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夏音4



「よく来たねえ」

ひかバアは顔がえらく黄色かった

家から何分ぐらいかかるの


うーん。4、50分ぐらい


あや、結構とおいんさね


まあね


すると
オカンが手招きをした

「ちょっと、」


「なに」


オカンはまずった顔をした
ああ、そうゆうはなし…


「ちょっと、オカンとこ行ってくんね」

そう言って
優しく笑った


ひかバアは、もっと優しく笑って「ほいな」と言った





「お婆ちゃんねえ、内臓のビョーキなの」


「…顔が黄色かった」


「うん」


オカンのはなしは難しかったけど
簡単にいうと、
動脈の血管に石が詰まって、内臓まで血がまわらないらしかった

あとで放っておくと破裂するんだそうだ

脳梗塞の内臓バージョンみたいなのだった


理解したようにうなずいていたけど
うわのそらの動きだった


まさか身内がなるなんて

ドラマみたいだなって
ちょっと思った

でも主役は、俺じゃない
辛いのはひかバアだ





タン、タン、タン

廊下を歩くと薬のツンとした匂いがした

懐かしいなあ

病院は嫌いじゃない
血を抜くのとか、楽しいし
楽しいっていうか、自分の血を見ると人間すごいなあって


カコン、カッコン


前から、高校生ぐらいの男子が松葉杖をついてひょこひょこ歩いてきた


カッコンカコン、

ガタンッ

カコン…カコン…


睨まれた
じっと見過ぎたか


まだ松葉杖になって日が浅いのだろう


男子高校生は息を切らしながら、必死にエレベーターへ向かっていった



俺も、一昨年まで高校生だったのになあ

きっと、背丈が同いじぐらいの俺をみて、劣等感を感じたんだろうと思う

誰か知らないけど、がんばれ

夏音3



彼女からのメールが来なくなった


ぐるぐるぐる
頭の中で考える

もう2週間もメールの返事がないし、
無論会ってもいない

ぐるぐるぐる


俺なんかしたかなあ、

誕生日すっぽかしたとか

ああでも、9月だったはず確か

ぐるぐるぐる


俺も仕事があるし

ぐるぐるぐる

仕事が、あるし



じゃあ
明後日は日曜日だから、家に直接出向いてみよう

よしきめた



Yシャツに安いアイロンをかけながら、今日から明後日までの予定をきめた


明後日はまたたくさん遊ぼう
また終電をわざとサヨナラしよう

近ごろできたカレー屋にも行ってみよう
おごろう

ペットショップとかも
いいかもしれない
あれ、たしか猫すきだったはず
嫌いなんだったっけ

まあいいか、
そのとき聞けばいい



「ぴるるるる、ブーン、ぴるるるる、ブーン」


咄嗟に鳴った電話に
瞬間的に彼女だと思った


うわさをすればなんたら〜

胸を張らせながらディスプレイを見ると、オカンだった

ぴるるるる…、ぴっ


「…なんでやねん」


『なんやねん、出るなりいきなり』


「タイミングが非常に悪い」


『誰もあんたのタイミングなんかに合わせないわよ』


「で、用件なに。また仕送りの?」


『ああ、ちがうちがう。2時間くらい前に婆ちゃんが救急車で病院に運ばれて』


「ええ!ひかバアが?」


『そう。なんだか体調悪いの我慢してたらしくて』


「だから酒やめろってゆったんに」


『ともかく明後日が手術だそうだから、今日にでも出向いて励ましてやって。相当緊張してるみたいだから』


あ さ っ て


「おう――会社に電話入れてから行く」


ぷつん、



会社には遅れると電話を入れたが
大分珍しがられた

たしかにめったに遅刻や休むなどのことはなかった


んと
今日はともかく、

あさって



こういうときは
どちらを優先すべきなのだろう


アイロンのコンセントを抜いて、
ぐるぐる巻きにしてから
家を出た

夏音2



ざしゅ、ざしゅざしゅ

ざしゅ、ぱきっ、ぽきん


砂浜はよく見ると、花火のゴミがあちらこちらにあった

どこで買ったのだろう

それとも去年のなのだろうか



「もっと速く」


「こけるぞ」


「あー、それは嫌」

ざぱーん

ざしゅ、ざしゅ…
真夜中の浜は、意外に明るい
都心の街灯が波に当たって反射するからだ

ぼんやりと影んだ一つの大きな黒は
月に刃向かうようにだんだんと進んだ


「夏になったら花火しよう」

花火しよう、
よしきめた


すると
彼女は頭を押し付けながら

うん

と、か弱く返事をした


「約束ね」

うん、


「指切り」

うん、


「花火めっちゃ買おね」

うん、


彼女は「うん」しか言わなかった




その日はおぶったまま
家まで送った


アスファルトはひどく歩きやすかった






--------------------



「ブーン、ブーン、ブーン」

びくっ

頭は動かさず、枕から時計に目をやると、午後4時だった

まる半日は寝たかな


「ブーン、ブーン、ブーン、ブッ」


誰からのメールだろう


ディスプレイを覗き込むと、彼女だった


【無題】
「昨日というか今日はお疲れ様。ハイパー楽しかったよ
夏がハイパー楽しみだなあ


今の時間にメールするということは
彼女も今起きたのだろうか

それを想像してくすりと笑った



ハイパーって最近ハマってんのかな




カコカコカコカコ…


【Re:】
「ハイパー絶対行くんだかんね!」



ぱたん


お腹空いた

そう思い立ち上がると、下半身全体が筋肉痛だった

夏音


「海にいこう」

海にいこう、
よしきめた




そういって手を離さなかった


終電はたった今ホームをサヨナラした

目の前で終電を逃すのはこれが初めてではなかった




ザー…

さわさわさわ…
ざっぱーん



「やっぱり寒いじゃん」


「え〜、キモチーよ」


「なにゆってんの。まだ6月なのに、暑がり」


「花火しよっか」

花火しよう、
きめた




近くのコンビニへ走った

結果、そんなに近くなかった上に
花火はまだ置いていなかった





「おかえり」


「花火なかった」


「え、じゃあその袋はなに」


「なかったから、シャボン玉買ってきた」


「…店員さん変な顔してたでしょう」


「なんかジロジロされてた気もする」


「あはは」



シャボン玉は風が強くて、とばしてはすぐ居なくなる


それでも夢中で膨らました


「痛っ」


「どしたの」


「割れたシャボンの液が目に入った」


あはは、と笑いながら
彼女は何故か腰を撫でたのを、見逃さなかった



あ、

「いいこと考えた」


「え?」


「シャボン玉で花火しよう」


そういって、
ストローで小さなシャボンを膨らまし、それを下へ向けた


「線香花火。先に落ちた方が負け」


「あは、ナイスアイディア。罰ゲームは?」


「うーん、と、じゃあ負けた方が砂浜をおんぶで歩く」


「重いって!」


「もうきめた」


「…絶対負けん!」



同じ大きさに膨らまして、「よーいスタート」の合図で始まった

風向きを背にして



彼女が言った

「線香花火って、切ないね」


「…たしかに静かだけど」


「そうじゃなくて」


あはは、と笑って
「人の命みたいじゃん」

と目を細めながら言った


「またそんなマンガみたいなこと言う〜」


「や、マンガとかじゃなくて、今思った」


「なんで」




「だって、
火種と同時に生まれて
だんだん大きくなりながら
だんだん弾けてさ、
だんだん静かになって
最後は、じっと自分の重さに耐えて
音もなく落ちるのって」

「…長生きさせればいいじゃん」


「うん、」


彼女は酸素をたっくさん吸い込んで

一言

「それでも、必ず落ちる」




ポタ…ポタ…



彼女のシャボンから液がしたって、砂浜の色を濃くしていた


まるで彼女の代わりに泣いているようだった




「っあ」

そして、瞬間的に、彼女の線香花火が、もといシャボン玉が落ちそうになるのをみて


俺は焦って自分のストローを揺らし、シャボン玉を落とした


2つとも
音は無かった





「同時…?」


「いや、俺のがちょっと早かったかも」


彼女におぶらせるつもりがなかったのもあるけれど、

彼女が話した命の説が頭にこもって、
彼女の命とシャボン玉が重なって見えたのだ

彼女の命を
先に落としたくなかった






「やーい、おぶれ」


「しかたねーなー」

逆再生



零れる声を
叫ぶ吐息を
つかまえてつかまえて
後ろの正面?
正面を前だと思う思想家は
もはや三歳児を残すのみとなり
蜃気楼は只の陽炎と化し



真実信じず真実信じず真実信じず真実信じず

目に視える真実を信じずに
なにがおとぎだ?
嘘があるからの真ではないだろう
なあそうだろう

幕が閉じては開き
りんごをかじりかじりまたはガラスの靴をバツジルシで落とすのかい
さあおゆうぎかいのお始まり


うまくれんしゅうしたものね
はくしんのえんぎをみせてよね
零れる吐息
叫ぶ声

なにかかんちがいをしていないか



▲巻き戻しなんて



後ろの正面は前だと
現代はドウナッチマッタンダ
理解に苦しむ
なにに正夢をのぞき込んでいるんだろうか

口虚?
ちがうね
こちらが真実だね
それと同時に正面だ

振り向いたのはあなたがたでしょうに


どうだい、想像創造物に飲み込まれるごきぶんは

ごきげんはいかが





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