prof:bkm:
30代/二次元/メンタル/お洒落
前記事のその後
12:36 2015/8/18
話題:恋愛

前回の記事の続き。顧問の先生に本気のお説教を受けたわたしは今度OBの先輩が部活に顔を出したらきちんと謝ろうと決意しました。数日が過ぎ、稽古場の片隅で通し稽古を見ていると、ついに先輩が現れてわたしの隣に座りました。暫くお互いに正面を向き合ったまま時間が流れました。すると不意に先輩が「儲かりまっか?」と芝居がかった関西弁で話しかけてきたのです。わたしは訳が分からぬまま「ぼ、ぼちぼちでんな……」と答えました。「ほな、行きまひょか」先輩がおもむろに腰を上げ、稽古場の外にある小さな控え室の方を指さしました。

演劇部は部員数がギリギリで役者が裏方も掛け持ちしていたので、わたしも大道具やら音響やら緞帳の開け閉めやら色々と細々した事を担当していました。化粧もその内のひとつです。控え室に入った後、先輩の顔をつかって舞台用のファンデーションを塗る練習をする事になりました。はじめて触る先輩の顎は髭が伸び始めていて男の人だと感じずにはいられませんでしたが、不思議とこの時は恐怖心を抱かずに済みました。目を閉じたまま先輩が言います。「僕、最近若い女の子と話すのが怖くて……」「はぁ」わたしは何と答えていいのか分からず相づちを打ちました。「16とか17くらいの女の子がですね、わたしに話しかけるなアピールしてくるんですよね」「はい」「だから話したくても自分から行けないんですよね」「はい」「どうしたらいいんですかね」生唾を飲み込み「それってもしかしてわたしの事ですか?」と尋ね返すと今度はあちらが「はい」という返答。「うえええええ」わたしは緊張の糸がぷつりと切れて泣きじゃくりました。そしてどうしてあの時無視をしてしまったのか、自分が学校生活でどんな立場にあるのか、初めて打ち明けました。先輩はわたしがいじめにあっている事は、制服の汚れや包帯を巻くような怪我の多さから察していたようです。ただわたしが「学校はとっても楽しいです」と嘘を付くので、それ以上何も言えずにずっと知らないフリをしていたとの事でした。

命の危険感じてまで無理して学校に行く事ない。君だったら自宅で勉強するだけでも進学できると思う。だから正直今すぐにでも逃げてほしいけど、もうすぐ演劇の大会があるから役者として裏方としてその責任は果たさないと駄目だよね。といった話をされたところでコンコンとドアが鳴り、この日の話はこれで終わりました。

高校演劇の大会の日がやって来ました。自分達の出番を終えた後、わたしは観客席に戻って他の高校の公演を途中から観る事にしました。後ろのドアをそっと開けて中へ入り、立ち見をするべく壁沿いに歩いていると、突然後ろから肩を叩かれました。先輩でした。「お疲れさま」の小声に軽く会釈をすると「この間の話の続き。何かを選ぶと何かを犠牲にしなきゃいけないけど、逃げる事は全然悪い事でも恥ずかしい事でもないから。辛かったらそういう道もあると思って」とのアドバイス。それから「後、顧問には頭下げてきたから」と片手を差し出され「コッソリなら手を繋いでもいいって」という言葉が続きました。わたし達は薄暗いホールの中で手を繋ぎ、舞台の上のお芝居を観ました。ただ恥ずかしさと嬉しさとで内容の方はちっとも頭に入って来なかったです。もうずーっとニコニコしてたからね。

結局わたしはその後いじめに耐え切れなくなって不登校になるのですが、内から支えてくれたのが以前書いた同じ不登校の友達だとしたら、この人は外から支えてくれた人です。精神的にまいっている人間の相手をするのは大変だったろうによく付き合ってくれたよね……。今こうして懐かしい思い出を書いていても、改めてとっても素敵な人だったなあと思います。
 
拍手してくれた方々どうもありがとね。

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