら手伝ってあげるよ」
どうする?
そういって首を傾げるフォル。
自分を見透かすようなその声にヘフテンは鋭い表情うかべて、いった。
「っ、誰が、お前なんかに頼るか……っ」
彼の反応に、フォルは目を細める。
そして小さく首を傾げながら、いった。
「ふふふ、そう?
でも……随分と泣き出しそうな顔をしているねぇ?」
「っ煩い!」
ヘフテンはそう叫ぶと同時、手にしていた小銃の引き金を引いた。
フォルは驚いて飛び退く。
そんな彼を睨みつけながら、ヘフテンはいった。
「……っ絶対に、許さない、こんな世界。
貴方のためなら、僕は何だってしてみせます」
―― 大佐。
「貴方が守ろうとしたこの世界を、あの堕天使の好きになんてさせません……!」
そういい、彼は再び魔力を込める。
フォルは彼の様子を見て、笑った。
「へぇ、僕に勝てると思うんだ?
どうぞ、やれるものなら」
からかうように、完全になめた態度を見せる彼。
ヘフテンはそれを見てすっと目を細めた。
体に満ちる、魔力。
暖かなそれが自分のものではないことにすぐに気づいた。
……愛しい彼のものだということも。
―― 力を貸してください、大佐。
そう思いながら、ヘフテンはフォルに向かって強い魔力を放った。
完全に油断していたフォルはそれをもろに食らう。
躱し損ねて魔力を……"破魔の魔力"を受けたフォルはその場に膝を折った。
そして、動揺を表情に滲ませ、掠れた声を上げた。
「っ、何だ、君こんな特殊な戦い方なんて出来た……?」
膝をつく堕天使に手を向けて、ヘフテンはいう。
「……大佐に、貰った力ですよ。
大佐が、僕に記憶と一緒に残してくれたもの……」
そういいながら、ヘフテンは自分の体に分け与えられた魔力を、込める。
そして、ぎゅっと拳を握りながら、いった。
「これで、終わりですよ」
―― かえってきて。
「今度は……間違わないから……」
この世界を終わらせる。
そして、創りかえるんだ。
貴方が、居る世界を取り戻す。
だから、どうかお願い。
僕の傍に戻ってきて。
そう願いながら、ヘフテンは魔力を放つ。
愛しい人に分け与えられた魔力を正しく使うために……――
―― 託されしもの ――
(愛しい人に託された、ごく僅かなその力。
ねぇ、僕にも出来るでしょうか、愛しい貴方を救うことが"今度こそ")
(今度は間違わない、今度こそ貴方を守って見せる。
だから、お願い、どうか、どうか…)