珍しくフィアとディナ陛下のSSです。
ちなみに、本編完結後。
本編でフィアが不在のあいだのお話です…
若干、雰囲気が…って感じですが、一切そういうつもりはなかったです(笑)
ともあれ、OKという方は、追記からどうぞー!
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主に創作について語ります。 バトンをやったり、 親馬鹿トークを繰り広げたりします。 苦手な方は、どうぞ戻ってやってくださいませ! (私のサイト「Pure Rain Drop」) → http://id35.fm-p.jp/198/guardian727/
珍しくフィアとディナ陛下のSSです。
ちなみに、本編完結後。
本編でフィアが不在のあいだのお話です…
若干、雰囲気が…って感じですが、一切そういうつもりはなかったです(笑)
ともあれ、OKという方は、追記からどうぞー!
静かな廊下を歩く、ブーツの足音。
広く長いそこには美しい絵画や美術品。
亜麻色の髪の騎士はある部屋の前に立った。
腰に携えた剣を整え、一つ息を吸ってから、ドアをノックする。
「陛下、フィアです」
「来たのね。入って頂戴?」
室内から声が返ってくると、"失礼いたします"と声をかけてから、フィアは室内に入った。
照明の色合い故か、室内は穏やかな光に満ちている。
その雰囲気はきっと照明のためだけでなく、部屋の主からも発されているのだろう。
フィアはぼんやりとそう考えた。
「フィア?」
どうしたの、と笑い声。フィアははっとしてからそちらに視線を向けた。
くすくす、と笑っている女性。基、この部屋の主。
フィアは彼女の足元に跪いて、手の甲に口づけた。
「遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。陛下」
「いいのよ。任務、お疲れ様」
"御苦労様"と言わないあたり、他の貴族や王族とは違うのだろう。
家臣にあたる騎士のことを酷く扱う王族や貴族はいくらでもいるが、
フィアの前にいる彼女は、違う。
優しく、穏やか。
どちらかといえば王族というより、気さくな街娘、といった雰囲気でもあるのに、
何処か威厳を持った強い光を宿す瞳。
そして、正義感と国民愛に満ちた心……
自分が仕えるべき人間がこういった人でよかった、とフィアは思う。
そして、自身の主……ディナに微笑みを向けてから、訊ねた。
「それで……俺に、何か御用が?」
そう、フィアは他でもない彼女……ディナに呼びつけられたのだ。
―― 任務が終わったら、私の部屋に来てくれる?
朝、シストと任務に向かう直前、
騎士の棟にやってきた彼女にそう言われて驚いたのは、フィアだけではないだろう。
傍に居たシストはもちろん、
任務に向かう二人を見送りに来ていたアルも不思議そうに
フィアとディナを交互に見つめていた。
ディナはフィアの問いかけに小さく笑って、首を振った。
「ふふ。用事というほどの用事ではないのだけれど……
フィアと久しぶりに話をしたくてね」
「俺と、ですか?」
「えぇ。"貴女"と」
ディナはにこり、と笑ってフィアに椅子を勧め、自分もその向かいの椅子に座る。
王女の真意が理解できないまま、フィアは勧められた椅子に座った。
蒼い瞳をディナに向ける。
ディナはそっと微笑んでから、ポツリと言った。
「ふとね、思い出したのよ。貴女を、この城の裏門で見つけた時のことを」
その言葉を聞き、フィアは苦笑して首を振った。
「その時のことは、忘れていただきたいものです」
「あらあら。どうして?」
「騎士として、従者として……仕えるべき貴女に拾われ、介抱されたという過去は、
願わくば、消し去りたいものです」
「ふふ。気にすることないのに。
貴方は立派な騎士として職務を果たし、その結果ああなったのだから」
ディナは微笑んで、ゆっくりと目を閉じた。
その時のことを、思い出す様に。
***
―― フィアが姿を消して暫くした頃。
少しずつ、騎士団が平穏を取り戻しつつあった、ある日のことだった。
ディナはこっそりと部屋を抜け出した。
もともと、室内に籠るのが好きではない彼女は、以前から度々同じことをしていた。
騎士に見つかれば叱られるのだが、それさえも何だか嬉しくて。
「ルカの様子を、見に行こうかしら」
独り言を言って、微笑む。
大切な従妹を失い、酷く落ち込んでいた黒髪赤い瞳の統率官を、
どうにか励ましてやりたいと思って。
彼女の"脱走ルート"は決まっていた。
部屋の窓から外に出て、噴水の裏を抜けて、城の裏門へ。
そこには当番兵もいない。
セキュリティ的には一見穴があるように思われるが、
侵入者を阻むよう、強い魔術がかけてある。
しかし、拘束・催眠といった魔術が得意なディナのとってそれを解くのは割と容易だった。
そう、その日もいつものように部屋を抜け出して、いつものように裏門に向かっていた。
しかし、いつもと違っていたのは……門の傍に、影があったこと。
「あら……?」
少し離れたところで気づいたディナは、立ち止まる。
魔獣だろうか。それとも、人間?
どうしよう、そう思ったけれど、その影はピクリとも動かない。
そして、それはどうやら、人間のようで……
「誰?」
ディナは恐る恐るそれに近づいた。
声をかけても、ピクリとも動かない、人影。
近づいていくにつれて、それが誰なのか、ディナにもわかった。
しかし、それは信じられない事態で。
「フィア……?」
そこに倒れていたのは、小柄な騎士だった。
亜麻色の柔らかい髪。白い騎士服。
見覚えがある。しかし、今此処にいるはずのない人間の姿に、ディナは息を飲んだ。
完全に意識を失っている様子だが、、それは確かに彼……否、"彼女"だった。
「嘘、フィア?でも、一体何故……?」
その体を抱き上げ、ディナは小さく呟いた。
自分より少し体が大きいフィアを抱き上げるのは大変だったが、不可能なことではない。
―― フィア、よね……でも、どうして?もしかして、別人なの……?
そんな思いのまま、元来た道を戻る。
本当は、騎士たちに知らせるべきだと解っていた。
怪我をしているようだし、
何より彼女が無事であったと知ったなら、彼らはきっと喜ぶだろう。
でも……
―― もし、違ったら?
考えづらいことだけれど、もし、別人だったら。
自分が見ている幻覚だったら。
否、それ以上に……もし、このままフィアが死んでしまったら。
彼らを、騎士たちをぬか喜びさせてしまうことになりかねない。
だから、だろうか。
ディナは、そのままフィアを抱いて自室に戻った。
幸い、それまでの道に騎士たちに見つかることはなく、
自室のベッドにフィアの身体を寝かせる。
汚れた服を脱がせ、楽な服装にしてやった。
軽く見たところそこまで深い傷はなさそうだ。
少しほっとして、息を吐く。
軽い手当ならば、ディナでもできた。
「……目を覚ますまで、此処に……」
置いておこう。そう思った。
目を覚ましたら、その時に事情を聴けばよい、と……
***
「……ん」
フィアが目をあけたのは、ディナに拾われてから数時間後のこと。
開いたサファイアの瞳に映ったのは、白い天蓋だった。
「此処、は……?」
小さく呟く声に、横で本を読んでいたディナも気が付いた。
そっと、脇に置いてあった短剣を手に取り、体を起こしたフィアにつきつける。
「わ?!へ、陛下……っ」
「貴方の名を名乗りなさい」
「え、ふぃ、フィア。フィア・オーフェスです」
「私の名を述べよ」
「ディナ・ローディナス様」
「貴方の従兄の名前は?」
「ルカ・ラフォルナ……」
困惑するフィアに剣を突きつけたまま、ディナは質問を重ねる。
フィアはそんな彼女に驚きつつも、質問に答えていった。
「じゃあ、貴方の従兄の魔術属性は?」
「え、奴はほとんど魔力を持っていません。
奴は、ルカは、微弱な、氷属性魔力を有している程度で……」
「……私は、一人っ子よね?」
「え?」
「そうでしょう?」
真っ直ぐにフィアを見つめ、ディナは問いかける。
赤と緑の瞳を見つめ返してから、フィアはゆっくり首を振った。
「いいえ。陛下には、双子の姉君がいらっしゃいました。
名は、ディアノ・ローディナス様」
「……本当に、フィアなの?」
ディナは、剣を下す。
フィアは、ふぅっと息を吐いてから、頷いた。
「えぇ……陛下、俺は何故……――っ?!」
言葉の先は、紡げなかった。
ディナが、フィアにしっかりと抱きついていたから。
「よかった……本当に、フィアなのね」
「え、えぇ……」
「皆、心配していたわ」
「そう、ですか……」
ディナの言葉に、少し寂しげな顔をするフィア。
ディナは幾度か瞬きをした。
「どうしてそんな顔をするの?」
「……俺は、もう皆に合わせる顔が、ないですから」
フィアの言葉にディナは目を見開く。
そして、首を振った。
「いいえ、許さないわ。貴方が、彼らに会わないなんて……私、皆を呼んでくる」
「陛下ッ!」
立ち上がったディナをフィアが強い口調で止めた。
女性至上主義のフィアが女性に対して向けるにしては強い強い、声で。
ディナは思わず立ち止まり、振り向いた。
フィアはゆっくりと首を振る。"お待ちください"と今度は静かな声で、諌める。
「解りました。会わない、という選択肢はすぐに選ばないことにします。
しかし……どうぞ、俺の覚悟が決まるまで、お待ちください。
さすがに、すぐに彼らに会いに行って笑えるほど、俺は……」
「そう。それなら、いいのよ」
解ったわ、と言ってディナはフィアの傍に戻る。
フィアはほっとしたように微笑んでから、立ち上がろうとした。
「え?フィア、何処に行くの?」
「まさか、ディナ陛下のお部屋にいつまでも居座るわけにはいきませんから」
「何処に行くつもりなの?騎士の棟にも、戻れないでしょう」
「……城下町の、宿屋にでも泊まります」
フィアの返答に、ディナは首を振った。
駄目よ、と言ってフィアの手を握る。
「そうするというなら、今すぐルカたちを呼んでくるわ」
「え?」
「私の部屋に居なさい」
これは命令です、とディナは言う。
フィアは幾度か瞬きをしたあと……フッと笑った。
「狡いですね、陛下。俺は貴女の命令に背けないことをご存知でしょう」
「ふふ。ごめんなさいね。でも……」
「分かり、ました。しかし、絶対に彼らには、俺のことを伝えないでください。
いくらたっても覚悟がつかなかったら……俺は、この国を出ていきます。
彼らには、死んだものと思ったままでいて欲しい」
―― その時は、どうぞ、引き止めないでくださいませ。
そう言って、フィアは真っ直ぐに王女の瞳を見据えた。
ディナは、折れるしかなかった。
ただ、祈った。
フィアが、"仲間に会いたい"と願う日が来ることを……
***
ふっと、目をあけて、ディナはフィアの方を見た。
前の椅子に腰かけたフィアは相変わらず凛々しい表情でディナを見つめていた。
ディナはそんな"彼"に、悪戯っぽく笑って告げる。
「あの時、貴方の身体を見るまで信じきれなかったわ。貴方が、女の子だということ」
「そうですか?それは、嬉しいです」
フィアの返答は予想にはずれたもの。
ディナは驚いたように瞬きをして、訊ねた。
「あら、悲しくないの?」
「俺は、昔から男として育ってきた身です。男とみられて、嬉しくないはずがない。
それに、男として生きてきたからこそ、陛下をお守りする騎士になれたのですから」
そういって、フィアは微笑んで見せた。
ディナは"相変わらずね"と言ってフィアの髪に触れる。
―― 嗚呼、強い娘(こ)。
見ていて、わかる。
フィアの覚悟も、強さも、優しさも。
そして、フィアの瞳に灯る優しく強い光が、
ディナの姉のそれに、重なって見えた気がして……
しばし王女を見つめていたフィアは、はっとした。
「……陛下?」
「いいえ、なんでもないのよ……」
「でも、何故……――」
―― 泣いておられるのですか?
そう、フィアの言葉通り、ディナの左右で色の違う瞳からは綺麗な涙が零れ落ちていた。
ディナはゆっくりと首を振って、微笑む。
そのまま、フィアの方へ歩み寄って、後ろから抱きしめる。
「悲しくて泣いているのではないのよ。嬉しくて、泣いているの。
貴方のように素敵な子が、死なないでよかった」
「ありがとう、ございます」
ディナの手に触れて、フィアは礼を言った。
主に思われる家臣。
仕えるべき王女に生きていることを感謝される騎士。
これほどまでに、幸福な主従関係はないだろう。
フィアは穏やかに微笑んで、静かに目を閉じた。
―― Princess and Knight ――
(これからも貴女を守るための騎士として働かせてください)