ナハトさん宅のお子様がたを借りてSSをば。
本当はカナリスさんも絡ませていただきたかったんですが、
結局ワルキューレ組のお二人だけになってしまった…残念(おい)
*attention*
・ワルキューレ組のお二人のSS
・戦闘ネタ?のつもりです
・お互いを守り合いながら戦ってる姿が好きで…
・失いたくないから守り合う、みたいな図が好きです(こら)
・相変わらず妄想クオリティ
・ナハトさん、本当にすみませんでした…!
以上がOKと言う方は追記からどうぞ!
―― 辺りに立ち込める、煙と熱気。
ただでさえ暑いのに、自分たちの魔力の所為で余計に上がった気温。
そんな空間の中で、ふう、と息を吐きつつ、
隻眼の騎士……シュタウフェンベルクは左腕で軽く額の汗を拭った。
片方の目で周りを見ている彼にとって、
残った方の目が見えなくなることほど危険はない。
目が見えなくなれば、攻撃を躱せない。
否、感覚である程度はどうにかなるかもしれないが、
何をどう考えても極度に不利になることはまず間違いがないだろう。
汗だって、その大敵であった。
目に入れば暫くは視界がなくなるも同じ。
「大丈夫ですか、大佐?」
隣で戦う副官……ヘフテンが声をかける。
彼も武器である爆弾を放りつつ、時折汗を拭っていた。
シュタウフェンベルクは頷くと、まだまだ数が多い魔獣たちに視線をむけた。
「私は大丈夫だ。
……あと少し。集中を切らすな、ヘフテン」
「はい」
こくっと頷いて、ヘフテンは再び戦闘に集中する。
飛びかかって来た魔獣に的確に爆弾をぶつけ、討伐する。
それが間に合わない時には闘牛士よろしくその攻撃を軽く躱した。
シュタウフェンベルクは森に火が燃え移らないように注意しつつ、魔術を放つ。
豪快でありながら、繊細な調整。
勢いよくやっているようで案外神経を使う作業だ。
炎を扱うがゆえの、悩みであった。
氷や水といった、自然と解ける魔術ならば問題はない。
水は大地に染み込み、氷は溶ければ水になる。
しかし、彼らが使う炎属性魔術は違う。
火はつけば燃え上がる。
殊更、今彼らがいる場所……森のような場所では危険だ。
魔獣を討伐するのが任務とはいっても、生態系を崩してはいけない。
それは騎士としての鉄則だった。
ただ単に有害な魔獣を消せば良いだけならば、
その魔獣が住んでいる森ごと焼き払ってしまえば良いのだから。
まさか、そんなことをするわけにはいかない。
そうして二人で任務である魔獣討伐を行っていた時だった。
「!」
ある一瞬。
シュタウフェンベルクはハッとした。
―― 自分の横で感じた、殺気。
正面と自分の死角側の魔獣にばかり目が行っていて、
反対側からかかってくる魔獣に注意が行っていなかった。
シュタウフェンベルクが回避の構えをとりかけると同時、そちらが爆発した。
無論、誰のおかげかはわかっている。
シュタウフェンベルクは自分の横を守っている彼を見て、礼を言った。
「ヘフテン、済まない!」
「任せてください、大佐!」
"貴方に出来ないことは僕がしますから!"そう言って、頼もしく笑うヘフテン。
いつもの人懐っこさにプラスされたその頼もしさに、
ほんの一瞬シュタウフェンベルクの表情は緩む。
自分の横で戦う副官の、真剣そのものな表情。
大切な人を傷つけまいとするその構え。
こうも優秀で自分を思ってくれる"相棒"はそう出来る物ではないだろう。
そんなことを思いながら。
と、今度はシュタウフェンベルクが素早く動いた。
彼の方から見えた、ヘフテンに飛びかかろうとした影。
低い唸りに、彼は気づいていないのだろう。
―― 全く、つめが甘いな。
ヘフテンは強い。
頭も良いし、明るく元気が良いわりに冷静だ。
しかし、時々こうしてつめが甘いところがある。
それが命取りになるのではないかと不安だが……問題はない。
―― 彼が言ったのと、同じ想いをシュタウフェンベルクも抱いている。
彼が自分を守ってくれるように、自分も彼を守ると。
それが副官と上官と言うものだろうと、そう思っていた。
そんなわけでシュタウフェンベルクは小さく息を吐くと、
ヘフテンに飛びかかろうとした魔獣に炎を放った。
悲鳴じみた声を上げて魔獣が落ちて初めて、ヘフテンは驚いた顔をする。
やはり、気づいていなかったらしい。
シュタウフェンベルクは彼を叱咤する。
「油断するな、私の方ばかりでなく自分の方にも気を使え!」
「わ、わかりました!」
"済みません!"と声を上げて、ヘフテンは一層広い範囲へ視線を向ける。
忠告を与え、より良い戦いが出来るように指導する。
それも、上官としての勤めだ。
大切な相棒が傷を負わないように。
大切な相棒を失わないように。
彼らが戦う理由は、無論そこにもある。
強くなければ生き残れないのが"騎士"と言う仕事。
失う辛さは、嫌と言う程よく知っている。
シュタウフェンベルクはあまり使わないマスケットをきつく握り締めつつ、
自分の魔術を使って、魔獣の群れをなぎ倒していった……
***
それから、数分後。
「これで全部、ですかね」
ヘフテンは少し上がった息を整えて、辺りを見渡した。
魔獣の気配はない。
足元に落ちた骸はしっかりと再び攻撃を加えて、
万が一にも生きている、なんて事態が発生しないようにしてある。
シュタウフェンベルクもあたりに視線を巡らせて、頷いた。
「あぁ、終わりのようだな」
「はぁ……多かったですねぇ」
"お疲れ様でした"とそう言って笑うヘフテンはいつもの明るさを灯している。
疲れより何より、無事に終わって良かったと言う思いだろう。
と、彼は"あ"と声をあげた。
シュタウフェンベルクが不思議そうな顔をする間に、
ヘフテンはすっと手を伸ばして、シュタウフェンベルクの頬を軽く拭った。
「汚れてました。多分、僕の攻撃で起きた土埃の所為ですね」
"すみません"と済まなそうに言うヘフテンに首を振って見せてから、
シュタウフェンベルクも左腕を伸ばして、ヘフテンの頬を拭う。
「お前の頬も汚れていた」
「アハハ、ありがとうございます」
少し照れくさそうに、そして嬉しそうにヘフテンは礼を言う。
未だあたりにはやや焦げ臭い煙が漂っているが、
どうにか大きく森を焼くようなことにはならずに済んだようだ。
安堵の息を漏らし、"帰りましょうか"とヘフテンは言う。
二人はそのまま歩いて森を抜けた。
隣を歩く、互の足音。
靴が踏む枯葉の音が心地良い。
一緒にいる。
隣にいる。
その存在を感じられることが如何に尊いことか……二人は、理解している。
無意識に二人は顔を見合わせ、微笑みあった。
―― 失いたくないから。 ――
(だから僕(私)は貴方(お前)を守ろうと思うんだ)
(こうして任務を終えた時に笑い合える存在が愛しいから)
2013-7-29 22:47