広げた傘、ぶつかる雫。
今日は憂鬱な雨…。
空を見上げれば薄黒い雲。でも嫌いではない…。傘は邪魔だけど傘も嫌いではない。
片手に傘、もう片手には…ペンダント。結局下げてしまった…不思議なペンダント。
昨日の事が頭をよぎる。
いつもの道も雨や…そうペンダントを付けている気分のせいか、何故か少し…変わって見える。
傘の生地から覗く道路、同じ制服の足が見える。
「ユーイカっ、おっはよー」
どん と手をぶつけてきたのは同級生の瀬八 来耶(せや くるか)。
いつも元気な明るい子…中学の時に転校してきてから一緒。只今恋愛をしたくて恋愛対象をさがしているらしいが、うちの学校には好みのタイプがいないらしい。ちなみに男は外見が第一な思考の持ち主。
「おはよ、元気だねー来耶は…」
「うん
まぁねー♪今日はなんかいい事がある気がするの!占いにも書いてあ…」
「……?」
楽しそうにいつものように一人で喋りまくる来耶。だけど突然私のほうを見て固まった。目をぱっちり開いたまま歩いてた足までとめて。
「…どした?」
思わず私も止まった。来耶の傘の中を覗きこむと、来耶は私の肩にポンと傘の持っていない方のあいた手をのせ
「…なぁんでおしえてくれないのーっ!」
「……は?」
「彼氏?彼氏?
彼氏でしょーそのペンダント!」
にこーと楽しそうにまた口を動かし始めはしゃぐ来耶を私は冷めた目でみていた。彼氏…ってあなた…。最近の奴はみんなちょっと何かあるとすぐそうやって恋愛に結びつけて まぁまぁまぁ…。
我ながらちょっと婆臭さを感じつつあまりの呆れにため息がでた。
「あのね…私がそんなの作ると思う?男には興味ないしーむしろ見ている方が素敵だわ」
一瞬にして頭の中で男同士の像をした私はもう末期だと思った。そもそも自分が恋愛するなんて思えない。
自分の思い通りに行かないのは大嫌いだし、男ならやっぱり…ロマンチストでナルシストでそれが似合っちゃうぐらいの器じゃなきゃね。
まぁバーチャルな話しだけど。
「だってー珍しいじゃん?それ買ったのー?ユイカがそーゆー趣味なんて知らなかった。」
「変な言い方しないで。…貰ったの。」
またスタスタ先を歩き始める私。えーつまんないーなんてブーイングしながら来耶が後ろをついてくる。
また
小走りで近づいてきた来耶が私の顔を覗き込んできた。ニヤニヤしてなに企んでんのか考えたくないような顔で…
「…彼氏?」
「しつこい。」
ぐぐっと顔を押し返してやった。
“カミさま”から…なんて言いたくないし、言う必要もない。
今日の登校はしつこいほどペンダントは彼氏からでしょと言う固定概念に当てはめられそうになりつつ終わった。
もう学校につく前につかれちゃったよ…朝から本当に元気だよね来耶は。
まぁ…長所であり短所であり…ってとこかな…。
そんなこんなで見慣れた教室。あーあ掃除してんのー?なんて思うくらい汚い黒板。
………が…今日は綺麗…。ちょっと驚いて立ち止まった。
「…ごめん…どいてくれるかな…?」
入り口で黒板をみて固まってた私に後ろから声をかけてきたのは花瓶をもった縁大 澄清(えにしひろ すみきよ)くん。
「あ 澄くんおはよー!」
にっこりハイテンションな来耶がつかさず挨拶して、少し困り気味に縁大くんにおはよ…とか返されたりして。
ごめんという間を逃したけどとりあえず道をあけた。
「…今日縁大くんが日直かぁ…だから黒板が綺麗なんだ。」
縁大くんは生真面目で結構神経質な性格。花瓶をもってるあたりから、日直は毎朝花の水換えをしなきゃいけないから日直だってわかる。縁大くん日直の時は一限の先生も結構機嫌がよくなったりする。
やっぱりなんでも綺麗が一番だよね。
なんて事はどうでもいい。
とりあえず、席についた。ホームルーム始まっちゃうし。
私がつく時間は毎日ギリギリ…だってさ、ゆとりがあるのってなんか好きじゃないんだもん。どーせ早くきたって何もしないし。
そういえば、教室に来るまでにも何回かペンダントについて声をかけられた。
やっぱり目立つかなぁ…なんてペンダントを見てると毎日聞いてるチャイムがなって、先生がぴったり入ってきた。
月曜だって言うのにダルいな…雨だし。
唯一いいのはやっぱり黒板が綺麗な事かなぁーなんてね。
つまんなそうに頬杖ついて窓の外を見る私…。薄暗い空はずっと向こうまで続いてる。窓の外見るの好きなんだよねーでも窓際二番目。
いつも隣の席の子見てるなんて思われてたら大迷惑だな とか考えるけどやっぱり癖なのか外はみちゃう。
いつも違う事を考えて先生の話しなんか聞いてないけど、周りが妙にざわめいた。思わず教壇に立つ先生を横目でちらりと見る。
すると隣の席の守夜 馨(かみや かおる)くんが私のほうを見て
「転校生だって」
っとにっこり笑った。
「転…校生……?」
守夜くんの笑顔を見ながら、やっぱこの子は受よね…!なんて忌々しい事を考えつつ気になった単語を繰り返した。
この時期に?変なの。
転校生って言う展開は確かに萌るけど、実際はどうって事ない行事なんだよねー小説とかアニメとかだったら転校生は不思議な力をもった人とかさぁ少女漫画的にはイケメンとか金髪のハーフとかがベタだけど、現実はなんかちょっと変わり者っつか癖のある人?とかだったり女の子だったら嫌われるタイプか気が強いタイプ。展開的に弱気でけなげな可愛いってのは無い。男だったらくそワックスバリバリの奴か真面目でひょろいとかさえない奴か、気がよわそうな奴か…ともかく女の子きゃー!みないなのは絶対に…
教壇を見つつ“転校生”と言う単語だけど頭の中でぐるぐる解析していた私はドアの開いた瞬間、頭が真っ白になった。
「…あ………」
有り得ない…ッ!!!!!
バッと私はすぐに机に伏せた。
なんなのなんなのなんなのなんなの…なにあれ…なんなの!!
ききききき金髪…!!白い肌、パッチリとした二重、通った鼻筋、薄い唇、しかも………青い目!!!
制服がなんか別のものに見えるぐらいの今までに見たことのないようなルックス!!変、気持ち悪い!!狂ってる!!!!
ゆっくり私はまた顔をあげた。綺麗な黒板なんかもうすさんでみえちゃう。
目の前に非現実的な生物がいる…一瞬パニックになったけど、私はれ…冷静でこそ私なんだから…こんなのにおどろいちゃ…
「……宇碕昴 懐時(うさきすばる かいと)です。よろしく。」
にこりと笑った王子様キャラ。
………しかも…び…び…美声!!!しかもなんてへんてこな名前なの非現実的過ぎて凄く萌える…
クラスの女子なんてあまりの彼の格好良さに黙りっぱなし。私は一人でニヤニヤと金髪少年をみていると彼は前のほうの席に座っちゃった。私は後ろだし…結構遠い…。
ううん、アレとはどーせ関わりなんかもたないだろうし、ここはベスポジよ!!
なにしろ宇碕昴くんは窓側の前から二番目!私の席からは見やすい…!!宇碕昴くんも受!!いや意外に鬼畜とかでも…ってそうじゃなくて…。
でもまって!!宇碕昴くんの隣って…あの…くっつき魔の龍介じゃない!!
そうねじゃあ龍介が普段からくっつくけど実は裏では受で宇碕昴くんが黒い黒い腹黒鬼畜攻なんて言うのも…!!って…だから違うんだってば…。
なんだかんだ考えてるうちに朝の短いホームルームは終わってた。
案の定、宇碕昴くんの席の周りには女子が山盛りであの容姿だもん。男子も混ざってる。噂なんて広まるの早いし、隣のクラスから、違う学年の人達までもがうちの教室わざわざ覗きに来てたりと、教室は大賑わいで…相変わらず私は自分の席で頬杖をついている。
来耶だってあの山にいるんだろうなぁ…なんて思いながらまた窓の外をみる。
「雨…やんでる。」
なんとなくみればまだ曇ってはいるものの、雨はやんでいた。
あーあ…こりゃしばらくうちの教室うるさいなぁ…なんて思いつつ、私は机から、一限目の物理学の教科書を引っ張り出した。