シュタウフェンベルク兄弟のお話です。
「理解出来ない思考」の続きな感じで…
結局お互いに離せない、はなれたくない、だったらいいなって←
*attention*
シュタウフェンベルク兄弟のお話です
「理解出来ない思考」の続きです
シリアスなお話です
ヘフテンさんもちらっと
ペルを置いてきて良かったんだと思いつつ悩む大佐殿
ペルは大佐殿が居なくなった途端に聞きわけが悪くなる気がします←おい
とりあえずお世話かけますアレクサンダーさん←
ヘフテンさんと大佐殿のやり取りも書きたかった結果
相変わらずの妄想クオリティ
ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKという方は追記からどうぞ!
ぼんやりと、庭に立ち尽くす。
長い黒髪が吹き抜ける風にゆらゆらと揺れた。
まだ冬の冷たさの残る風。
それに小さく体を震わせつつ、彼……ペルは小さく息を吐き出した。
来客を告げるチャイムが鳴る度に、彼は慌てて玄関に走っていく。
しかし、それが目的の人物でないというのがわかる度に目に見えて落胆した様子で部屋に戻る。
そんなペルを見て、アレクサンダーは心配そうな顔をしていた。
彼がクラウスに置いて行かれてから数日。
ペルはまともに食事をとろうともしなかった。
ちゃんと食べないと駄目だとたしなめても、言うことを聞かない。
飴くらいならばおとなしく口に入れてはいるのだけれど、
食事という食事をとろうとはしないのである。
無理矢理食べさせるのも諦めた。
本人が食べたいと言いもしないのに無理やり食べさせるのも気が引ける。
本人は食べなくても死なないとは言っていたし……
「まぁ、いざとなったら意地でも食べさせるけどさ……」
アレクサンダーはそう呟いた。
そして、溜め息を吐き出しながら、ペルの方へ歩み寄っていった……――
***
―― 一方。
クラウスはディアロ城でヘフテンと一緒に仕事をこなしていた。
今までと違う部屋。
黒髪の少年の姿はない。
酷く静かで、冷たい空間に感じるのは気のせいだろうか。
しかし、クラウスだって子供ではない。
流石に、仕事に影響は出ないようにしている。
だって、それが自分に出来る最大の償いだと思っていたから……
ペルを置いてきたこと。
その時の彼の表情。
それを思い出す度に胸は痛かったけれど、それだからこそ……
そうして突き放した理由を彼が理解してくれるだけの働きをするしかないと思った。
平気なふりをした。
周囲が、冷たいんじゃないかと思うくらいに。
しかしどうやら、それもヘフテンにはバレバレだったらしい。
彼は心配そうな顔をしながら、クラウスに問いかけた。
「大佐……本当に大丈夫なのですか」
そんな彼の問いかけに、クラウスは少し眉を寄せる。
そして小さく息を吐き出しながら、言った。
「私は、平気だ」
「大佐ならそういうと思ってましたけど……」
ヘフテンはそういいつつ溜め息を吐き出す。
そしてクラウスの額に手を伸ばした。
そしてそこに触れながら、言った。
「眉間に皺寄ってます。
……心配で仕方ないんでしょう」
様子を見に行くくらいはいいんじゃありませんか?
ヘフテンは上官にそう問いかける。
しかしクラウスは少し迷う表情を浮かべた後、小さく首を振った。
「いや……やめた方がいい」
会ったら、きっと覚悟が揺らぐ。
事実……
彼を、ペルを突き放して家を出た時にも、彼が追いかける前に、彼が何か言う前に、家を出た。
もしも、顔を合わせたとしたら……
恐らく、彼を手放す事は出来なかった。
泣いて縋られたら、離さない、といってしまっただろう。
そうしたら、ペルはあんな悲しげな顔をしなかっただろうか。
信じられない、と言いたげな顔をしなかっただろうか。
……あぁ。
あんな顔は、見たくなかったな。
「……大佐」
ヘフテンが静かにクラウスを呼ぶ。
クラウスはゆっくりと首を振った。
そして、ペンを握りなおした。
「休憩は終わりだ、ヘフテン。
遊んでいる場合じゃないぞ」
そういう彼の声はいつも通り。
しかし、そのいつも通りさが、痛々しい。
とはいえ、彼がそういうのに、自分はそんなことを言うわけには行かない。
ヘフテンはそう思いながら小さく息を吐き出して"わかりました"といった。
その心配そうな表情は壊さないままに。
***
そうして仕事をはじめてから、どれくらい経った頃だっただろうか。
不意に、部屋にノックもせずに彼の部下が飛び込んできた。
クラウスは驚いて"一体どうした?"と声をあげた。
「お兄様が、いらしてます、何やら、急用のようで……っ!」
そう声を上げる騎士の声は酷く焦ったもの。
クラウスの胸に、嫌な予感が込み上げる。
しかし彼は冷静に答えた。
「わかった、今行く。
ヘフテンは、作業を続けていてくれるか」
「わかりました」
小さく頷いた副官を残し、クラウスは少し急ぎ足で、兄が居る客室へ向かう。
そしてドアを軽くノックしてから、部屋に入った。
兄。
そうとしか聞いていなかったけれど、"何方"の兄とは聞いていない。
しかし、予感していた通りだった。
「アレクサンダー兄さん……」
ベルトルトほど頻繁には城に来ない、二番目の兄。
しかし今日は、おそらく彼だろうと思っていた。
「……ペルに、何か」
「良いから、一回帰ってきてくれ……
俺じゃあもうどうすればいいか、わからない」
途方に暮れたように、彼は言う。
その言葉にクラウスは瞬きをした。
「どういう、意味……」
「……魔力が、弱ってるみたいなんだ。
何とかしてやろうとしたんだけど、ペルは特殊魔力使いだろう?
だから此処までくれば何とかなると思って連れて来ようとしたんだけど……」
アレクサンダーはそういうと目を伏せる。
言葉の先を紡がない兄を見て、クラウスは少し焦った顔をしつつ、言った。
「したけど、どうしたんだ?」
「……良い、って。
クラウスと一緒に居られないなら、良いって、このままで」
―― 嗚呼、そうだった。
前から、そうだった。
前にも、そうだった。
自分と一緒に居られないのならば、もう消えても良い。
もう"独り"になりたくないから。
ペルは、そういっていたっけ。
捨てたつもりはない。
寧ろ、彼を守りたくてこうしたけれど……
その意味が、ペルに伝わるはずはなかった。
じゃあ、どうすればよかった?
説明すればよかったのか?
自分が死ぬ可能性があるからと?
自分と一緒に居たらお前が危険だからと?
そうしたら、彼は納得していただろうか?
……答えは、NOだろう。
だって、彼だから。
何があっても自分の傍に居ると、きっと彼は言った。
そうしたら、自分が彼を離す手段を思いつかない。
だから……――
「クラウスが何でペルを離したのかは、俺も良く分かってるよ。
ベルトルトも……多分、ヘフテン君も」
アレクサンダーは彼の思考を読んだように言う。
けれど、と言葉をつづけた。
「でも、ペルはわかってないよ……
クラウスが嫌いになるはずがないって俺がいっても無駄だった。
それならどうしてクラウスがきてくれないのか、ってなるばっかり。
……いきなりすぎて、頭が付いていかないよ」
あんな状態じゃあ、とアレクサンダーはいう。
クラウスはそんな兄の言葉に顔を歪めた。
そして、俯きながら掠れた声で呟く。
「……私は、一体どうしたら良い……?
兄さん、教えて……」
彼にしては珍しい、弱音。
どうしてやるのが最善なのか、まったくわからない。
どうしてやったらペルが幸せになれるのかが、わからない。
「それは、俺もわからないよ……
でも、ペルの気持ちを蔑ろにしちゃ駄目なのかもしれないな、とは思う」
クラウスが居なくなってからのペルの消沈ぶりは、
仕事で城を離れることが多かったアレクサンダーも良く見ていた。
彼が帰ってきてくれるのを待っている様子も、それが無いと悟って落ち込む様子も。
「……ペルの、気持ちか」
確かに、それは考えてやるべきだと思っている。
だとしたら……
「……一回ペルにあってやって。
そのあとでどうするのかはクラウスに任せる。
でも……そのためだったら……」
ペルが死んでしまっては意味がないだろう。
アレクサンダーはそういう。
クラウスは兄の言葉に暫し迷うように俯いた後、小さく頷いて、駈け出したのだった。
***
クラウスは急いでペルが居る城へ向かう。
そして、彼の居る部屋に飛び込んだ。
「ペル!」
ベッドに寝ているペルを呼ぶ。
しかしペルは小さく肩を揺らしただけで、顔をあげない。
ゆめだ、とでも思っているのだろうか。
そう思いつつ、クラウスはペルに歩み寄る。
そして優しく彼の頭に触れた。
「ペル……」
クラウスは彼を呼ぶ。
その声に、ペルは漸く顔をあげた。
そして目を見開く。
「シュタウフェンベルク……」
その声は酷く掠れ、震えていて、シュタウフェンベルクは顔を歪める。
彼を此処まで追い詰めてしまったのが自分だというのは痛感している。
「ごめん、ペル……
お前が嫌いで、置いていったわけじゃないんだ」
そう呟くように言うクラウスにペルはゆっくりと瞬きをする。
聞こえているのかも、よくわからない。
「……、なさい」
小さく聞こえたペルの声。
クラウスは彼の方を見る。
ペルの黒の瞳からぽろり、と涙が零れた。
「……ごめ、なさい……我儘、言わない、から……」
―― おいてかないで。
そう呟くように言うペルに、クラウスは目を見開いた。
それから、眉を寄せて、小さく息を吐き出す。
「……今更、なんだな」
クラウスはそう呟いた。
そして、目を伏せた。
今更過ぎた。
彼を突き放すには。
傷つけるだけ。
それは知っていたはずなのに。
どうしてやればいいのかわからなくて……――
ごめん。
何度もそう詫びながら、クラウスは優しくペルの頭を撫でる。
安心したように目を閉じるペル。
そっと彼の手を握ってやりながら、彼をちゃんと城に連れて行かなくては、と思うのだった……――
―― I just… ――
(私はただ、彼を守りたかっただけ。
傷つけたかったわけでも泣かせたかったわけでもないんだ)
(お願い、お願い、置いていかないで。
寂しげにそういう彼を独りにすることなんて…)