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*躍る胎動(御克)

R BAD ENDING「臆病な純愛」
After short story...










母親と胎児のような、一方は慈愛をあたえ、一方はすべてを委ね育まれる関係。今の私たちはそんな風なのではないかとふと思った。
鎖は克哉を繋ぎとめる臍帯。シーツの波は白い羊水。ベッドは彼を優しく包む子宮。
そう考えると一糸もまとわず、背を丸めて眠る姿は本当に胎児のように見えた。
臆病な感情を胎盤とし、そこに重すぎるほどに純粋な愛を注いでゆく。
私が克哉を閉じこめていることは、彼を新しく生まれかわらせるための過程なのかもしれない。





「孝典さん、」




行かないで、とは言葉にしないいじらしさが私の心をくすぐる。
いつくしむべき存在なのだと、改めて実感する。
そうだ、いつだって克哉は私の大切な――――




「君はそうやって、いつも物欲しそうな顔をしているな」




からかいを込めて髪を梳いてやれば、「欲張りになれといったのは孝典さんです」とむくれるものだから、思わず笑みが零れる。
朝の光も私たちを包み込むように射しこみ、きらきらと笑う。





「そうだな」




克哉が私の指を捕らえて弄んだ。




「そう仕向けたのは私だった」




こうして出勤前のあいさつを交わすのは、たいていどちらも離れ難くて仕方がないときだ。
行かなければいいのに。引き留めてくれればいいのに。そう思いながらも口には出さない。
そんなわかりきったこと、言うだけ無駄だ。




時計の秒針が音を立てて私を急かしている。徐々に昇りゆく太陽が街を照らしている。世界が息を吹き返して、また新しい始まりが訪れる。
ああ、私は告げなければならない。





「行ってきます」





克哉の瞳を見つめると、澄んだ蒼が空をうつす海のように、そして海に吹きつける風のように私の心を映して浪立たせた。





「………いってらっしゃい、たかのりさん」





いつもは愛しく思える色なのに、この朝の一時だけは。あまり長く見ていられないのだ。
それでも覗きこまずにはいられない。その深みに私は魅せられて、ゆっくりと落ちていく。
一度絶望の淵を見てしまった眼には、常に深く暗い闇の色がちらついている。純粋なうつくしさを持つはずの克哉の瞳にも、それは過って翳るのだ。
私は彼の瞳を鏡にして、己の深淵を見下ろしているのだろう。




「朝なんて来なければいいのに」




そして深淵もまた、こちらを見上げているのだろう。





「孝典さんがいれば、それでいいのに」



呟かれた言葉はかぎりなくまっすぐな、狂気を運んで脳髄を蝕みつづけた。




私が彼を捕らえて始まったこの関係は、いつから互いに貪りあうものとなったのだろうか。まったく終わりが見えない。
鎖でつないだのは純粋無垢な存在ではない。欲に塗れ飢えた獣か、はたまた別のなにかか。
もしかするといつしか、二人はぐずぐずと溶け合って何か別の生き物になってしまうのかもしれない。







「今日も早く帰ってくる」









私はいったい、何を生みだしたかったのだろう。






*save our smile(克御)

BAD END「嗜虐の果て」
御堂さんが廃人のままという設定










御堂は美しい、虚無の微笑みを湛えた人形だった
どこをみているのかわからない瞳で、ただにこにこと俺だけに笑いかけていた
そして彼にはその空しい表情しか残されていなかった
俺はそれを恐ろしいと思ったことはない。変わり果てた彼を、否定することもない
俺は過去の残虐を悔んでいた。できることなら償いたいとも思った
だから俺は、彼がどうなってしまっても、見守り続けると決めた
そしてなによりも、彼を――御堂を愛していた。だから恐くなどなかった
罪の贖いと己の願望が綯い交ぜになった、そんな矛盾した理由で俺はここにいた









しかし終わりは、何でもない日の、いつもと変わらない夕暮れにやってくる








「御堂さん、ただいま」





いつもは無条件の微笑とともに迎えられる帰宅の言葉は、寂しく空気を揺らして消える
ベッドに目を向けると、そこには朝に別れを告げたときと同じ体勢で横たわる彼がいた
四肢は投げ出され、瞼は鈍い瞬きを繰り返し、僅かに開いた唇からは浅い息が洩れている
ただひとつ違うのは、そこに微笑がなかったこと
ひとりでゆっくりと、完全な無のなかで生きていること







「そんな、まさかそんなはずは」






思わず零れた呟きに、空ろな瞳が動いて俺を捉えた
俺の瞳の奥を、まっすぐに見つめていた





「みどう、さん………っ!」




それは喜ぶべき兆しなのかもしれなかった
しかしその時の俺の胸の中に、喜びという感情は存在しなかった
ただ苦しくて苦しくて、どうしたらいいかわからない
俺は瞳の奥を覗きこもうとして、ふと躊躇った
急にその行為が恐ろしく思えてきて、俺は目を背けた
そして、耐えられなくなった
俺は部屋から逃げ出した
一度も振り返らずに、背中に突き刺さる視線の真意を確かめないままに








それから俺は月夜をあてもなく彷徨った
一人夜の闇を歩いていると、余計に彼のことが思い出され、俺を苦しめた
静かな空気に身を浸していると、いままで自分が恐れていたものがはっきりと、形となって目の前に現れてくるのを感じた
そして自分の愚かさと弱さを知り、絶望した





「御堂さん、こんなに愛しているのに。どうして俺は弱いままなんでしょう」



俺が御堂の絶えない微笑を恐ろしく思ったことがないのは、本当だった
ただ間違っていたのは、その理由は『俺が彼を本当に愛しているから』だと思い込んでいたこと
それが勘違いだったことが、微笑みの消滅をもって証明されたのだ




俺はただただ微笑んでいる御堂に、いつの間にか安心を覚えていたのだった
空虚に変わり果てた彼を、どこか諦めを含んだ眼差しで見守り、そしてそんな彼を愛せるのは自分しかいないという甘い恍惚に、溺れきってしまっていた
しかし笑みの消えた、まっすぐ俺を見る御堂が、俺を愚かな耽溺から救い出したのだった



微笑の消滅、それは彼が意思を取り戻すことの予兆だったにちがいない
そしてそれは俺の願いだったはず。しかし実際に直面してみると、新たな罰がそこにあるような気がしてならないように思えた
だから俺は御堂をまともに見られなかった


俺は――心の底で、御堂が意識を取り戻して、俺の罪を責めるのを恐れていたのだ
もし彼の瞳の奥に憎悪の色を見てしまったら?拒絶されたら?いったいどうすればいい
もう彼なしでは生きていけなくなってしまった俺は、いったいどうすれば?







「くっ――――あはははははっ、なにをいまさら」





俺には逃げる場所も、閉じこもる殻も残されていないのだから、行き着く先など決まり切っていた
大きく息をついて、いつのまにか止まっていた歩みを再開する
景色はすでに光を纏いはじめていた
仄明りに照らされる道の先は、まだぼんやりとしか見えない








この先には、何が見えますか?
嘲笑
微笑

愚かなる戯れ(克克@四月馬鹿)

today is April 1st










「なあ、俺?」




「何だ」




「だいすきだよ」




「…………」




「…………」




「……おい、オレ」




「なに?」




「カレンダーの前に立って言っているのは、わざとか」




「……さあ?」




「…………」




「…………」




「……おい」




「へ?」




ちゅ




「っ……!」




「俺のこういうところが好き、なんだろ?」




「そ、そんなわけあるか!ってちょっ、まてよ俺!」




「ということは、待たずに特攻していいんだな」




「ちがっ……やだ、……触るなって!」




「そんなにいいのか?わざわざお前の意図を汲み取ってやってるんだ、せいぜいいい声で啼けよ、オレ?」




「わかった!オレがわるかったよ……だから許し、て……んっ!」




「許してなんか、やらないさ」




「……っ!じゃ、じゃあ許さないで!」




「お望みのままに」




「ちょ、どっちにしろやめてくれないのかよ!?ってうわっ、服を脱がせるなあーーっ!」












Is this happy April fool's memory...?


*飽和(眼鏡克哉・松浦)

CAUTION!
克本BAD「あの日消えたもの」後、ちょっとおかしい克哉さんの話















好奇心は罪ではないと、どこかで誰かがいっていた気がする。では本当の罪とは、いったい何なのだ
きっとそれは、中途半端な好奇心だ。少なくとも俺と本多の関係において、それは罪にあたるといえる
だがその罪を贖うことを、俺はできずにいる
つまらない日常をすり抜けながら、ただ模索する
たとえば、「なぜあの時の俺は“一歩踏み込む”という選択を取らなかったのか」という問いかけに対する答え。止められるはずの悲劇を傍観した、その理由を求めている







「お前はどうして本多を殺さなかったんだ?」







聞いても何にもなりはしないと、わかっていた
今となってはもう遅い、純粋な好奇心
口にしてしまってからは、その愚かさがさらに身に染みて痛く感じられた


そして俺を嘲笑うかのように松浦は沈黙をつづけている
身体の拘束が無意味に思えてくるほど、彼は無抵抗だった
それでいて、こちらを見上げる眼は暗い水底のような揺らぎを宿して光った
まるでそれは、俺に何かを囁きかけているかのようだった







「あいつはまだ、バレーのことを話すか?」








突然松浦が問いかけた
俺はどきりとした。あの倉庫での一件以来、本多はバレーのことを口にすることはなくなった
昼休みに屋上から聞こえる歓声や、時折空に舞い上がる白をみつめることはあった
しかし、それに参加できない自分を嘆いたり悔やんだりすることはなかった


むしろあれ以来、俺は本多が悲しみにくれる姿を見たことがなかった
もしかしたら彼の心から、悲しみの感情が抜け落ちてしまったのかもしれなかった
かつての底抜けに明るい笑顔が、失われてしまったのと同じように








俺の表情と沈黙を答えと判じたのか、松浦はなにも言わなかった
ただ、声を押し殺して嗤っていた
ゆっくりと、そして次第にぼんやりと、頭のなかにある予感が広がってゆくのを俺は感じた
それは破滅の前兆なのかもしれなかった
しかし俺にもう、歯車を止めるすべはなかった







「あいつは――本多は、昔と全く変わっていなかった」







もしかしたら俺は、あともう一歩踏み出すきっかけが欲しかったのかもしれなかった






「俺があいつを殺せば、あいつは変わらないまま死んでしまうんだろうな
俺たちの苦しみを知らないまま、楽に。俺にまた新たな苦しみを残して」








確かめるように俺は彼の唇を見つめた







「お前が味わったものと同じ苦痛を与えなければ気がすまないから、殺さなかったと?」







歪む頬の筋肉が、口元のほくろを蠢かせて揺らした











「死は最高の苦痛を与えるわけじゃない。そんな単純なものではないんだ。俺は――――」








きっと本多を殺しても飽き足らないから、殺さなかったんだ







飛べない翼を持ち続けたまま、地上を彷徨うことが
仲間の傷を知り、それ以上の痛みを受けて、生きつづけることが贖罪だというのだろうか
それは殺意よりも濃度の高い憎しみ、俺にはそう感じられた
あまりに膨大なそれは、言葉に溶けきらずに溢れだしている
飽和するそれは俺の心に静かに流れだし、そして溶けていった








「それじゃあ俺も、お前を殺してはやらないさ」







そういって俺は、掌で松浦の目を覆った
意味のない苦しみの連鎖は、いまさら止めようがなかった
この胸に静かに息づく悲しみが、後悔が――――
そして矛先のそれた憎しみが俺を赦してくれないから









俺はこいつが憎いのだろうか、殺したいくらいに
それとも、殺しても飽き足らないくらいに?
答えなんてとっくに出ている



俺は憎くて憎くて仕方がないのだろう
誰よりも弱かった、俺自身を――――











殺しても 殺してもまだ 飽き足らぬ
憎い彼女の 横顔のほくろ
夢野久作『猟奇歌』より

この感情の行く先、それは君(澤村→眼鏡克哉)

鬼畜眼鏡R発売前企画
澤村紀次予想ショートショート








この感情の行く先、それは君









克哉は色の白い、美しいこどもだった
そして聡明でありながら、生きるのに不器用だった
例えていうなら、彼は翳りのない真っ白いなにかだ
彼を初めて見たとき、俺はこどもながらにそう感じた
そして克哉を見つめるたび、胸の中に複雑で漠然とした感情が渦巻いた
俺はそれが何かわからずに戸惑った





それでも俺は克哉に興味を持たずにはいられなかった
こんな不思議なやつを見たのは久しぶりだったし、ましてや得体のしれないなにかを俺に抱かせたやつは、こいつが初めてだった
俺は結構何でもできて、同級生からも好かれる人気者だった。だから、自信があった
きっとこいつも、俺の下につく――――――――そんなふうに






あれからもう十数年が経つ
偶然再会した“元”親友の克哉君は、昔と変わらないままだった
俺を凝視するのは、まるで傷を抉られたかのように歪んだ瞳
深い痛みと悲しみで凍てついた、青い色をしている
俺は小学生のとき、いじめに傷ついた彼の目元を拭ってやったことを思い出した
涙を流させた原因、いじめの首謀者は俺だというのに、彼はそんなことには全く気付きもしなかった






「君、眼鏡なんてかけていたっけ」




「…………ああ、一年前からかけている」






彼の表情が、返事に要した数十秒が、すべてを表していた
こいつの傷は開かれたままだ
彼は変わってしまったんだ、俺のせいで







俺たちがはじめて偽りのない関係になった、あの卒業式の日
舞い落ちた涙は桜より美しく、俺の心に深く沁みこんだ
それが何故なのか、俺はやっぱりわからなかったんだけど
でもこうして彼と再会し、あの時と同じ表情を見た今ならわかる






俺はあの卒業式の日、自らの手で下した鉄鎚がもたらす、美しい絶望に心打たれたのだ
真っ白いなにかが薄汚れてゆく。俺の笑顔で、俺の声で、俺の存在で
そして別れは終わりであり、始まりでもあったんだ
いまこうして廻りあえたのも、終わりであり始まりなのだろう






「君に会えて、とても嬉しいよ。克哉君」






心からの言葉を君に贈るよ
だって嬉しいんだ。遠い過去、俺が初めて君を見たときに抱いた感情が何だったのかわかったのだから
あれはきっと、君を素敵だと感じる心と、傷つけてみたい、泣かせてみたいと思う心から生まれた、醜い感情だったんだね
俺は君をいじめてみたくて、君と仲良しになったんだ





「そうだ、これから一緒に飲みに行かない?久しぶりの再会を祝って、さ」





さんざん人を傷つけた加害者が、被害者の前でにこにことしている
なんていたたまれない。哀れな克哉君
でも、俺は君をのがしてなんてあげないよ
だって昔の感情に気づいた今、俺の中にはまた新たな感情が生まれてしまったのだから
俺はこの感情がどんな名前を持つのか、すぐにでも確かめたい








「ほら、そんな顔しないでさ。きっと楽しい夜になるよ」










この胸の高鳴りは、恋に似ていると思うのだけれど。どうかな?











この感情が恋なのか、どうなのか
恋じゃないなら、いったい何なのか
教えてくれもいいんじゃないかな、克哉くん









色の白い 美しい子を 何となく
イヂメてみたさに 仲良しになる
       夢野久作「猟奇歌」より

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