「大分あったかくなってきたねぇ……」
穏やかな陽射しが降り注ぐ中、歩いていく四つの影。
それは、親しげな兄弟の影。
今日は天気も良いからと、ベルトルト、アレクサンダー、クラウス、ペルの四人で遊びに出かけていたのだった。
今日は陽射しも暖かく、風も弱い。
すっかり春の兆しだ。
そうはいっても時折気温が下がることもあるために気を付けていなくてはいけないのだけれど……
「はい、おうちに到着ー!」
長兄、ベルトルトがドアを開ける。
ほかの兄弟も部屋の中に入って一息、だ。
「ペル、ちゃんと手を洗うんだぞー」
「うん」
クラウスの言葉にペルは素直に頷いて、手を洗いに行く。
そんな弟を見てクラウスは目を細めた。
素直な弟。
彼がこの家にいるのが当たりまえになってから、どれくらい時間が経つだろう?
そう思いながら。
「あ……」
手を洗って戻ってきたペルが視線をテレビに向ける。
適当につけていたテレビ。
流れているCMに視線がいったようだった。
そんな彼の様子に気づいて、アレクサンダーは首を傾げる。
「ペル?どうした?」
そう問いかける声にペルは顔を上げる。
そしてテレビの画面を指さして、言った。
「これ……おいしそうだな、って」
そう思って、とペルはいう。
どうやら、ファミリーレストランのCMだった様子。
アレクサンダーはそれを見て瞬きをした。
「へぇ……レストラン、か?」
「うん、小さいころ、に……行ったこと、ある」
そういうペルは何処か懐かしそうな顔をしている。
そっか、と笑いながら、アレクサンダーはほかの兄弟の方を見る。
「なぁ、ベルトルト、クラウス……」
そう声をかけるアレクサンダー。
しかし彼は小さく溜息を吐き出した。
「おい……」
彼の視線の先でじゃれあっているクラウスとベルトルト。
クラウスはベルトルトの頭を撫でて何か言っている。
「クラウスー、今日の夕飯はどうしよっかぁ……」
「まだ考えてなかったのか、ベルトルト兄さん……」
やれやれ、と溜息を吐き出すクラウス。
そんな彼を見て、ベルトルトは笑う。
「さっき買い物行った時に考えたんだけど、ちょっと思いつかなくてねぇ……
久しぶりに外食も良いかなぁって思ったんだけどさー」
何処がいいかなぁ、といいながらベルトルトはクラウスの頭を撫でる。
「クラウスー、何が良いと思うー?」
「頭を撫でることはないだろう、兄さん……」
少し困ったような顔をしつつも抜け出そうとはしないクラウス。
ベルトルトはそれを良いことに彼の頭をなで続けている。
アレクサンダーはそんな彼の顔を見て、小さく息を吐き出す。
それから、軽く唇を尖らせた。
何となく、いつも兄弟の中で一人置いていかれている気がする。
否、そんなことないといわれたらそれまでなのだけれど……
史実でも、アレクサンダーだけ置いてきぼりになっているのはいつものことなのだ。
「?アレクサンダー兄さん?」
ペルは小さく首を傾げる。
ベルトルトとクラウスがあの調子なのはいつものことだ。
だからこそ、兄たちのやり取りは別段何も思ってはいないのだろう。
アレクサンダーはそんなペルを見て目を細める。
それから小さく息を吐き出すと、ぎゅっとペルを抱きしめた。
「ほえ……?」
「じゃあ俺はペルと仲良くするもんねー!」
そういいながらアレクサンダーはペルの頭を撫でる。
ペルは唐突な兄の行動に少し驚いた顔をした。
こうして兄に撫でられるのは決して嫌なことではないのだが、唐突過ぎて少し驚いている様子だった。
「?アレクサンダー兄さん?」
どうしたの?ときょとんとした顔をするペル。
アレクサンダーはそんな彼を見て楽しそうに笑う。
そして彼の頭を優しく撫でてやりながら、言った。
「ペルは本当に可愛いなぁ」
アレクサンダーはそういいつつ、ペルの頬を撫でる。
ペルはそんな彼を見てきょとんとしたように瞬きをする。
それから、少し嬉しそうに照れくさそうに笑って、目を細めた。
そのまま、アレクサンダーに懐くように頬をすり寄せる。
そんな風にアレクサンダーがペルを可愛がっていると……
「アレクサンダー兄さん!」
少し怒ったようなクラウスの声が聞こえた。
それを聞いてアレクサンダーは顔を上げる。
その視線の先には、むすっとした様子のクラウスが立っていた。
アレクサンダーはそれを見て小さく首を傾げる。
「どうした?クラウス」
そう問いかけるアレクサンダー。
ペルはそんなクラウスとアレクサンダーの様子を見ている。
クラウスはペルを見つめた。
それからアレクサンダーの方へ歩み寄る。
そして、ペルを抱き取るように死ながら、言った。
「ペルが一番なついているのは一番最初に知りあって、年も近い私のはずだ!」
そう抗議する彼。
ペルは少し驚いたように瞬きをしている。
「クラウス兄さん……?」
「ペルは俺たち皆の兄弟だろ?」
そういって笑うアレクサンダー。
クラウスはそんな彼の言葉に少しむくれたように唇を尖らせる。
そして抱き寄せたペルの体をぎゅうっと抱きしめてやる。
「わ……」
ペルはぱちぱちと黒い瞳を瞬かせた。
そして、クラウスとアレクサンダーとを交互に見る。
「それでもペルが一番なついているのは私だ!」
そういってむくれるクラウス。
ペルはそういう彼を見て、少し照れくさそうにはにかんだ。
そして、クラウスを見ながら、言う。
「クラウス兄さん好き、だよ?
僕を、見つけて、拾って、くれた……嬉しい」
そういって笑うペル。
クラウスはどうだ、といわんばかりの表情でアレクサンダーに言う。
最初は冗談のつもりでもあったのだけれど……
そうされてしまうと、アレクサンダーも面白くない。
「ペルまで取るなよクラウス!
今まで兄弟の中で一人きりだった俺の希望の光だぞ!」
そんなことを言い出すアレクサンダー。
ペルはそんな彼の言葉に一層きょとんとする。
「きぼー?」
「そんなことを言ってペルを困らせるなアレクサンダー兄さん」
そういってむくれるクラウス。
アレクサンダーもペルをとろうとするが、クラウスが離そうとしない。
「うー?
僕は、クラウス兄さんも、アレクサンダー兄さんも好き、だよ?」
そういって首を傾げるペル。
アレクサンダーとクラウスはそんな彼の言葉に幾度か瞬きをした後、小さく笑った。
「そうだな」
「ほんとペルは良い子だなぁ」
そんなやり取りをしている三人。
少し拗ねたような顔をしたベルトルトが近づいていく。
「ペル、僕は?」
そう問いかける長兄。
ペルはそれを見てにこ、とはにかんだように笑うと、彼に言った。
「ベルトルト兄さんも勿論、好き、だよ」
そういう彼に、ベルトルトは嬉しそうな顔をする。
ほんとに良い子ー、と笑う彼ら。
三人に抱きしめられて、ペルは少し困ったような、でも嬉しそうな顔をしている。
「みんな、大好きな、僕の、兄さんたち……」
そういって笑う彼。
それを抱きしめる兄三人。
それを見つめる一つの影が、呆れたように溜息を吐き出した。
「はいはい、結局兄弟四人で仲良く夕飯食べに行くんですよね。
ほら、車の準備できましたよー」
そう声をかける、この家のお手伝い兼シュヴァイツァー。
彼はスッカリ呆れきった顔をしていた。
どうせ仲が良い癖に、と彼は呟く。
四人の兄弟は嬉しそうに笑いながら、"じゃあ行こうか"という。
やれやれ、という顔をしつつ、シュヴァイツァーは"早く準備してくださいねー"と彼らに声をかけたのだった。
―― 喧嘩するほど…? ――
(喧嘩するほど仲が良い。
そんなことは確かに良く言いますけれど…)
(これは喧嘩とは言わない気がするのですけど。
というか、この人たちが本気で喧嘩することなんてないと思うんですけど)