ペルとヘフテンさん、クヴィルンハイムさんのお話です。
あのシリーズでのお話で…
大佐殿のために動こうとする三人が書きたかった←
*attention*
ペルとヘフテンさん、クヴィルンハイムさんのお話です
シリアスなお話です
件のシリーズのお話です
シリアスなお話です
大佐殿のために動こうとするペルとヘフテンさん
それを止めようとするクヴィルンハイムさん
何だかんだ三人とも大佐殿のために動いてればいい←
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
静まり返った夜の部屋。
誰もいない、その部屋のベッドの上……
漆黒の髪の少年はひとり、銀のナイフを磨いていた。
いつもならばこの部屋にいつも一緒に居てくれる、大切な兄。
しかし今は、彼は不在。
現在は、病室にいるからだ。
どういうわけか唐突に姿を消した、大切な兄。
焦って、怖くて、必死に探して……
漸く見つけた愛しい兄は、道端にぐったりと倒れこんでいた。
すっかり衰弱しきった彼。
声をかけても弱弱しい反応しかなくて……
心配した。
彼がこのまま死んでしまうのではないかと。
彼は、もう目を覚ましてくれないのではないかと……――
病室に担ぎ込まれた彼は、医療部隊の措置によって命はとりとめた。
しかし、何やら記憶が混乱しているようで、彼はパニックを起こしたりすることがしばしばあった。
自分たちの前では平気な風に振る舞う兄。
何も心配はいらない。
大丈夫だ、と笑う愛しい兄。
けれど……
その実、その心が、体が、ボロボロであることは痛いほどよくわかっていた。
食事だって、そう。
ジェイドが食事を運んできているのは見ていたけれど、おそらくそれを食べることが出来ていないであろうことは、予測がついた。
抱き付いた時の兄の体の細さ。
元々かなり華奢な少年ではあったけれど、今はそれ以上に痩せてしまっていた。
抱き付いた時の腕に伝わってくる骨の感覚。
無理をしているのが、否が応でもわかってしまって……――
辛かった。
悲しかった。
そして何より……
「許せない……」
ペルは、そう呟く。
そして、手にしたナイフを掲げた。
月明かりに煌めく銀色。
それは、ペルが影猫という組織に所属している時からずっと所持しているものだった。
これで、幾つもの罪を犯した。
幾つもの命を奪った。
それはすべて、主人の命令によるものだった。
ペルは、体が小さく体力もないが、その分瞬発力があった。
一瞬のうちに的確に相手を仕留めることが出来た。
その能力を、あの堕天使は買っていた。
それを使って、"仕事"をさせていた。
その"仕事"をこなしたことを、今は悔やんでいるペル。
あの時ああしていなかったら今は幸せに暮らせていただろうか?
平穏な気分で過ごすことが出来ていただろうか?
そんな事を考えては落ち込んだ。
別に、自分が罪人であることが直接生活に影響を及ぼしているわけではない。
けれど、自分の気持ちに折り合いをつけることが難しかった。
こんな自分が幸福になっていいのか。
こんな自分が愛されてしまっていいのか。
愛しい兄たちの傍にいていいのか。
兄。
実際は、血の繋がった兄弟ではないけれど、彼ら……ベルトルト、アレクサンダー、そしてクラウスは、ペルを弟と呼んだ。
いとおしいと、可愛がってくれた。
その愛情が嬉しくて、兄たちのことを慈しんで……
だからこそ、不安になった。
自分が彼らの弟でいていいのか、と。
それでも彼らは良いのだといってくれた。
お前は自分たちの可愛い弟だと、そういってくれた。
その言葉が、うれしくて、幸せだった。
―― だからこそ。
許せなかった。
愛しい兄の一人、クラウスを傷つけたであろう自分の"かつての主"が。
許すつもりは、なかった。
だからこそ……
彼に与えられた力で、彼に与えられた武器を、彼に向けようと思った。
勝ち目は、ないかもしれない。
相手は、堕天使だ。
人間ですらない彼に、自分ごときが……彼に生み出された"操り人形"ごときが勝てるとは思っていない。
けれど。
勝てないからといって諦められるほど、弱い気持ちではなかった。
例え相討ちになったとしても。
ごく僅かにでも傷を負わせることが出来たら。
ペルは、そんなことを考えていた。
と、その時。
小さな、ノックの音。
それと同時に、ドアが開く。
「ペルさん?」
かけられた声。
ペルは慌ててナイフをしまおうとしたが、彼がしまうより先に部屋にやってきた人物がそれを目に止めた。
「ナイフ……?」
「ヘフテン……」
そう。
部屋にやってきたのは、大切な兄……クラウスの副官である、ヘフテン。
彼はペルの手元に光るナイフをじっと見つめていた。
それから、そっと口を開く。
「……ペルさん、"復讐"に行くつもり?」
そんな問いかけに、ペルは答えず俯いた。
事実そうなのだが、頷いたら止められる気がしたのだ。
しかし。
「僕も、一緒に行っていい?」
予想外の言葉が、投げられた。
ペルは驚いて視線を上げる。
ヘフテンは真剣な表情で、ペルを見つめていた。
緑の瞳に、怒りの炎が揺れる。
「許せない……
大佐を、あんな目に遭わせたのが……
許せるはずが、ない」
苦しむ彼の姿。
それでも彼は、いつも通りに、当たり前に振る舞い続けて。
彼をそんな状態になるまで追い詰めたのがあの堕天使なら、到底許すことは出来ないと、ヘフテンは言った。
ペルはその言葉に暫し黙り、俯く。
その視線を再び上げると、ペルは彼に問いかけた。
「死ぬかも、しれないよ。
御主人は、すごく強いから」
「知ってる」
「僕も頑張るけど、僕あまり強くないよ」
「それは僕もだから。
でも、大佐のことが大好きだって気持ちは誰にも負けない」
きっぱりとヘフテンはそういう。
ペルはそれを聞くとふ、と笑みを漏らした。
それから、月明かりに輝くナイフを服の内側にしまう。
「……行こう」
「え?」
「御主人、のところ」
ヘフテンはペルの言葉に驚いて大きく目を見開く。
それからこくり、と頷いた。
「いきましょう!」
きっぱりとそういう。
彼の瞳に、迷いはなかった。
***
二人の少年は、月明かりの下外に出る。
美しい月明かり。
それに照らされ、彼らが足を進めようとした、その時だった。
「一体何処に行くつもりですか」
後ろで聞こえた声。
二人ははっとして振り向く。
そこに立っていたのは、クラウスとヘフテンの旧友である、クヴィルンハイムだった。
怒ったような表情を、浮かべている。
「……何処にも」
「誤魔化すんじゃありません。
クラウスの、敵討ちにでも行くつもりでしょう」
そんなクヴィルンハイムの言葉にペルは眉を寄せる。
そして、強気に言った。
「僕もヘフテンも許せない。
クラウス兄さんを、傷つけた……あの人の事」
「そうですよ!」
ヘフテンもペルの言葉に同調する。
しかし、クヴィルンハイムはゆっくりと首を振って、言った。
「貴方たちでどうするというんですか。
相手は堕天使ですよ?勝てるはずがないでしょう?」
冷静に、しかしきっぱりと彼は言う。
適わない、と。
ヘフテンは彼の言葉に顔を歪めつつ、言った。
「わかってますよ!
でも、わかってる上で行きたい……
貴方は、諦めるんですか?!大佐を傷つけたあいつを許して放っておくことが出来るんですか!?」
「クラウス兄さんと友達、でしょう……それ、なのに、平気なの?」
ペルとヘフテンの問いかけ。
クヴィルンハイムはぐっとこぶしを握った。
そして、彼にしては少し珍しく、語調を荒げて言う。
「平気なはずがないでしょう!?」
クヴィルンハイムにとっても、クラウスは大切な友人。
そんな彼があんな目に遭わされて……
平気でいられずはずが、なかった。
「だったら……!」
「だからこそ、行かせるわけにはいかないんですよ!
貴方たちにもしものことがあったら、クラウスは……!」
本気で、壊れてしまう。
今だって十分危ういバランスで生きているも良い所なのに。
クヴィルンハイムはそういった。
彼を傷つけた相手が許せない。
確かにそう思うけれど……
でもだからといって、ヘフテンとペルをいかせるわけにはいかなかった。
「クラウスがこれ以上傷つくことだけは、避けたいんです。
その気持ちはわかるでしょう」
クヴィルンハイムは悲痛の表情を浮かべ、そういった。
ヘフテンも唇をかみしめて、俯く。
「わかって、ますけど……」
でも、と彼は呟く。
彼の顔にも悲痛の色が滲んでいた。
自分が、或いはペルが、死んだとしたら。
確かに、クラウスは一層苦しむだろう。
自分のために弟や副官が死んだとなったら、それこそ完全に精神が崩壊してしまうかもしれない。
けれど。
「三人なら、なんとかなるんじゃないですか!
堕天使相手にだって……僕だって、人並みには戦える。
ペルさんは少しだけど悪魔の魔力が使えるし!」
出来るんじゃないか。
彼はそういう。
クヴィルンハイムはその言葉に顔を歪める。
そして何も言わずに首を振った。
頷きたい。
自分も一緒に行くと、言ってしまいたい。
彼らと一緒に、大切な友人を傷つけられた恨みを晴らしたい。
そう思えど……
どちらが最善か。
どちらが、"彼にとって最善"なのか。
それに悩み、クヴィルンハイムは俯くことしかできなかった……――
―― 最善の道 ――
(きっと、此処で彼らを止めるのが"正解"なのだろう
けれど、自分がどうしたいかと訊ねられたら、彼らと共に武器をとることを選ぶ)
(嗚呼、どちらの道を選ぶのが最善か。
どうしたら、大切な友人のためになるのだろうか)