大きな屋敷の中のひとつの部屋。
私はここから出られない。
もうこの部屋に監禁されて何日が過ぎたんだろう。
日を数えるのが馬鹿らしくなるくらい、沢山の時間を過ごしている。
監禁と言っても、繋がれている訳ではなく、部屋では自由で。
窓だって有る。
でもここは最上階。
見下ろし見えるのは遥か遠くの地上。
落ちたらひとたまりもない。
もう私は、何故閉じ込められているのかさえ思い出せない。
豪華な食事、綺麗な衣服。
言えば何だって与えてもらえる。
私はどうしてここにいるのだろう。
二週間前から、自らをチェシャと名乗る男が部屋を尋ねて来るようになった。
真っ黒な癖っ毛に、黒いネコ耳。
名前から想像するチェシャ猫色では無い男。
彼は出会った時から人懐っこい。
「やぁアリス!」
「この屋敷に可哀想な小鳥が閉じ込められているって聞いたんだ」
「それで侵入したんだけど……、捕まっちゃってね」
「君は猫が好きなんだろう?聞いたよ」
「だから話し相手になってこいと言われてね」
「でも一石二鳥だ。もともと君に会いに来たんだから」
「しばらくここにいるよ。よろしく!」
チェシャはとてもお喋りで。
「今日は何の話を聞きたい?」
面白い話しをしてくれる。
でもそれも今日でお終いだ。
「そろそろ帰って来いって連絡が来てね」
「帰らなきゃならなくなったんだ…」
あぁ そう…
チェシャも私をおいていくんだ。
ここに一人、永遠に。
「帰らないで」
また一人になるのは嫌。
嫌だよ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ…!
「…アリス、泣いているの?」
そうだ、そうしよう。
「ねえ、帰らないよね?」
引き出しから一丁の銃を取り出す。
銃口を窓の外に向け、見える人影を撃ち殺す。
「ねえ、そうでしょう?」
自分の口元が笑っている気がした。
「…ふふ。いいよ」
チェシャはこんな私を見ても微動だにしなかった。
「いいよ、アリス。一緒にいるよ」
それどころか髪を撫でられる。
「でも、ここは窮屈すぎる」
「僕と一緒にここから逃げてしまおう?」
手を引かれ、部屋を出る。
あぁ こんなにも簡単な事だったのに。
「哀れなアリス。君の狂気が大好きだよ」
ED.狂気の果てに