話題:名前変換無し夢小説。
注意書き
・1、2から続いてますが閑話的です
・tiktokで男兄弟にヘアゴムを渡してポニーテールをさせてみた的なのを見て思いついた話
・双子の見た目は映画版です
・16歳が精神的にどれくらい成長しているものかよく思い出せないので、年齢に似合わず説教臭かったらごめんなさい
・私は男女の友情は成立する派です
・まだ続きが書けそうです
よろしければ追記からどうぞ。
拍手とかから気軽に感想頂けると嬉しいです!
提出期限が近いレポートのために調べ物をしたくて図書館にいたら、やっぱりジョージは現れた。何日かに1度こうして夕食後の時間を一緒に過ごすことにも慣れて、もう驚くことはなくなった。
知りたかったことを大方調べ終わって伸びをしたついでに、向かいに座って真面目に課題を片付けているジョージを観察する。
「ねえねえ」
「ん?」
あることが気になって話しかけると、ジョージは顔を上げて私を一瞥した後すぐに視線を手元に戻した。
「髪の毛すごく伸びたね。邪魔じゃない?」
「まあな」
「ポニーテールにできる長さだよ」
「そうかもなぁ」
ジョージは一応相槌を打ってはいるものの、話の内容に全然興味がないことを隠す気がない。テキストのページを行ったり来たりしながら何かを書きとる作業に集中している。
スリザリンの生徒の「キス目撃事件」からもう何か月か経っていて、私に対するジョージの態度はかなりくだけたものになってきた。悪く言えば少々雑。
でも私にとっても彼はそんなことを気にする相手でもなくなっているので、構わず話を続けるために、自分の髪の毛をハーフアップにしていたヘアゴムを外してジョージに差し出した。
「はいこれ」
ジョージは眉をひそめて首を横に振った。いらないって言いたいんだろう。
「結んでるところ見てみたい」
今度は心底面倒くさそうな顔をしてため息を吐かれる。
「レポート終わってないみたいだけど?」
「休憩は大事だよ。結んでみて」
私に諦める気がないのを察したのか、ジョージは渋々それを受けとって、ガシガシと髪をまとめ始める。
ワクワクしながら待っていると、様子がおかしい。頭の後ろでゴムに髪を通したところからジョージの手が止まっている。
「?できない。緩いよこれ」
「え?男の子ってヘアゴムの使い方知らないの…?」
ねじってもう一度髪の毛を通すんだよと口頭で教えてみても、埒が明かない感じだ。
かなり衝撃を受けたけれど、できないものは仕方ない。だけどポニーテールを見てみたい気持ちは収まらないので、席を立ってジョージの後ろに回った。
髪に触れてもいいか確認すると、ジョージは半ば呆れで目を回しながら頷いた。頭の上下左右から手を差し入れて彼の髪を後ろに流す。自分のとは違ってしっかりした質感の髪と地肌から感じる体温に、少しだけ不思議な気分になった。
「できた」
向かいの席に戻って、まじまじと見てみる。
右側から左側から、近くから遠くから。なるほどね、と私の口からこぼれたところでジョージはため息交じりに言った。
「満足ですか?」
「なんていうか…別に短髪の時と印象変わらないかも」
正直な感想を言うと、ジョージはイラっときたのか、素早くゴムを外してあらぬ方向に飛ばした。お願いしておいて今の言い草はさすがに失礼だったかなと反省しながら、十数歩ほど離れたところに落ちたそれを目がけて歩く。
いくつかの机を通り過ぎた先で体を曲げてそれに手を伸ばす前に、どこからか現れた男の子が先に拾い上げて手渡してくれた。
カジュアルにお礼を言って踵を返そうとしたら、その男の子に名前を呼ばれた。
どうして私の名前を?
彼の表情を見て察する。ああ、またこの感じ―。
ゴムを拾ってくれた男の子との会話を終えてジョージと座っていた机に戻ると、フレッドがいた。
「ただいま。フレッド、そこ私が座ってた席」
「ジョージの横が空いてるぞ。さっきのレイブンクローの奴は何だって?」
仕方なくジョージの隣に荷物を動かして、座り直しながらフレッドの質問に答える。
「彼氏がいるかって聞かれた」
「いないって言った?」と、フレッド。
「うん…でもそうしたらホグズミードに誘われて―」
「誘われて?」またフレッド。
「困った…」
「困ってるわりに顔が赤いぞ」と、ニヤついているジョージ。
そんなこと私が一番わかっている。何なら、少し汗ばんでいる気もする。
大体、ジョージが私のゴムを変なところに飛ばすからこうなったのに。
「困ってるの。だって、私に少しは気があるってことでしょう」
「そりゃもう、少しどころじゃないかもな」と、同じくニヤついているフレッド。
「やめてよ…実は、ジョージと仲良くなってからこういうの、たまにある」
「ジョージのおかげ?」
「おかげっていうか、ジョージが目立つから私も人の視界に入るようになっただけだと思う。要は冷やかしだよ」
黙ってしまった2人に見つめられて居心地が悪い。というか、私はどうしてフレッドにまでこんなことを話してしまっているのだろう。
ジョージと仲良くなった今でも、フレッドと話す機会はそう多くない。当然、以前と比べればよく話すようになったけれど。
こうして見てみると、2人は間違えようのないくらい違う顔をしているのだと分かる。一見そっくりだけれど、目も、鼻も、口も、違う。フレッドは意志の強そうな凛々しい顔。ジョージは、余裕を感じさせる優しい顔。別の人間だから違うのは当たり前なのに、改めてそう思った。
フレッドの声で思考が現実に戻る。
「ふーん、つまり、よく知らない奴に言い寄られても困る、と」
言い方に多少引っかかりを感じたけれど、どんなに理屈をこねても簡単に言えばそういうことなので、渋々頷いた。
「いやー、モテる女子と仲良くなれて光栄だなー」
ジョージがあからさまな棒読みで言ったことに恥ずかしいやら腹が立つやらで、背中を引っ叩いてやろうと構える。だけど、振り上げた掌はジョージの手でハエを払うように簡単にあしらわれてしまい、目的を果たすことはできなかった。
悔しくて睨みつければ、挑発的な顔で勝ち誇られる。そんな私たちを見てフレッドが言う。
「お前ら2人が付き合ってることにすればいいんじゃ?」
「俺にメリットがないだろ。よく考えてから発言してほしいね」
「そうだよ。大体そういう嘘はよくないし、前にも言ったけどこれは―」
「“健全な友情”ね。はいはい分かってますよ」
フレッドは聞き飽きたと言わんばかりに目をぐるりと回して背もたれに寄り掛かった。
「それで、ホグズミードの誘いはどうした?」とジョージ。
何も言わずに首を横に振る。適当な理由を言って断ってしまったのだ。
「なんで」
2人がそろって身を乗り出して言う。
「その気もないのに一緒に過ごして期待させるなんて不誠実よ」
「別にそんなのみんなやってる」
「アピールするチャンスすら与えないのは不誠実じゃないのかね」
フレッドとジョージが立て続けに言う。
特にジョージが言ったことには自然と視線が落ちる。ジョージと一緒だったキス目撃事件のとき、私はまだまだ子どもで恋愛なんて難しいことはできないのを自覚した。そしてそれから数か月、ジョージが心地よい距離感とスピードで“健全な友情”を育んでくれることに甘えている。会って、話して、楽しくなる。それだけで十分に思えた。嘘や強がりなんかじゃない。
私だって将来は恋愛をしてみたいし、やり始めてから分かっていくことだってたくさんあるだろう。
でも今はまだ、このぬるま湯の中にいたいと思ってしまうのだ。
「知らない男の子の読めない腹を探るより、友達といる方が安心だし楽しいの」
ジョージといる方が、とはあえて言わなかった。困らせたいわけじゃないからだ。
ジョージにもいつか好きな人ができて(もしかしたら今もいるのかもしれない)、今みたいに過ごせなくなるときが必ず来る。
「“安心”ね」
ジョージが私の言葉をなぞった。私はその目に呆れと優しさを認めてから、続けた。
「それに恋愛だけが関係の形じゃないでしょう」
「それは正しい」
正しさで議論を封じ込めることは簡単だ。
でもそれはいつか、自分や大切な人の首を絞めることになるのかもしれない。
そんな大人みたいなことを考えた。